銀色夏生   「好きなままで長く」  (角川文庫)

 

私はあの人の存在をこの世の中に知った時

あの人こそ私の好きな人だと思いました 

そんな思いは子供っぽい憧れかもしれない

けど そう思えてしかたなかった  私はあ 

の人と会うことができないかもしれない   

その場合はあの人のような人が今この世に

いるということを知っただけでもよかった  

と思うだろう  確かにあの人を発見して以

来 私の毎日はより生きる価値のあるもの

となり  大事なものとそうでないものの区

別がいっそうつくようになった  あの人が

あのような態度でこの世を生きていくのな

 ら  私も私にこれまで以上にきびしくなり

精神性をつらぬいて生きていく  そんなさ

さえになったのです             

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あまりにもあの人が好きで好きで

頭がおかしくなりそう

と友だちが言った

片思いなのによくそこまでと私は言った

それぞれに悩みをもつ友だちの話を聞きながら

最後はみんな泣いてしまった

なんでこんなに泣けるのか不思議だった

暗闇に咲く白い花のようだった

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ついに私は秘密の場所を発見した。毎日そこへ

行こう。死ぬ時もそこで死のう。最近、仕事が

イヤでイヤでたまらなく、どうしてみんなあの

建物にすいこまれていくのだろう。それを許す

のだろう。アリのように黙って、と思っていた。

こんなふうに生活に疲れていたから、私は秘密

の場所を見つけた時、救われる思いだった。

そこは同じ建物の中にある。黙々と人々が働く

同じ場所にある。それは私の心の中にあった。

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あやうく忘れるところだった

もう忘れかけていた

でもすんでのところで思い出した

あの気持ち

僕らを連れ去って夢を見させてくれたあの気持ち

こんなふうに長い間

忘れながらそのうち思い出して

というのを繰り返し

いつの日かすっかり忘れ去ってしまうのだろうか

 

人はなぜ夢を見るのだろうか

夢をかなえるために?

夢を見るのが本能なら

夢はなくならないだろうに

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あなたが私にとって大切な人であるとわかり

あなたが必要とするなら

私は力をあげる

私の力はあなたに役立つだろう

 

力を愛する人に与えられることほど

願ってもないことはない

私たちの力は加速する

 

私はあなたを見つけた

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こんなに波の多いところを

くぐりぬけてよく来たね

僕を忘れずに求めてくれてうれしい

君の思いが

僕たちをたびたび会わせてくれる

君の姿が見えるたびに

僕は息をのむ

みるみる近づいてくる君に

あらためて驚くのさ

 

波が多く すべりやすく 迷いやすい世の中

わかりやすく 変わりやすく 別れにくい僕たち

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静かにと夜が言う

私は静かになる

輪郭も重さも夜に紛れ

私は見えないものになる

こころだけのものになる

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恋が目の前にない時

恋をするのはむずかしいものだと思う

どんなふうに恋を

人はしてたかなと思う

 

恋をしてしまった時

恋をさけるのはむずかしいと思う

広い野原のまん中で

夕立をさけるのがむずかしいように

走っても逃げても

逃げても遅い

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「深海の真珠」

わたしとはだしの足は

海へはいった

つめたくて気持ちよかった

 

ふりかえった時

砂浜で日光浴をする人々が

水面上に揺れてみえた

 

わたしとはだしの足は

波にただよう

太陽がキラキラと反射して

とても静かだ

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散っていく氷のカケラ

空から無数の雪

人の形をした木

私たちは歩いた

 

人のことをこんなに気にしたのははじめて

何を考えているのかわからないよ

自分のことをこんなに考えたのもはじめて

どうしたいのかわからないよ

思いはさまよい くるくる回る

近くにいるのに

 

この人が

ちょっと笑ってくれさえすればいいのに

今日はそれでいいのに

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今日という日がまた終わる

夜になり夜が更けて

いつのまにか時間だ

 

今日は昨日とよく似ていたし

明日もきっと似てるだろう

 

私は変化を求めてる

もう百回も試みた

 

そして稲妻の緑のように

イナズマがきてピカリと光れば

大きな音に驚いて

その時だけは

胸がいっぱい

 

その時だけは

胸がいっぱい

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