形。
「航海士さん、これ何だか分かる?」
「何って・・・お酒じゃないの?」
女部屋の机で海図を描いていたナミに、ロビンは後ろから声をかける。
手には青い、小ぶりの酒瓶。
座ったまま体を後ろに向けて、ナミはそれを覗き込む。
「貴女は飲んだことあるわよ」
「んー? ラベル無いから分かんないな・・・」
「コックさんと剣士さんも飲んだわ、2人でね」
「・・・・って、まさか」
「ふふ、あのお酒v」
嬉しそうなロビンと正反対に、ナミはひくりと口元を歪ませる。
この酒を最初に飲んだのは、ナミとゾロ。
その後でサンジが別に手に入れ、ゾロとそれを飲んだ。
どちらの場合も、ナミはえらい迷惑を被ったのだ。
とある悪魔の実の成分を含むその酒は、飲めば一過性に体と中身が入れ替わる。
ナミとゾロの酒は元に戻るまで数日を要したが、
サンジの買ってきたものは一晩で効果が切れるものだった。
今ロビンが手にしているのは、サンジのものと同じ酒。
「試してみたくない?」
「試したいのはロビンでしょ」
「ふふ、バレちゃった?」
ナミは苦笑してロビンを睨む。
考古学者だけに、好奇心もそれなりに旺盛なロビン。
2度もその酒の効力を目にすれば、自分で試してみたくなるのもムリはない。
「ダメかしら」
「・・・まぁ、ロビンと変わるんならそんなに支障もないかしら・・・」
「えぇ」
「でもなぁーー・・・」
ちらりと目をやると、ロビンは子供のようにワクワクとした表情を見せていた。
ナミは仕方ないと肩をすくめて、グラスを出すためカウンターに向かった。
2人同時にグラス1杯を飲み干して、頭の中が真っ白になって次に目が覚めたとき、
ナミとロビンは入れ替わっていた。
「すごいわ・・・本当に入れ替わるのね」
「やっぱり何か変な感じ・・・」
目の前の『自分』を見ながら、ナミは立ち上がる。
いつもよりも高い目線。
同じ部屋なのに、高さが変わるだけで何だか雰囲気が違って見える。
それでも体は女だから、ゾロと変わったときのような違和感ほどまでは感じない。
「みんな、気付くかしら?」
「え? みんなって」
ロビンは面白そうに手を伸ばしたり『ナミ』の髪を触ったりしながら、笑って言った。
「いつ気付くか、試してみない?」
こんなに楽しそうなロビンを見るのも珍しい。
とことん付き合うしかないな、とナミは覚悟を決めて笑った。
2人の演技は完璧だった。
キッチンで夕食を摂っているときも、誰一人気付く様子は無い。
ナミとロビンはちらりと目を合わせ、それが可笑しくて笑った。
『ロビン』の姿のナミだが、そのハナハナの実の能力を使えなかった。
正直これはやってみたかったナミはちょっとヘコんだが、使えないものはしょうがない。
夕食後、甲板で遊んでいたルフィたちからその能力を求められても、ナミは笑って誤魔化すしかなかった。
「今日はちょっと体調がよくなくて・・・」
「そりゃ大変だ! すぐにキッチンで栄養のつくものを!! てめぇらはさっさと寝るか風呂入れ!」
「え、サン・・・コックさん?」
通りかかったサンジは、『ロビン』の手を取って風のようにキッチンに連れ去った。
残されたルフィたちはポツンとそれを見送り、
ぶーぶーと文句を言いながらそれぞれ風呂や男部屋に消えた。
一方のロビンは、女部屋で本を読んでいた。
いつも『ナミ』が日誌を書いている時間だったので、演技で部屋に戻ったのだ。
だが姿はどうあれ日誌を書くのはナミなので、ロビンはとりあえず本を読んで時間を潰していた。
ガタンと音がして、振り返るとゾロが部屋への階段を下りてきていた。
「・・・ゾロ、お風呂はどうしたの?」
「ウソップが先に入った」
「・・・ロビンは?」
「何かキッチンに行ったぞ」
「あら、そう・・・」
どうしましょう、とロビンは心の中で考えた。
この状況は、まずい方へ進んでしまうんじゃ?
キッチンでナミは椅子に腰掛け、その前にサンジが素早くコーヒーを差し出す。
「・・・・あの、コックさん、私もう部屋に戻るわ」
「止めといた方がいいよロビンちゃん、さっきゾロが女部屋に行ったから」
「え・・・」
一瞬ナミはたじろぐ。
ロビンのことだから、上手くはぐらかしてはくれるだろうけど。
考えていると、サンジの手がするりと肩に回ってきた。
「・・・コックさん?」
「やっと、だね」
「・・・・え」
ナミの隣に座ったサンジは、その体を優しく抱き寄せた。
「あーー久しぶりのロビンちゃんの感触!」
サンジは嬉しそうにそう言って、『ロビン』の髪を撫でる。
「おれたちも女部屋使いたいよなぁー」
「・・・・」
ナミはサンジの腕の中でグルグルと考えを巡らしていた。
これはつまり、サンジとロビンが『そういう関係』ということだろうか?
「ナミさんにはまだ言ってないの、ロビンちゃん?」
「え、えぇ・・・」
「そっか。まぁあの2人も周り見えてないもんなぁラブラブすぎて」
サンジはくっくっと笑う。
ナミは思わずかぁっと顔を赤くした。
そんな風に思われていたなんて。
というかサンジたちの前でそこまでイチャついた覚えは無いが。
それにしてもこの男、ロビンと付き合っていながら自分に対して変わらず口説き文句を投げてきている。
ゾロと入れ替わったときなど、『ゾロ』のフリをして夜這いに来たというのに。
(その頃はまだロビンとそうなってはいなかったのかもしれないが)
やはり、あなどれない。
しみじみとナミは思った。
「ロビンちゃん」
呼ばれて、思わず顔を上げた。
サンジの手が『ロビン』の頬に添えられ、優しく笑う。
ナミは思わず顔を赤くした。
金髪碧眼のこのコックは、この笑顔でどれだけ女を落としてきたのやら。
そのサンジの顔が、ゆっくりと近づいてくる。
(あ、これヤバくない?)
「ナミ」
椅子に座る『ナミ』を包むように、ゾロは背後からテーブルに広げていた本の横に両手をついた。
ロビンはそのまま本を見つめていた。
ゾロの刺すような視線を感じながら。
「ナミ」
もう一度名を呼ばれて、仕方なく顔をあげる。
見下ろしていたゾロが、ゆっくりと体を曲げて顔を近づけてきた。
(困ったわ・・・このまま続けてもいいのかしら・・・)
『ロビン』と『ナミ』が、迷いながらも同時に目を閉じた瞬間。
「「で、いつまで黙ってるつもりだ?」」
ゾロとサンジの声で、2人はバチっと目を開けた。
前甲板に出てきた4人は、それぞれ互いの顔を見合す。
ナミとロビンは、目を合わせ先程までの状況を誤魔化すように引きつりつつもニコリと笑った。
ゾロとサンジはその2人の様子を手すりに寄りかかって見ていた。
「・・・で、いつから気付いてたの?」
『ロビン』の姿のナミが、腕を組んでゾロに尋ねた。
ゾロは首をかしげてサンジの方を見る。
「いつからって・・・そりゃ、入れ替わって出てきたときからだろ、なぁ?」
「あぁ、すぐ分かったよ?」
煙草の煙を吐き出したサンジも答え、2人に向かって笑った。
ナミとロビンはまた顔を見合わせ、不思議そうにゾロとサンジを見つめる。
「何で・・・?」
「あのね、ナミさん」
サンジはそう言って手すりから離れて姿勢を正し、煙草を海に投げ捨てる。
「心底惚れた相手なら、どんな姿になってもすぐに分かるモンだよ」
言いながら、サンジは『ナミ』に向かって微笑んだ。
『ナミ』の姿のロビンは、それを聞いて嬉しそうに笑った。
見つめ合う2人を横目で見て、うっすら顔を赤くしたナミはジロリとゾロを睨む。
『ロビン』の姿で睨まれるとなかなかの迫力だ、などと思いつつ、
ゾロは片眉を上げてニヤリと笑う。
「・・・まぁ、右に同じ」
その言葉に、ナミも笑った。
2006/08/31 UP
『【変。】【違。】の続き、ナミとロビンの入れ替わり』
6/30にリクくれた方、こんなんで・・・?
サンロビにしちゃったv
サンジくんは惚れた相手ならすぐ分かるそうですが、
前作ではナミさんはゾロとサンジの入れ替わりに気付きませんでしたよ(笑)。
この入れ替わりシリーズは好きです。
まだイケるね!(笑)
これにて橙祭、終了!
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