銀色夏生 「宵待歩行」 (角川文庫)

 

「宵待歩行」

霧にぬれて

ところどころの電灯で

足元をたしかめて

宵待草のともる野を行く

 

月の光を集めたよう黄色だ

囁くようにさいている

 

もはや 手段は何もなく

打ち寄せる波のような日々

 

霧にぬれて 悲しみに

ほほえむ僕に

 

この夜空

 

あなたとも会えず

あなたとも会えずに

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「別れたけれど」

別れたけれど

出会った痕跡さえ残せたろうか

あの人の心に

 

もう忘れてしまってるかも知れない

忙しい人だったもの

言いたいこと言い切れず

別れたけれど

 

別れてよかったと思う

ずっと忘れないだろうけど

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「決めたから」

私は変わったの

とても変わりたかったから

そうしたらいつのまにか変わっていたの

 

白い花を見て

名前を覚えた

友だちがへって

今は知りあいはすこししかいないけど

なぜだか前よりはふえた気がしてる

昔からたくさん友だちがいると思っていたけど

そうじゃなかったのかも

好きな人がたくさんいただけだったのかも

それも もういいの

私はね 本当は だれのことも わからないの

ひどくゆううつそうな人をみると

胸が苦しくなるけれど

もう近づかないと決めたから

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「丘の上」

「慕情」にでてくるような丘の上に

新しいビルがたった

白くて四角いビルだった

 

それもやがて廃屋となり

今も丘の上にある

今は鳥たちの住み家になっている

 

ふりかえることができるくらい

すこし長く生きていると

物事の表面だけでなく

裏側の事情を知ってくる

あのいじわるな教官も

人の親ではあったのだ

他人の事情を汲みはじめてから

僕はしばしば意見を曲げる

ものわかりの悪い人たちの

役わりというのもあるのだろうと

 

そしてまた時がすぎ

僕らもまた 無意識にだれかに

同じ思いをさせるのだろう

 

「慕情」にでてくるような丘の上

今は遠くの方まで開拓されて

頭上では飛行機の爆音

まだまだ道は続き

行き止まることはない

 

ここからの景色が

思い出させてきたものは

来るたびに違う

その時どきで変わっていく

 

「慕情」にでてくるような丘の上

今は遠くの方まで開拓されて

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「天の星は昔の光」

私たちのこの状況も移り変わる

永遠のような木の緑と空の青だけど

この平和が続くとは限らない

と 本に書いてあった

 

さすればと

暗雲が胸を横切る

くっと胸が痛む

 

そしてまたおもむろに顔を上げる

そうなった時に考えよう

今はまだ この体中の力を満喫しよう

天の星は昔の光

私たちの地にとどく時は

もうないのかもしれないけれど

今はまだ光ってみえる

 

あまりにも長い年月なのだ

星にしたら

普通なのだろうけど

 

人は人の命の中で

物を見ればよくて

それでも時にくじけた時に

星の命の中で

物を見ればいい

そうして

勇気づけられる 冷静な勇気を

 

たくさんの

それはさまざまな

長い 短い 一生がある

 

ほたるの命をおしむように

星の命に甘えたい

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「輝き」

私はあなたが好きだった

確かに いつか

 

そして今 目の前にいるあなたは

見たこともないあなただった

 

でも

あなたは輝きをつかんで

その手で包みこんでしまったので

あなたはしあわせになったけど

人からみたら輝きが包みこまれてみえないので

あなたはもう輝きをなくして見えるだろう

 

それもひとつの輝きのかたち

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