焼。
「もう帰りは大分寒いね」
「だな」
放課後、ゾロの部活が終わるのを待って、
ナミはゾロと一緒に帰る。
手を繋いで、ナミの家までゾロは送ってくれる。
できるだけ、ゆっくりした足取りで。
違う学校の女子生徒の間でもファンクラブが出来ているほど、
ゾロは女子に人気がある。
そのゾロに、彼女が出来た。
どんなかわいい女子が告白してもOKしなかったロロノア・ゾロを、射止めた女。
それがナミだった。
最初は校内でもナミは注目の的になっていた。
廊下を歩けば、名前も知らぬ女子生徒がヒソヒソとナミを見ながら何やら話す。
さらには2人で一緒に帰れば、違う制服の女子生徒から恨みがましい視線を寄越される。
半年がたった今、
そういう周りの反応は大分おさまってきた。
逆に、『ゾロの彼女』ということで周りにしっかり認識されてきたのか、
ナミはファンから今度は憧れの目で見られたりする始末だった。
だが彼女がいるからと言って、ゾロのファンが減るわけではなかった。
「ねぇ、その袋なに?」
「あ?これか・・・・」
ゾロがぶら下げている紙袋に気付いて、ナミはたずねた。
ゾロはうんざりした顔でナミにそれを差し出す。
「・・・手紙・・・?」
袋の中身を覗き込んだナミは、目にしたものを素直に口にした。
「こないだの大会、優勝したからな・・・また増えた」
ゾロは剣道部だった。
先日行われた県大会で、高校2連覇を果たした。
そんな後は、大概こういう手紙が増える。
ファンレターというか、ラブレターというか。
「これさ、いっつもどうしてんの?」
大量の手紙でズシリと重くなった紙袋をゾロに返しながら、ナミは苦笑する。
「一応読んでるよ・・姉ちゃんがちゃんと読めっつーからな。・・・んで、捨てる」
「捨てるの!?」
「当たり前だろ、こんなの全部置いてたら場所取ってしょうがねぇ」
一部の男子が聞いたら激怒しそうな発言を、ゾロはさらりと言った。
まぁ、事実なのだから仕方が無い。
「まぁねー、キリないもんね。でもまぁ、ちゃんと読んでるならいいんじゃないの?」
「つーか・・・靴と一緒に入れる神経が分かんねぇよ」
手紙の大半は、下駄箱に突っこんであるのだ。
おかげでゾロは、朝と帰り、いつもうんざりと下駄箱を見つめる羽目になる。
「かわいらしーーーい便箋のくせによ、土足の上だぜ?」
「あー、分かるーーー。靴出しにくくて邪魔だしねー」
ナミも、他校の男子から告白を受けるほどの美人である。
本人に自覚は無いが、ゾロと並ぶほどに『モテる』と言っても間違いではない。
そんなナミだからこそ、ゾロファンも案外大人しくこの2人を認めているのだろう。
「でも下駄箱が一番手っ取り早いんでしょうね。郵便受けみたいなモンだもん」
「漫画みてぇな蓋ついた下駄箱ならともかく、おれらの学校、ただの棚だしなぁ」
「個人情報丸出しよね」
「まったくだ」
2人とも、こういう類の手紙を貰うことで、お互いに文句を言うことは無い。
ナミはゾロがモテるのを承知の上だし、手紙を貰う程度なら構わないと思っていた。
ゾロの方は、ナミがどれだけ貰っているのかまでは知らないが、
それでも特に心配はしていなかった。
少なくとも、この日までは。
翌日の放課後、この日部活は休みだったので、
ゾロはナミがいつも待っている下駄箱に向かった。
「・・・ナミ?」
目立つオレンジ色の髪が見当たらず、ゾロはしばらくそこで待ってみたが、
ナミが現れる気配は無かった。
「まだ教室か・・?」
そう判断して、ゾロは1年の教室へ足を向けたが、
途中で見覚えのある顔を見つけて、立ち止まった。
「おい、ビビ!」
「はーい? あ、Mr.ブシドー」
呼ばれて振り返った青い髪の少女は、ゾロの姿を見てにっこりと笑った。
ナミとビビは同じクラスで、親友でもある。
ナミと付き合い始めてしばらくして、ゾロはビビに紹介された。
1年で生徒会役員をしていたビビは、チャンスとばかりにその場でゾロに取材を申し込んだ。
さすがナミの親友だ、とゾロはそのときしみじみと思った。
「ナミ、まだ教室か?」
「え?ナミさん?えーと、あの、教室にはいないわ」
何故か挙動不審になったビビに、ゾロは片眉をあげる。
「どこにいるか知ってんのか?」
「・・・えー・・と、・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・あの、実は」
ゾロの刺すような視線に耐えられなくなったビビは、口を開いた。
1年の校舎の裏側にいる、とビビから聞いたゾロは、怪訝に思いながら足を運んだ。
校舎の角を曲がると、すぐにナミの後姿が目に入った。
ゾロは声をかけようとしたが、やめた。
反射的に校舎に身を隠し、頭だけを覗かせた。
ナミの前には、男が立っていた。
(・・・・・誰だ・・・?)
2人とも無言だった。
男が何か言おうとして、口ごもっている様子だった。
ようやく口を開いたようだったが、その声までははっきりとゾロの耳には届かない。
だが、言おうとしていることは分かった。
あの男は、ナミに告白している。
ゾロは、ナミがモテることは知っていた。
彼氏の立場で言うのも何だが、あの容姿ならそれが当然だろう。
ただ、こう目の前で告白シーンを見てしまうと、
改めてその事実を突きつけられたようで、
何か胸の中がモヤモヤとしてきた。
(・・・くそ)
男がようやく言葉を言い終えたあと、すぐにナミはペコリと頭を下げた。
ナミの声は、ゾロにも聞こえてきた。
「ごめんなさい、私つきあってる人いるから。 でも、ありがとう」
男がしょんぼりと肩を落としてその場を去り、ナミもゾロのいる方へ向きを変えたので、
ゾロは急いで頭を引っ込め、そのまま一人で帰ってしまった。
翌朝、不機嫌な顔で教室に現れたゾロに、サンジは声をかける。
「何だよ暗いなオイ、ナミさんと喧嘩でもしたか?」
「・・・・・・・」
「え、図星?まだラブラブだろ?」
むすっとした表情でゾロは乱暴に椅子に座り、腕を組む。
「恋愛相談ならおれにまかせろよ」
にやっと笑いながら、サンジはゾロの前の椅子に後ろ向きに座り、ゾロに詰め寄る。
ゾロはサンジを睨むように無言で見ていたが、
観念したように口を開いた。
「・・・・ナミが」
「おう」
「男に告白されてた」
「・・・・・・」
神妙な顔でそう言ったゾロに、サンジは最初固まっていたが、すぐに脱力した。
「〜〜何だよそれぇ〜・・・・、そんなのよくあることだろー?」
「・・・よくある!?」
サンジの言葉を、ゾロは眉間に皺を寄せて繰り返した。
「あんだけカワイイんだぜ?告白なんかされまくってるよ。
おれ何回も見たことあるし、告ったヤツも知ってるし」
「・・・・あいつはおれと付き合ってんだぞ?」
「知っててもチャレンジャーってのはいるんだよ。お前にだって告ってくる女いるだろ今でも?」
「・・・・・・・」
確かに、ナミと付き合っていると知っているにも関わらず、ゾロに『付き合ってください』と言ってくる女はいる。
だが、ゾロには納得がいかなかった。
「何でおれがいるのに告白されてんだよ・・・・」
「ナミさんが悪いわけじゃねぇだろが」
「あいつが隙見せてるからじゃねぇのか・・・」
「・・・・・お前なぁ〜・・・」
頬でも膨らましそうなゾロを見て、サンジは苦笑する。
そこへ、大きな足音を立てて、教室へ何者かが乱入してきた。
「ゾロ!!!!!!」
2年生の教室にも関わらず、ナミは堂々と入ってきた。
クラスの人間の好奇の視線に構う事もなく、ズカズカとゾロの席に歩み寄り、机にバン!と両手をつく。
「ゾロ!!何で昨日一人で帰っちゃったのよ!私ずっと待ってたのよ!?
部活は休みだったんでしょ!?」
ナミの剣幕にサンジは圧倒されていたが、ゾロはむすっとしたまま、ナミと目を合わせない。
「ちょっと!何でゾロが怒ってんの!?怒りたいのはこっちでしょ!?」
「・・・・・お前」
「・・何よ」
ゾロがナミを見上げ、ナミもまっすぐにゾロを見下ろす。
「・・・・昨日、男に告白されてたろ」
「・・・・・・見てたの?」
「・・・・・」
ナミが気まずい顔になり、ゾロはまたぷいっとナミから顔をそむける。
「ていうかそれが何の関係があるのよ」
「・・・・ありがとうとか言ってんじゃねぇよ。もっとはっきり断れ」
「・・・はっきり断ったじゃない!」
「隙だらけなんだよ」
「なっ・・・・・・」
ゾロの意味不明な発言に、ナミは怒りで顔を赤くする。
「何で私が怒られなきゃいけないのよ!告白されたくてされたんじゃないわ!!」
ごもっとも、とサンジがうんうんと頷いていると、ゾロに睨まれてサンジは首をすくめる。
「大体、ゾロだって人のこと言えないでしょ!?」
「何だよ」
「手紙はちゃんと読んでるし、直接告白されたら優しーーく断ってるんでしょ!?」
「それは・・・泣かれたら困るだろ」
「そうやって優しさみせたりするから、女の子がまた寄ってくるのよ!」
「そんなの知るか!!」
「じゃあ私だって知らないわよ!!」
朝っぱらから、しかも校内一と言われる美男美女の痴話喧嘩を見せられて、
クラスメートはニヤニヤと2人を遠巻きに見守っていた。
「まぁナミさん、許してやってよ」
「サンジくんまで・・・!!!私何か悪いことした!?」
優しいゾロの友人に言われて、ナミは半泣きでサンジを見下ろす。
「こいつね、ヤキモチやいてるだけだから」
「なっ・・・・」
「え・・・・・・」
サンジがにっこりと笑ってそう言うと、
ゾロとナミは揃って一気に顔を赤くして、固まった。
「な、サ、サンジ!てめぇ何言ってやがる!?」
「ゾロ・・・・・ヤキモチやいてくれたの?」
「べ、別に、」
「しかしこのゾロがヤキモチやく日が来るとはねぇ・・・・
いくらモテる男とはいえ、カワイイ彼女持つとそうなるかー」
サンジが感慨深げに言う。
「てめ、それ以上何も言うな!」
「そっかー、やだゾロったら、ヤキモチやいちゃったんだぁーv」
先程の怒りの顔とはうって変わって、ナミは嬉しそうにニコニコと笑った。
ゾロは珍しくダラダラと汗をかきつつ、サンジを睨む。
サンジはそれも気にせず、話し続ける。
「ま、いい経験になったろ?こんなカワイイ彼女なんだから、しっかり捕まえとけよ?
自分がモテるからって調子乗ってちゃダメだぞ?
おれみたいに女の子に尽くさなきゃな!」
「調子になんか乗ってねぇし、誰がお前みたいになるか!」
「ゾロがヤキモチ・・・・」
「お前はさっさと教室戻れ!!」
うっとりとしたままのナミを、ゾロは無理矢理教室から追い出し、扉を閉める。
「ゾロー!!今日も部活休みよねー!?」
「あぁ!」
「一人で帰らないでよ!」
「帰らねぇよ!」
扉を挟んで大声で叫ぶナミに、ゾロも大声で返す。
その様子をまたもクラスメートはニヤニヤと見つめる。
「・・・・お前らもさっさと席つけぇーーー!!!」
『校内一の美男美女』のバカップル話は、
その日の放課後までには生徒全員の耳に入ることとなった。
「モテモテゾロとモテモテナミで、嫉妬ですれ違い、最後は仲直り」
11/7に拍手でリクくれた方。
あれ、すれ違ってない・・・。
喧嘩してるだけだ・・・。
言い忘れてましたが、この2人、拍手の学生ゾロナミです。
『拾。』の半年後ですね。
『溶。』はナミさん2年生の夏です。
2005/11/27
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