恒。







 「何て言うかさ」

 「え?」

 「付き合ってる感じがしなくない?」



1時間目が終わったあとの休み時間に、ナミは前の席のビビにそう愚痴を零した。
机の上で開いた雑誌をぼんやりとめくりながら、溜息をつく。
ビビはきょとんとして、それから教室前方のロロノア・ゾロの席へとちらりと視線を向ける。



 「でも、お互い告白して、お付き合いしてるんでしょ?」

 「そうだけど」



今までずっと『友達』であったナミとゾロは、ついに『恋人』になった。
それまでも周りからみれば十分『友達以上』ではあったのだが、ようやく正式に付き合うようになったのだと、
ナミが嬉しそうにビビに話したのがつい先日のことだ。

それなのに、今日は不服そうな顔で『付き合っている感じがしない』と愚痴っている。



 「今が一番ラブラブなんじゃないの?」

 「んーー、ラブラブとか無いし…何か、別に変わんないのよね…今までと」

 「そうなの?」

 「うん……あ、この映画もう始まってるんだー。行こうよビビ」



ナミはページをめくっていた手を止め、ふいに話題を変え映画情報の欄を指差して顔を上げた。
指を目で追ってビビもそのページを覗き込んだが、「あー…」と声を漏らす。



 「ごめんなさい…それ、もうルフィさんと行く約束を…」

 「えー、そうなの?」



両手を顔の前で合わすビビにナミは残念そうにそう答えて、だがすぐにぱっと顔を明るくした。
雑誌を置いて立ち上がり、教室の前方へと駆けて行く。



 「ゾロ!」



外に出ていたらしく、自分の席に戻ってきたゾロにナミは声をかけて近づいた。
椅子に腰を下ろし、ゾロは走り寄ってきたナミを見上げる。



 「ねぇねぇ、映画見に行かない? こないだ言ってたヤツ」

 「あ? もう始まってんのか?」

 「うん、先週からだったみたい」

 「でもお前、ビビと行くんじゃねぇのああいうのは」



ゾロは答えながら、手にぶら下げていたビニール袋を机の上に置いて中を漁る。



 「ビビはねー、ルフィと行くんだって」

 「あー、なるほどな」

 「…ねぇ、それ朝ごはん?」



ビニール袋からは、売店で買ってきたオニギリがごろごろと出てきた。
じっとナミが見下ろすうちに、ゾロは一つ目のオニギリを開けて豪快にかぶりつく。



 「早弁」

 「まだ1時間目終わったばっかよ? もうおなかすいたの?」

 「成長期なんだよ」



ゾロはもぐもぐと口を動かしながら器用に答え、早くも2つ目のオニギリの包装を剥がしにかかっている。
それから、その三角の天辺から再びかぶりついた。



 「中身は?」

 「あ? これはー…エビマヨ」

 「ふーん……」

 「……いるのか」



ゾロはかぶりつこうとしていたオニギリを、口元から離してナミを横目で見る。



 「いるなんて言ってないわよ」

 「モノ欲しそうな顔してんぞ」

 「失敬ね! でも見てたらおなかすいてきた」



怒った顔からコロリと表情を変えて、ナミはじぃっとゾロの手を見つめる。
その返事にゾロは苦笑して、食べかけのオニギリを差し出す。



 「ホレ」



ナミは嬉しそうに笑って、ゾロが持つオニギリにかぶりついた。
立ったままの状態では、差し出されたオニギリにかぶりつくには微妙な角度で、
目測を誤り唇の端にぶつかったが、どうにか具も一緒に食べる事が出来た。



 「ん、おいしー」



満足気に口を動かすナミの顔を見ながら、ゾロも笑って残りを自分の口に放り込んだあとその手を伸ばし、
ナミの唇の端に付いた米粒を指でつまむ。
そのままナミの唇に押し当てると、ナミは軽く口を開いてゾロの指からその米粒をついばむようにして食べた。



 「全部食われるかと思った」

 「あんた本当失礼! ね、それじゃ映画、今週の日曜でいい?」

 「あぁ」

 「よーっし、じゃ決まり。 ごちそーさまでしたっ」



ナミは機嫌よく笑いながら、ビビの待つ自分の席へと戻った。








 「………ナミさん」

 「え?」



一部始終を見ていたビビは、満面の笑みで腰を下ろしたナミを見つめて、にっこりと微笑んだ。



 「あのね、心配いらないと思うわ」

 「え?」

 「十分、ラブラブ」



きょとんとするナミがあまりに可愛かったので、ビビは思わずその頭をよしよしと撫でた。
大人しく撫でられながらも、ナミは怪訝な顔をする。



 「何?」

 「だってね、元々ラブラブだったもの、2人とも」

 「………」

 「ね?」




次第に真っ赤になっていったナミは、俯いて小さくうんと呟いた。





溢。』の続き。

ちなみに『渡。』→『応。』→『結。』→『溢。』といった流れになっております。
もうどんな2人だったか記憶が…(笑)。
オチが弱いのが気懸かりですが、限界でした(汗)。
とりあえず、前の話でようやくひっついた高校生のゾロナミ、という前提さえ知っていていただければ…。
それを後書きで言う意味は無いけども!
そして映画に誘うナミさん、てのは前にも書いた!
でももういい!(逃)

春さん、これでお許しを!

小話 / TOP

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送