ゾロが住み着いてから1週間。


ナミが外出すると、ベランダからふわりと降りてきて付いてくる。
確かに他の人間には見えてはいないようだった。
買い物をするナミの後でキョロキョロと珍しそうにまわりを見渡し、
たまに一人で迷子になるが、小声で呼べばまたフラフラと近づいてくる。
ナミの姿を見つけて一瞬ほっと息を吐く姿がまるで子供のようで、ナミはつい笑ってしまう。

家に戻ると、気付けばゾロはベランダにいる。
何をするでもなく手すりの上に寝転んでいるのだ。
あまりに静かなので声をかけてみると、律儀に返事が返ってくる。



テレビを見たり部屋の掃除をしたり、ナミはぼんやりと一人で時間を過ごす。
それに飽きてきたらゾロに声をかけてからかってみたり、
ベランダに出て2人で外を見ながら、やっぱりぼんやりしてみたり。


死の迫った女と、その魂を回収しに来た死神。

その組み合わせにしては、あまりにほのぼのしたものだった。














 「…………っっ……」




ある夜。

頭痛と吐き気に、ナミは声も出せずにもがいていた。
ベッドの上でシーツにくるまって、両手で頭を抱えて歯を食いしばる。
意識しないと呼吸することすら忘れてしまいそうだった。

必死に深呼吸をしながら、終わることの無い激痛と不快感にただ耐える。





 「………ゾロ……っ」




思わず、名を呼んだ。

誰でもいい、誰かに助けてほしかった。


呼んだところで、痛みが取れるわけではない。
だがナミは無意識のうちに何度もその名を口にしていた。







 「おい」



ぎゅっと閉じていた目を薄く開けると、暗闇にぼんやりとゾロの顔が見えた。

死神らしからぬ、心配げな顔でナミの顔を見下ろしている。



 「痛いのか?」

 「………ゾ、ロ」



途切れ途切れの声で、また呼ぶ。

目尻に溜まっていた涙が溢れて、止まらなくなった。





たすけてたすけてたすけて。

きもちわるい。

しにそう。

いたいよ。





ナミがすがるように手を伸ばすと、ゾロは少し躊躇してからその手を掴んだ。
そのままベッドの脇に腰を下ろし、覆いかぶさるようにナミを抱きしめる。



 「ゾロ………」



ナミはゾロにしがみついて、痛みに耐える。
背中や肩にナミの爪が食い込むが、ゾロは何も言わなかった。



ただナミの頭を片手で撫でながら、耳元で一言。

名を呼んだ。





 「ナミ」






その瞬間、ナミはふっと身体が軽くなるのを感じ、一気に眠りに落ちた。
















痛みに苦しむ姿は見ていられなかった。

部屋の中からもがくような声で自分の名を必死に呼ばれ、思わず中に入ってしまった。


苦痛に顔を歪め涙を溜めて、必死に伸ばされた腕を掴んだことも、
震える細い身体を抱きしめたことも、
死神の力を人間に使ってしまったことも、

自分の中で止めることができなかった。




人間の女に惚れちまうなんて、死神失格だ。





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