ナミの過去をゾロに話した日から、7日が経っていた。


あれきり、ゾロは店に姿を現さなかった。


結局その程度だったのか、とノジコは失望しつつ、
以前に増して力の無くなっていくナミの様子が心配でたまらなかった。
















 「ねぇナミ、・・・店を変わるかい?」

 「・・・・・いえ、ここで」



内所に呼び出したノジコが告げると、ナミは俯き力なくそう答えた。



 「アーロンが言ってる養育費なら、私が何とかしてやるよ」

 「・・・・・・」

 「心配いらない、私だってダテに女主人をやってないんだ。どうにかする」

 「・・・・そうじゃないんです」

 「・・・え?」

 「お金の問題じゃなくて・・・・・育ててもらった恩が、あるんです」



ポツリと呟いたナミの言葉に、ノジコは目を見開く。






 「・・・・・・何を・・・! あんな男に!!」

 「・・・・・・」

 「あんなことされてるのに、恩義なんか感じる必要なんてないんだよ!!?」



ノジコはナミの両肩を掴んで揺する。
それでもナミはじっと姿勢を正して座っていた。

泣きそうになった。
こんな環境で、それでもこの子は恩を返そうと?






 「私をここまで育ててくれたのは事実なんです」

 「ナミ・・!!」

 「その恩は、返さないと。もちろんお金も・・・・」

 「ナミ、あいつはね・・・・!!!!」

 「・・・・・・?」






ノジコははっとして、口を噤む。







言えない。

この子に、真実は。









ナミは頭の良い子だ。
もしかしたら、全部気付いているのかもしれない。

だけどもし、
もし何も知らないなら
それなら、知らないままの方がいい。



自分をここに縛りつけ陵辱している男が、
母を殺し、
結果的に叔母夫婦の命まで奪った人間だと知ったら。


仮にも、幼いときはナミはアーロンを慕っていた。
借金で売られたにも関わらず自分を大事に育ててくれた小父さんに、ナミは懐いていた。


いつか自分を好きなように弄ぶためだったなどと、幼いナミが気付く由もなかった。








幼少の恩を返し、全ての借金を自らの手で返すために、ナミは此処に留まっている。








母の死すら仕組まれたことだったなどと、さらに酷い現実を知ってしまえば、
この子は本当に壊れてしまうかもしれない。














ノジコはナミの胸元に額を押し付ける。
ナミの肩を掴む手が、震える。




 「・・・恩なんて・・・そんなもの、あんたはもう充分返してるよ・・・」

 「ノジコ、泣かないで」

 「ロロノアの身請けを、受けていいんだよ」

 「・・・・・・」

 「惚れた男と、あんたは一緒になってもいいんだよ・・・」




ノジコは片手でぐいと目尻を拭い、ナミの顔を見上げる。
ナミはノジコを見返しながら、哀しそうに微笑んだ。
泣いてはいなかった。



 「楼主は私の身請け話など・・・許しはしない」

 「・・・それなら、2人で逃げればいい」

 「そうすればゾロの命が危ない」

 「・・・・・・・」

 「楼主は・・・・そういう人でしょう」

 「・・・・っ」






やはりナミは知っているのか。
知っていながら、此処に留まると。






 「ナミ・・・・」

 「どのみち、私には幸せになる権利など、ない」

 「・・・・・私もロビンも、あんたの家族も、みんなあんたの幸せを願ってるんだよ!?」

 「・・・・・もう、いいんですノジコ。ありがとう・・・」































 「よお、ゾロ」

 「悪いな、急に呼び出して」

 「いや、全然。暇だしな」

 「よく言うぜ」



とある茶屋に、ゾロは一人の男を呼び出した。

片手を挙げてにこやかに挨拶した男は、先に店で待っていたゾロの正面に座った。


男の名はウソップと言った。

彼はいわゆる『情報屋』で、表向きは普通の大工であった。
裏の正体を知っているものは、ゾロを含む数人の友人以外はいない。
どこで創ったのか、尋常ならぬ人脈を持っており、
役人やそこらの金持ちなどは、様々な用でウソップの『情報』を利用していた。
だが犯罪に関わることには関与しない。
それがウソップの主義であった。

ゾロは、ウソップとは『情報屋』としてではなく、友人として接している。
単に『情報』を必要とするような事態になったことがないだけであるが。






 「お前最近、遊廓に通ってるんだって? とうとうそっちの遊び覚えたかー」



茶屋の娘に団子やらを注文しながら、ウソップはニヤニヤとゾロに話しかける。




 「サンジがお前がかまってくれねぇって拗ねてたぞ? 友人は大事にしろよー」

 「拗ねるとか気持ち悪ぃこと言うな」

 「いやいや、結構間違ってねぇぞ。せめて誘ってやれよ行くときは」




ウソップが真面目な顔で言ってくるので、
ゾロは場を誤魔化そうと、コホンと咳払いをする。




 「・・・・それより今日は、お前に頼みがあるんだ」

 「頼み? お前が?」

 「・・・・『情報』が、欲しい」

 「・・・・・・・・・」



運ばれてきた団子を頬張ろうとしたウソップは、
神妙なゾロの顔を見て、串を皿に戻す。




 「・・・・お前がおれに『仕事』を頼むなんてな。何が知りたいんだ?」

 「・・・・・・・まぁ、身辺調査だ」

 「ふぅん・・・・で、誰の?」

 「・・・・ある遊女屋の、楼主だ」

 「・・・・・・・・」



小声でそう告げたゾロの顔を、ウソップはじっと見つめる。




 「頼めるか? 礼ははずむ」

 「いや、それは別にいいよ」

 「受けてくれるか?」

 「何となく話が見えたような見えないような・・・まぁ、お前がそんな必死になるくらいだ。
  ここはこのウソップ様にまかせな!」




長い鼻を自慢げに上に向けて、ウソップは胸を張った。




 「頼れるな」

 「褒めても何も出ねぇぞ」

 「だろうな。とりあえずここの支払いはするから、まだ注文していいぞ」

 「お、そうか? 実は昼飯まだでな」




ウソップは目を輝かせ、店の娘を呼んだ。




 「できるだけ早く・・・よろしくなウソップ」

 「お前・・・簡単に言うなぁ・・・。まぁ、頑張るさ」

 「急ぎで」

 「・・・本当に必死だなお前」

 「うるせぇ」





2006/01/15 UP

BACK NEXT

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送