「ゾロ」
ナミの元へビビが出向いた、同じ頃。
屋敷を出ようとしたゾロは、ミホークに引き止められた。
「・・・父上、何か」
「私の部屋に来なさい」
「・・・・おれ、今から用事が」
「来い」
有無を言わさず、ミホークはゾロに背を向け歩き出す。
逆らうことはできずにゾロも後に続いた。
ミホークと向かい合って座り、ゾロは何故呼ばれたのかを考えていた。
おそらくは、自分の遊廓通いのことだろう。
父親のことだ、ナミのことまで調べはついているはずだ。
「・・・・ゾロよ」
「・・・はい」
ミホークは鋭い視線をゾロから外すことなく、口を開いた。
ゾロもその視線を避けず、まっすぐ見つめ返す。
「今日もあの遊女屋へ行くつもりだったのか?」
「・・・・・・・・」
「お前は何を考えている」
「・・・・・・・・」
「ネフェルタリ家の娘を、失念しているわけではあるまいな」
「・・・・・それは・・・」
「あぁ、勘違いするな。廓遊びを責めているわけではない。
ただ、お前は入れ込みすぎだ」
何も答えることのできないゾロに、ミホークは呆れたように首を振る。
「お前の事は、跡取りとして大事に育ててきた。
町の者もお前が領主の息子だからと、大目に見てきた部分もあるだろう。
世間知らずに育てた覚えは無いが、よもや廓狂いするとは・・・」
『廓狂い』などではない、と反論したかったが、
そんなものは通じないだろうことは分かっていた。
ゾロはただ、無言で父親から目を逸らさずにいることしかできなかった。
そのゾロの様子に、ミホークは深く溜息をつく。
「こんなことなら、もっと女をあてがっておくべきだったな」
その言葉に、ゾロはカッとなって立ち上がる。
「あいつをそこらの女と一緒にするな!!」
「では何が違う?男を惑わすあの美しさか?それともそんなにも床上手だったか?
この町の一体何人の男があの女と寝たのか、お前は考えたことがあるか?」
怒りで拳を震わせながら、ゾロはミホークに殴りかかろうとするが、
ミホークは立ち上がることもなく、それをあっさりとかわした。
ゾロは勢いのまま、ミホークの後ろの床に転がった。
「私に勝てると思うのか、息子よ」
ゾロは畳の上に座り込んだまま、血が滲むほど拳を握り締めた。
ミホークはゾロの方をチラリとも見ず、淡々と話す。
「たかが町の遊女屋で上級と言われても、領主の妻はつとまらん」
「所詮は、遊女だ」
「・・・・・遊女だとか、そんなの関係ねぇよ・・・」
「・・・・・・」
「あいつが何してようと、おれはあいつが・・・!!」
「では身請けして嫁にするつもりか?
遊女上がりだと周りから軽く見られ、辛いのはあの女の方だろうよ・・・」
「・・・・っ・・」
「ゾロ、・・・・お前はまだ子供だ。先を見ることができていない」
「・・・・・・」
「遊びに留めておけ。ネフェルタリとの結納も、きちんと話を進めろ」
「・・・・・・」
返事をせずゾロはフラリと立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「・・・・・父上」
「何だ」
障子に手をかけたところで、ゾロは立ち止まる。
背中に父親の視線を感じながら、ゾロは言った。
「母が死んでから、あなたはヤケになったように女を囲った」
「・・・・それがどうした」
「それがぱったり止んだかと思ったら、何処かの遊女屋に足繁く通い出した・・・」
「・・・・・・」
「なぁ」
振り返り、ミホークを見る。
「あんたはどうしてあの女を、身請けしなかったんだ?」
「・・・・・・・」
「・・・父上、おれはあんたとは違う」
ぴしゃりと障子を閉め、ゾロは出て行った。
「・・・・目つきだけは一人前になったものだ・・・」
残ったミホークは、昔を思い出しながら自嘲した。
2006/01/07 UP
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