銀色夏生 「うまいウソ」 (角川mini文庫)
「一月のバラ」
あなたにもらった
バラの花
一本の紅色のバラ
コーヒーカップのとなりで
清々しく微笑む
夕方になったので
影が長くのびている
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「二月のクロッカス」
寒い夜
あたたかくなるように
くっついて歩いた
間にふわふわしたコートがあって
ぶつかると
ポンポンとはねた
花屋でクロッカスを買った
香りが
しんとした夜に染みた
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「三月さくら」
うさぎが涙する
三月さくら
さらさらさくら
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「四月菜の花」
折り目正しい
時間の行進
見おくるばかりで
恋の輪の外
四月
菜の花
黄色いさざ波
波にまかれて
しまいたい
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「五月スズラン」
白い鈴が並ぶスズラン
山の峰々にすがすがし
うつろう野に出て
鈴を摘む
リンリンリン
歩くたび
鈴がなるよ
リンリンリン
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「ライラック六月」
うすむらさきの花の束
歩道のわきにどこまでも
決意をかためる
初夏の道
思いは矢になる
坂の道
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「七月七夕」
ササの葉の影は
川の流れ
七夕の日の曇り空
まゆをしかめて
少女が見上げる
空は
白くて
まったいら
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「カンナ八月」
手紙をもらった
暑い午後
車を洗っていた私の
左手にホース
右手に封筒
ブロックに腰かけて
封を切った
読み終った時
笑ってた
カンナの黄が燃えるよう
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「九月の旅立ち」
九月は旅立ちの季節
ある鳥にとって
長い旅にでかけるんだ
私も旅に出るよ
九月になったら
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「十月ススキ」
夜の縁側に腰かけて
月を見る
何も起こらない
変化も何も
池にうつる
ススキの穂
黙りこむ僕が
意地っぱり
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「十一月しもばしら」
北の島へ遊びに行ったら
朝
しもばしらができていた
ザクザクと踏んで歩いた
長いのが特におもしろい
土の中の氷は
白くてきれいだった
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「十二月の虹」
虹を見たよ
凍りつくような虹だったよ
山と山の間に大きくでていたよ
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「ひかりに光る」
ひかりに光る
あなたの髪の毛
茶色に光る
キラキラと
あなたは私のものではないけど
心もこっちを向いてないけど
あなたを見ていられるってことがうれしい
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「サヨナラ ナミダ」
サヨナラ ナミダ
ナミダノ カケラ
カケラト クダケ
チリユク ワカレ
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