溢。









 「おれと付き合わねぇ?」





放課後の誰もいなくなった教室で、目の前に立つ男からそう告げられた。

ナミはどうしていいか分からず、うっすらと頬を赤くして戸惑っていた。










告白してきたのは、隣のクラスの男子生徒だった。
名前は何となく知ってはいるが、話をしたことはない。

髪を茶色に染めてズボンをだらしなく下げたその男は、
だがやはり照れているのか、少し顔を赤くしてナミをじっと見ている。



 「ロロノアとは付き合ってないんだろ?」

 「ゾ、ゾロとは……」



ゾロの名前が出てきたことで、ナミはさらに顔を赤くする。

今までも何度か手紙で呼び出しをされたことはあった。
そういうときは心の準備をして行けるので、動揺することもなく断れていたのだが、
それも最近は無くなっていた。

ロロノア・ゾロと付き合っている、と。
周りがそういう風に誤解をし始めたからだ。

付き合っているのかと聞かれれば、それは真実ではない。
だがナミはそれを全力で否定することはできなかった。



委員会で遅くなったこの日、一人残った放課後の教室で帰り支度をしていたナミは、
ふと気配を感じて振り返った。
ゾロが待っていてくれたのだと思ってその名を呼ぼうとしたが、
目に入ったのは全く違う人物だった。
教室に入ってきた男は、少し戸惑ったあとナミに告白をした。
もちろんナミは断るつもりだった。
だがこんな風に唐突に告白されると、さすがに心の準備ができておらずつい動揺してしまう。





 「あの…」

 「それとも、他に好きなヤツいんの?」

 「…………あ、」

 「?」



男に問われて顔を上げたナミは、その肩越しの人影を見て思わず声を漏らした。
その男も釣られて振り返り、教室の扉のところに立っている人物を目に留めた。



 「………ゾロ」

 「…………」



ゾロは腕を組んで、扉によりかかりじっとナミとその男の姿を睨んでいた。
その顔は普段の目つきの悪さを差し引いたとしても、誰がどう見ても怒っている。



 「…な、何だよ、お前らつきあってないんだろ?」

 「………」



男はそう言うが、ゾロはそれを無視してナミをじっと睨む。



 「……ちょっと、何か言いなさいよ」

 「あ?」



ナミの口調も何故か機嫌の悪いものになり、ゾロは片眉を上げた。



 「否定するなり認めるなりしろって言ってんの!」



ナミは声を張り、その剣幕に思わず男は後退さった。
だがナミはそれに気付かず、赤い顔をはどこへやら険しい目でゾロを睨み続けた。



 「…お前も答えてなかったじゃねぇかよ」

 「…も、ってあんたいつからソコに居たのよ」

 「その男の声がでけぇから」

 「おれのせいかよ!」

 「うるせぇだまっとけ」

 「………」



2人の機嫌の悪さはよく分からないが自分の話になったようなので割り込んだだけなのに、
ゾロにギロリと睨まれて結局男は身をすくめて黙りこむしかなかった。

ゾロとナミの間に何故か火花が散る。
自分の存在をすっかり忘れ去られているようで、しばらく待っていた男は声をかけようとしたが、
2人の間には一部の隙もなかった。

仕方なく教室を出て行った男だが、2人はそれにすら気付かなかった。





 「……大体あんた、何なのよ」

 「何が」




ナミは俯き、小さな声でボソボソと呟く。
それでもしんとした夕暮れの教室ではゾロの耳にもしっかりと届いた。



 「指輪くれたり、手繋いだり」

 「………」

 「何考えてんのか全然分かんない」



俯くナミの姿をじっと見つめて、ゾロはガシガシと頭を掻いて小さく溜息をついた。



 「……奇遇だな、おれもだ」

 「…本当、何なのよ………」

 「…………」



ナミは俯いたまま、ぐすっと鼻を啜る。
それに気付きながらも、ゾロは一歩を踏み出せないでいた。



 「………ゾロ」

 「何だ」

 「私たちが付き合ってると思ってる人が、どれくらいいると思う」

 「……さぁ」




うっすらと瞳を潤ませて、顔を上げたナミはゾロを見つめた。
その視線を逸らすことができず、ゾロもじっと見つめ返す。



 「そういう人たちに、本当はどうなのって聞かれたらあんた何て答える気」

 「聞かれたこと無ぇ」

 「……私、結構聞かれてるんですけど」

 「ふーん」

 「あぁそうねあんた顔怖いもんね」

 「うるせ」

 「…じゃなくて! 何て答える気なのよ!」



危うくいつもと同じ会話のペースになりそうで、ナミはぶんぶんと頭を振って声を上げた。
もう一度鼻を啜って、キッとゾロを睨む。
だがゾロが先程よりもさらに不機嫌そうな顔になって「お前は?」と聞いてきたので、
ナミは続く言葉を出せずにきょとんとした。



 「お前は何て答えてるんだよ」

 「………何て答えて欲しいの」

 「………」

 「………」



沈黙が訪れ、2人の間に再び見えぬ火花が散る。



 「……あーーーーもう! 全然話が進まない!」

 「同感だ」




ナミは髪が乱れるのも気にせずにがしがしと頭を掻き、それからビシリとゾロに指を突きつけた。



 「あんたのせいよ!!」

 「…何がだよ!?」

 「男でしょ! はっきり言いなさいよ!!」



そう叫んだナミの目から、耐え切れなくなった涙が零れた。
ナミはごしごしと目元をこすって、「もうやだ何なのこいつ最悪」とブツブツと呟く。

チッと舌打ちをしたゾロは、一歩を踏み出して大股でナミの正面まで近づいた。


そのまま両腕でガバリと抱き締める。



ナミはびっくりして声を上げることも抵抗することもできず、固まっていた。

ぎゅうぅっとナミを抱き締めたまま、ゾロは耳の後ろを赤くして「ちくしょう」と呟いた。



 「……な、なにがちくしょうなのよバカ!!」



ナミは真っ赤になって、恥ずかしさを誤魔化すために声を張る。
じたばたと暴れてみても、ゾロの力にはかなわずその腕から逃れることはできなかった。

うーーっと小さく唸ったゾロは、少し顔を曲げてナミの耳元に口を寄せる。



 「……………」

 「え」



ナミが再び固まると、ゾロは自分の胸からナミを剥がして、さっさと教室から出て行った。




 「………、て、ちょっと!!!」




呆然としていたナミはハッと我に帰り、慌ててゾロの後を追った。









 「ちょっと! ゾロ!!」

 「…………」



声は聞こえていたが、ゾロは立ち止まらずに早足で廊下を歩いていく。



 「待ちなさいよ! 置いてく気!?」



後ろでぎゃーぎゃーと叫ばれて、ゾロは仕方なく足を止めた。
呼吸を荒くしたナミが追いつき、その前を塞ぐように回り込む。

はーはーと息を整えながら目の前の男の顔を見上げて、ナミは目を見張る。


ナミから顔を逸らしたゾロの顔は、今まで見たことも無いほど真っ赤だった。




 「……ちょっと、こっちまで恥ずかしくなるじゃないの…」



そう言うナミの顔もどんどんと赤くなる。

2人揃って真っ赤な顔のまま、夕焼け色の太陽が差し込む廊下で立ち尽くす。




 「………おれは言ったぞ」

 「え?」



赤い顔のままでゾロはちらりとナミを見た。



 「人には言わせて自分はナシかよ」

 「………ゾロ」



ブッと思わずナミは噴出した。
その反応に眉間に皺を寄せた(だが顔はいまだ赤い)ゾロは、ナミを置いてまた歩き出した。



 「あ、ちょっと!」

 「うっせぇ!!!」



頬を染めて微笑んで、ナミは駆け出した。
それからゾロの背中に文字通り飛びつく。



 「うぉ!」



前のめりに倒れそうになったゾロは、背中にのしかかってくるナミを落とさないようにどうにか踏ん張った。



 「あっぶね、何すんだよ! おりろ!!」

 「やだ!」



慌てるゾロを尻目に、ナミはその太い首にしがみついて背中におぶさる。
それから赤い耳に口を寄せて、囁いた。


一瞬固まったゾロだが、すぐにうっすら赤い顔のままで「ふーん」と言って笑った。
ナミも自分の顔を隠すようにさらにゾロにしがみつく。



 「いい加減おりろよ」

 「まだダメ」

 「何で」

 「何ででも」



しがみついたまま顔を上げないナミをゾロは背負いなおして、駆け出した。
きゃあとナミは声をあげ、ゾロの背中の上で揺らされながら笑顔を見せた。



 「落ちんなよ!」

 「落とすなよっ」

 「知るか、勝手にしがみついとけ!」

 「そうしとく!」







バレンタインにはチョコをあげて。

誕生日には指輪を贈って。

一緒に遊んでいつも2人でいて。

時折、手を繋いで。




それでも、2人は「友達」だった。



今日、この日までは。




2007/08/07 UP

『【結。】の続き』

ツンデレ高校生と噂の(どこで?)2人です。
ようやくひっついたよ…!!!
てかどんなキャラだったか忘れたよ…(笑)。

10日にリクくれた方、これで勘弁!


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