違。
「へぇ、兄ちゃんあの酒知ってんのかい」
「あぁ、おれが飲んだわけじゃねぇが」
「なかなか面白い酒だったろう?
本当はただの酒のハズだったんだが、やっぱり『悪魔の実』だね」
「で?この酒が何だって?」
「これはね・・・アレをさらに改良したんだよ。即効性だ」
「・・・へぇ・・・持続は?」
「一晩」
「・・・・・1本、もらっとく」
「まいど」
「ごちそうさまサンジくん。今日も美味しかったわv」
「貴女への愛が隠し味ですからv」
「それはともかく、やっぱ上陸した後は食材が新鮮でいいわねー」
「ナミさん、コーヒーおかわりは?」
「もういいわ。寝れなくなっちゃう」
夕食を終え、クルーたちが嵐のように去って行った後、
優雅にコーヒーを飲んでいたナミが最後にキッチンを出て行った。
皿を洗いながら、サンジは今日の買い物を思い出す。
怪しい露店で見つけた酒。
数ヶ月前ゾロが買ってきた酒は、悪魔の実の成分を含有しており、
その酒を飲んだゾロとナミは、体が入れ替わってしまった。
ゾロはナミに、ナミはゾロに。
2日後にあっさりと元には戻ったのだが、
その間の当人たちの苦労はもちろん、
巻き込まれたまわりのクルーも大迷惑ではあった。
今日サンジが手に入れた酒は、それを改良したものらしい。
効果は即効、効力は一晩。
同じ瓶から飲んだ、一定範囲の人間が入れ替わる。
しかも一晩たてば元に戻るのだ。
これは、使える。
悪魔の声を聞いて、サンジはそれを買ってしまった。
共に飲む人間は、すぐに頭に浮かんでいた。
「おいゾロ」
「あ?」
風呂上りにキッチンに来たゾロに、サンジは小さな声で話しかける。
この場には2人しかいないので、別に小声になる必要はないのだが。
「これ、飲むか?」
水を飲みながら目だけをこちらに向けたゾロに、
サンジは濃い青色の小振りの酒瓶を揺らしてみせる。
「・・・何だよ、えらい気前がいいな」
「たまにはな。1本しか無ぇし、量も少ねぇから」
「まぁ、くれるというなら貰っとく」
そう言って、嬉しそうに水を飲み干した後のグラスを突き出してくるゾロに、
心の中でニヤリと笑って、サンジはその酒を注いだ。
2人分のグラスに注げば、瓶の中身はもう空になった。
サンジはそれをシンクの隅に捨て、ゾロと同時にグラスをあおり一気に飲み干した。
飲んだ瞬間、頭の中が爆発したように真っ白になり、
2人とも意識を飛ばして机に突っ伏した。
数秒か数分か、どれほど時間がたったのかは分からないが、
サンジが気付いて顔を上げたとき、
確かに体は入れ替わっていた。
目の前でテーブルに突っ伏しているのは、自分の体だったのだ。
何故自分の方が先に目覚めたのかは分からないが、
いまだにゾロは起きない。
『ゾロ』の方が、酒に強いせいだろう。
サンジは立ち上がり、体を確認する。
緑の腹巻に、腕には黒い手ぬぐい。
腰には3本の刀がズシリとぶら下がっている。
ペタペタと腕や胸に触ってみると、ムカつくほどに鍛えられた体であった。
「ちくしょう・・・いい体しやがって・・・」
サンジはそう呟いて、動かないゾロの隣に寄る。
『自分』の体をごそごそと探り、煙草とライターを取り出す。
「う・・・・」
ゾロが呻いたが、起きる気配は無い。
一本口に咥え、火を点ける。
「・・・・ん?」
いつもと味が違う。
同じ煙草なのだが。
「なんだ?」
体が違うせいなのか、どうも感覚がおかしかった。
だが何度か吸い込むと、いつもの味が戻ってきた。
「マズイな・・・メシの味が変わっちまうかもしれねぇ」
一晩で戻らなかったら、『ゾロ』の姿でエプロンつけて料理しなければならない。
クルーは大爆笑か固まるか、どっちかだろう。
「ま、戻ってるだろ」
というか、戻っていないと、
明日、自分の命は無い。
これからサンジがやろうとしていることは、実際ものすごく命がけだった。
「・・・う・・・・」
もやのかかったような頭を抱えて、ゾロは目を覚ました。
だんだんとはっきりしてきた視界に、キッチンの様子が飛び込んでくる。
自分が今どんな状況なのかは分からない。
コックと酒を飲んで・・・それからどうした?
今見えるのは、キッチンの中。
高さからして、自分は床に座っているらしい。
ゾロはまだぼんやりとする頭を軽く振って、
キッチンを見回した。
誰かが立っているのが見えたので声をかけようとして、固まる。
「・・・・・・・・・っ」
「よぉゾロ、お目覚めか?」
そこに立っていたのは、紛れもなく、自分。
「・・・どういうことだ・・・・?」
「・・おれが誰か分かるか?」
ニヤニヤと『ゾロ』はゾロに笑いかける。
「・・・・・・クソコックか・・・・」
「当たり」
ゾロはギリっと奥歯を噛んで、床に座っている自分の体に目をやる。
確かに、サンジのスーツを着ていた。
しかも、ロープで後手にグルグル巻きにされ、舵にくくりつけられていた。
「てめぇ・・・どういうことだ」
「おっと、暴れんなよ?船の進路めちゃくちゃになるぜ?」
ギロリと睨みながら飛び掛らん勢いだったゾロに、
サンジは余裕の笑顔を返す。
「さすが筋肉バカなだけあって、縛るの簡単だったなぁ」
「何をした?・・・・・っ、さっきの酒か・・・」
「またまた当たり」
「てめぇ!!何考えてやがる!!」
大声を出したゾロに、サンジは嫌そうな顔をして、煙草をシンクに放った。
「うるせぇな・・・悪いが、今夜はおれが『ゾロ』だ」
「何だと・・・・」
サンジは腕に巻かれていた手ぬぐいを取り、
ゾロの前にしゃがみこんで、その口を塞ぐ。
「んー!!んーー!!!」
「まぁ、一晩大人しくしてろ」
サンジは立ち上がり、ゾロにまたニヤリと笑いかける。
ゾロは今日も、女部屋に行くつもりだった。
今夜の見張りはロビンなので、間違いない。
そして今、サンジは『ゾロ』だ。
(つまり、おれが行ってもいいんだよな)
段々と鼻の下が伸び始めるサンジを見上げて、
ゾロはサンジが何を考えているのか感づき、
額に血管を何本も浮かべて必死に唸りながら暴れる。
「んーー!!!」
だが哀しいかな、『自分』の力で縛られた『サンジ』の体は、なかなか動いてはくれなかった。
「じゃあな、・・・・『サンジ』」
「んーーーーーー!!!!!!!」
サンジが女部屋に下りると、ナミは机で日誌を書いていた。
『ゾロ』に気付いたナミは、座ったまま振り返り、笑顔で迎えた。
「もうすぐ終わるから、待ってて」
「はいっv・・・じゃない、あぁ」
「え?」
「な、なんでもない」
「ふーん・・・・?」
思わずいつもの口調で返事をしてしまい、サンジは慌てて『ゾロ』を演じる。
何となくそわそわしている『ゾロ』を見て、
ナミは首をかしげつつまた日誌に向かう。
「お酒、選んでて」
「え?あ、あぁ」
そう言われて、サンジはカウンターに向かった。
(この2人、やっぱまずは酒なんだな・・・)
適当に酒を選んで、サンジはソファに座る。
「よし!終わりっと。・・・・・あら、今日は甘いの選んだのね」
「あ、あーー、たまには、な」
いつもなら文句を言うような甘口の酒を選んだ『ゾロ』を、
ナミは不思議そうに見つめる。
「まいっか、飲も!」
「お、おう」
ナミはグラスを2つ取って、『ゾロ』の隣に座る。
サンジは口調でボロが出てしまわないように、ナミの話すことに相槌をうつ程度にしていた。
それが逆にゾロらしかったのか、ナミも特に不信は抱かなかった。
だが、隣のナミの髪から匂うシャンプーの香りに、
鼻の下を伸ばしまくっていた『ゾロ』に気付いて、
さすがにナミも訝しがる。
「なんか・・・今日ヘンよ?挙動不審じゃない?」
「へっ?いや、そんなことは・・っ」
「え〜〜・・・・?」
「気のせいだってばナミさ・・・ナミ!」
「・・・・『だってば』?」
とてもゾロが使いそうにないその口調に、
ナミは一層眉間に皺を寄せて『ゾロ』の顔をまじまじと覗き込む。
「ゾロ、大丈夫?何かヘンなものでも食べた?」
ヘンなものは飲みましたが、と思いつつ、
サンジは近い距離のナミの顔に頬を染めつつ、必死に誤魔化した。
「本当、ヘンよ」
「そんなことより、ナミさ・・ナミ・・・・」
「・・・・・」
サンジは冷や汗をかきつつ、ナミの肩を抱いて引き寄せる。
ゾロならこうかな、と思いつつ、少し乱暴に。
ゆっくりと顔を近づけていくと、
ナミは不審がりながらも、目を閉じた。
「・・・・何か、煙草くさい・・・」
「っっっ、気のせいだろ・・・・」
「・・・そうかなぁ・・・」
2人の唇が重なろうとしたその瞬間。
「こんのエロコックがぁーーーーーー!!!!!!!!!!」
扉を蹴破って降ってきたのは、『サンジ』だった。
いつも綺麗に整えられた髪を振り乱して、
ネクタイを無理矢理取ったのか、シャツもよれよれになっている。
体のところどころに、千切れたロープが引っかかっていた。
怒りのオーラをガンガンに出し、
はーはーと肩で息をしながら額に血管を浮かばせて、
『サンジ』は着地と同時にソファの上の2人を射殺さんばかりに睨みつける。
「・・・なっ、な!!サンジくん!!何よ!?」
「やべぇ・・・」
突然の『サンジ』の乱入に、ナミは真っ赤になって『ゾロ』に隠れるようにしがみつく。
サンジは嫌な汗をかきつつ、ゾロから目を逸らす。
「クソコック・・・てめぇマジでブッ殺す・・・!!!!!」
『サンジ』の姿のゾロは、刀が無い代わりにサンジの包丁を2本持って、
ゆっくりとソファに近づいていく。
「・・え?え?コック・・・?サンジくん何言ってるのよ・・・」
「あーー!!クソマリモ!!神聖な包丁を何に使う気だコラァ!!」
「・・・マ、マリモ・・・?」
「うるせぇ!!さっさとナミから離れろ!!!」
中身と外身がまるで正反対の2人の言動に、
ナミはパニックになっていた。
「な・・何・・・?何なの・・・?」
フラリとナミは立ち上がり、2人から遠ざかるようにカウンターによろめいた。
「ナミ!こいつはおれじゃねぇ!!グル眉コックだ!!!
こいつあの酒呑ませやがった!!!」
「ゾロがサンジくん・・・?あの酒・・・・?・・・・って、え!!!あのお酒!!??」
『サンジ』が大声でそう言うのを聞いて、
ナミは『ゾロ』を見ながら思い出す。
前に自分が飲んだ、あのお酒。
ソファに座る『ゾロ』は、まずい・・・という顔をしてナミと目を合わせない。
「・・・あの『ゾロ』がサンジくんで、『サンジくん』がゾロ?」
「あぁ、こいつおれを縛り上げて、お前襲いに来やがったんだよ!!」
「襲うって失礼なこと言うな!!」
「間違ってねぇだろ!!おれの姿でここまで来やがって!!
ナミを騙す気だったんだろうが!!!」
「ぐ・・・・・」
ゾロの言葉に、サンジは何の反論もできなかった。
そんなサンジを、ナミは冷ややかな目で見つめる。
「・・・・・・・サンジくん・・・・」
「・・・・は、はい・・・・・」
冷たい声に、サンジは恐る恐るナミに目をやる。
「本当・・・・・?」
「いや、その・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
氷のような視線に射竦められ、サンジは『ゾロ』の体を小さく縮こまらせながら呟いた。
「・・・・ごめんなさい・・・・」
「・・・・・・・・トルネード=テンポーーーーーーー!!!!!」
ロープで簀巻きにされ、メリーの首にサンジはぶら下げられた。
「ごめんなさぁーーいぃぃぃ・・・・・・」
半泣きでサンジは訴えるが、ナミとゾロは無視して見下ろしていた。
「つーかアレ、おれの体だぞ」
「朝には戻るんでしょ、その前にほどいてあげるわよ。
んで改めてまた吊るす!!!!」
ナミは目を吊り上げて、グっと拳を握り締める。
「・・・・で、お前、何もされなかったか」
「・・・大丈夫よギリギリで」
「そりゃよかった」
ナミの返事を聞いて、ゾロははーーっと溜息をつく。
「何が『よかった』よ!いい迷惑だわまったく!
あんたも、同じお酒2回も飲んでんじゃないわよまったく!」
「・・・おれか!おれが悪ぃのか!?つーかお前も中身違うことに気付けよ!!」
「なっ!そんなこと言ったって!それに何かおかしいな、とは思ったわよ!」
「どうだかな!思いっきりキス寸前だったじゃねぇか!
おれが来なかったらそのままヤってたろお前!!!」
「う、うるさいわね!!いいでしょ何も無かったんだから!!」
騒ぎに気付いて男部屋から出てきたクルーは、
ナミと『サンジ』の口喧嘩を、呆然と見つめていた。
「『変』の別Ver.サンジとゾロが入れ替わり(ゾロナミ前提)」
11/6に拍手でリクくれた方。
あ、最後元に戻ってない!!
ごめんなさい。
サンジくんが最低くんになってしまいました。
あいたたたた。
まずいな、うちのサンジくんは『いい人』的ポジションだったのに。
ものっすご悪い奴だこれじゃ。
2005/11/27
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