陽が落ちる前に、ゾロはいつものように刀を携えてナミの店へ向かおうとした。
店に行くのは、10日ぶりだった。
屋敷の門をくぐる間際、ゾロはくいなに呼び止められた。
「ゾロ」
「・・・・くいな」
「あの店へ?」
くいなはいつもと変わらぬ静かな笑顔をたたえたまま、ゾロを見つめてきた。
ゾロは顔だけを後ろに向けてくいなをチラリと見た後、すぐにまた前を向いて足を進めた。
「止めんなよ」
「止めません。ただ、ひとつ聞きます」
「・・・・何だ」
ゾロは今度は振り返らずに、返事だけした。
「その女は・・・あなたがそんな気を纏うほどの、それほどの覚悟を持つに値する女ですか?」
ゾロは少し驚いて、くいなの方を振り返る。
くいなの目が鋭くゾロを見据えていた。
それは、乳母ではなく、剣の道を教える師匠としての目だった。
ゾロはしばらくその目を見つめていたが、すぐにくいなと同じ目で、答えを返した。
「それほどの、女だ」
「では、行ってきなさい」
くいなは優しく微笑み、ゾロを送り出した。
久しぶりに店に現れたゾロとサンジに、番頭は申し訳なさそうに腰を曲げて近づいた。
ナミが断るのは目に見えていたし、いい加減諦めたものと思っていたゾロがまたやってきたことに、
番頭は若干呆れつつ、だが媚びるような笑顔でゾロを迎えた。
「ロロノア様、申し訳ありませんがナミは・・・・」
「分かってる、今日は主人に話がある。ノジコはいるか?」
「へ? ノジコさんですか?」
「あぁ、呼んでくれ」
そういえばこの男は何度か女主人の部屋に入っているな、などと邪推しつつ、
番頭はノジコを呼びに走った。
しばらくして入り口に出てきたノジコは、ゾロの姿を見て一瞬目を見開いたが、
すぐにいつもの顔でニヤリと笑った。
「・・・あんた、来たのかい」
「協力すると言ったよな?」
「・・・あぁ、言ったよ。・・・・・何かする気?」
「・・・・・・」
小声で話したゾロは、離れて様子を伺っている番頭にチラリと目をやる。
ノジコはそれに気付き、顎でゾロに内所に向かうよう促した。
くるりと向きを変えたノジコの後にゾロが続こうとすると、
番頭が慌てて飛んできた。
「ロロノア様! 刀はお預かりします」
「いいだろ、女買うわけじゃねぇ」
「決まりですので」
「・・・・・」
番頭はゾロの刀に手を伸ばした。
ゾロは眉間に皺を寄せ、ノジコに視線をやる。
「・・・・・・・あぁ、今日は私の客だ。刀はそのままでもいいよ」
「しかし・・・」
「私がいいって言ってんだから、いいんだよ」
「はぁ・・・・」
ノジコが睨みながらそう言うと番頭は渋々刀から手を外し、ゾロの後ろにいたサンジに笑顔を向けた。
「サンジさんは、杏でよろしいですか?」
「いや、こいつも一緒に来る」
サンジに代わってゾロがそう答え、
若干不服そうな顔をして、サンジもゾロの後に続き内所へと向かった。
3人が内所から出てきたのは、部屋に入ってから半刻が経ったころだった。
出てきたノジコは、番頭に声をかけた。
「ねぇ、アーロンは戻ってる?」
「楼主なら、先程」
「そう」
返事を聞いたノジコは、ゾロたちを伴ったままアーロンの部屋へと向かった。
「楼主に御用で?」
「ロロノアさんがご挨拶したいとさ」
「はぁ、そうですか」
今さら挨拶・・・?と不思議ではあったが、
次期領主が楼主に挨拶ということは、この店は領主に認められたようなものだ、と考え、
番頭は内所に向かう2人を見送った。
2006/01/17 UP
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