それからゾロは、2日と空けずにナミの元に通うようになった。
だがそれでも、ゾロがナミを抱くことはない。
初めて会った日のように、
酒を飲みただ話をする。
同じ布団に入るものの、意思を持ってゾロの手がナミに触れることはなかった。
ナミも次第に、ゾロが来るのが楽しみになっていた。
身体的に楽な仕事だから、というわけではない。
あの男と話がしたい。
そう思い始めていた。
話す内容など、大したものではない。
お互いに子供のときの話や、ゾロの日常の話。
ナミも、遊女屋に来た経緯なども話すようになった。
普通、客にはそんな詳しいことは話さない。
同情を誘って金を落としてもらうために、借金のためにここにいる、というような話はしても、
詳しい経緯など、真実は話さない。
だがナミは、ゾロには全て話した。
ゾロが話してくれる内容も、ナミにとっては全てが新鮮であった。
友人たちの話や、ゾロ自身のこと。
一晩中語り合いながら、それでもナミはまだ、もっとゾロを知りたいと思った。
だがナミも、一番人気の遊女だ。
ゾロが来るたびに、体が空いているわけではなかった。
既に他の男が買っていたときもある。
そんなときは番頭は他の遊女を熱心に勧めるが、
ゾロはナミ以外の女には見向きもせず、そのまま帰った。
ゾロが通い始めて二月がたったある晩、この日もナミは既に客が付いていた。
番頭ももう他を勧めることはなくなった。
申し訳なさそうにゾロに謝るだけだった。
向きを変えて帰ろうとすると、女の声がゾロを呼び止めた。
「ロロノアさん」
振り返ると、そこには気の強そうな女が、煙管片手に立っていた。
遊女にしてはおとなしめな、それでも上質な着物の胸元を軽くはだけさせ、妖しい色を出していた。
肩口から、刺青が覗いている。
番頭は低姿勢で女に挨拶をして、消えて行った。
何者かとゾロが不審がっていると、向こうから挨拶してきた。
「私、ここの女主人のノジコです。確か昨日もナミはいなかったよね?
申し訳ないから、内所の方で一杯どうです?」
遊女としても充分人気が出るであろう、その美しい女主人はニヤリと笑い、
ゾロについて来るよう促した。
断る隙も与えず、女はさっさと歩き出す。
ゾロは仕方なくついていった。
内所に入ると、ノジコはゾロに座るよう言い、奥から酒瓶と盃を取り出し、ゾロに注いだ。
「しかしあのナミを頻繁に買えるなんて、さすがは領主の息子サマだ」
「・・・・・・『領主の息子』じゃねぇ、ゾロだ」
「あらあら、まだガキみたいだね中身は。こだわっちゃって」
「っ、うるせぇ!」
ノジコはケラケラと笑い、自分も盃を一気に空ける。
「・・・・で、女主人がおれに何の用だ?」
ゾロは馬鹿にされてむすっとしながら、酒を飲む。
「・・・・あんたに、礼を言いたくて」
「・・・・礼?」
「そ」
盃を床に置き、ノジコは微笑んだ。
「あの子が、笑うようになったんだ」
「あの子?」
「ナミだよ」
ノジコは思い出すかのように嬉しそうに笑い、また酒を注ぐ。
「あんたがここに通うようになって、あの子は少し変わった。
遊女になってからは、あの子は笑わなくなったのに・・・今はあんたが来たと知ると、嬉しそうに笑うんだ。
演技じゃなく、本当に嬉しそうに」
「・・・・・」
「あんた、あの子を抱いてないんだって?」
「・・・・・・」
「どういうつもりかは知らないけどさ、あの子を頼むよ。これからも、ね」
「・・・・・・おれは、ナミに惚れてる」
「・・そうかい」
「たとえ客と遊女の関係でも、おれはあいつを大事にしたい」
「・・・・そう」
ゾロが内所を出るのを、ロビンはちょうど自室へ向かう際に見かけた。
「あら・・・」
「やぁロビン」
ノジコはロビンに片手を挙げて挨拶する。
「今のは?」
「ロロノア・ゾロ」
「・・・・・・・ロロノア・・・・・じゃあ、あれがナミの?」
「そ」
ロビンは見えなくなったゾロの後姿を思い出しながら、ノジコに聞いた。
「どんな人だった・・・?」
「・・・・いい男だよ」
「そう・・・・」
「・・・遊女だからって、男に惚れちゃいけないなんてこと、無いんだよ・・・ね、ロビン」
「・・・・・・・・・そうね・・・・」
2006/01/03 UP
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