「あんたに借金全部背負わせて、散々苦労させときながら、自分らはあっさりあの世行きだ。
  あんたもいい親に育てられたもんだねぇ」

 「・・・無駄口を叩いてる暇があるなら、自分の仕事をしなさい」




ロビンにぴしゃりと言われて、遣手は首をすくめて去って行った。








 「・・・ナミ、大丈夫?」

 「・・・・そんなこと、ない・・・・」

 「ナミ?」

 「叔母さんは・・・泣いてた・・・」

 「ナミ・・・・・」









泣いていた。

ごめんねと泣きながら、自分を見送った。



自分がここに来て、あの人たちの借金は無くなったはずだった。

それなのに、今さらどうして?























ナミが4才のとき、実母は死んだ。


家に押し入った暴漢から、ナミの母・ベルメールはその命と引き換えに、ナミを守った。






無慈悲な刀が母を斬りつけた後、男たちの目はナミに注がれた。
幼い頃から、ナミの美しさは際立っていた。
男たちがナミに腕を伸ばした瞬間、ベルメールは、ナミを抱えて家を飛び出した。

背中をばっさりと斬られ、その場で絶命していてもおかしくない深さの傷を抱えたまま、
ベルメールは走った。


ナミはそのときたったの4才で、既に理解していた。
母と自分の命が助かる方法があるとすれば、
自分の体を差し出すことだけだと。
何をされるのかは分からない。
それでも、本能的にそれを理解していた。

幼いながらもその覚悟を決めたナミは、
血を吐きながら走る母に、おろしてと必死に叫んだ。
それでもベルメールは、立ち止まらなかった。


追ってきた男たちの刀が再びその体にくいこみ、血を散らす。
とうとう膝をついた母を、男たちは何度も刀で斬りつけた。
泣き叫ぶナミを胸にしっかりと抱きかかえ、うずくまり、そうして母は息絶えた。


男がナミからその体を引き剥がそうとしても、それは頑として動かず、
気味悪がった男たちは、母とナミをその場に残して去って行った。





生温い血を流しながら冷たくなっていく母の胸の中で、
ナミは意識を失った。










次にナミが目覚めたときには、既に母の葬儀は終わっていた。


さっぱりと気丈夫な性格だったベルメールは、近所の人間からも好かれていた。
その死を、隣に住む老夫婦が文で妹に伝えてくれていた。
母一人子一人の決して裕福とはいえない生活で、
葬儀の金などがすぐに用意できるはずはなかったのだが、
その妹夫婦や近所の者が、手配してくれたのだった。



放蕩息子ならぬ、放蕩娘。
家を出たきり連絡も寄越さず、
どこのものかも分からぬ男の子を孕み、
ベルメールはそれを恥とも思わず、堂々と産み、そして育てた。




家族から離れ、ナミと2人きりの生活をしていたベルメールは、
それでもちょくちょくと妹に文を送っていた。

子供に恵まれなかった妹夫婦は、
ナミのことはその文で知っていた。
そしてそのまま、ナミを引き取った。





妹夫婦がナミに与えた愛情は本物であったし、
ナミもそれに応えた。
少なくとも、それは温かい家庭と呼ぶには充分だった。







人のいい夫婦が友人の保証人となり借金を背負うことになったのは、ナミが6才になってからだった。
夫婦2人で茶屋を営み、それまでは金を借りることもなく生活できていた。
だが保証人となった借金の額は、そんな生活では到底返せるものではなかった。


6才のナミの容貌は、隣近所はおろか、金貸しにも知れるところとなっていたため、
金貸しはナミを遊女屋に売ることを提案した。
夫婦はもちろん、それを断った。


亡き姉の遺した、大切な娘。
妹夫婦にとっても、ナミは血の繋がり以上の大切な存在だったのだ。


だが、腹いせか、金貸しの行動は日に日に過激になり、
妹は気を狂わせかけた。




ナミはただ、自分にできることを考えて、
そして決めた。













遊廓に行く、別れのとき。
妹夫婦は、土下座して、泣きながらナミに謝っていた。





















自分は、叔母さんたちのために、ここにいるのに。




ナミは呆然と、ロビンに肩を抱かれたまま立ち尽くした。





どうして?

どうして死んでしまうの?


私は何のために、此処にいるの?




2006/01/09 UP

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