油断していたわけではなかった。
それでもひとりひとりのレベルはともかく、後から後から湧き出る敵の多さにはうんざりするしかなかった。

メリーに残った側のクルーも良く応戦している。

ウソップは手元の敵を掻い潜りながらとにかく砲台を狙い、次々とその砲門を潰して確実にその攻撃力を削いでいる。

チョッパーは得意のランブルボールで変形しながら、角強化ホーンポイント腕力強化アームポイントなど様々な形態を以って敵に隙を与えず迫り来る輩を一掃する勢いで蹴散らしまくっている。

ロビンもハナの手と目で周囲に注意を巡らせ、乗り込んで来ようとする者から先に蹴落として出鼻を挫きながら確実にクラッチで動きを止めている。

その他に漏れた敵をナミもクリマタクトを駆使して応戦し、全員が一丸となって戦っていた。

もちろん敵船に乗り込んだ3人の活躍は言うまでもなく苛烈なほどで、チラリと見れば各々立ち位置を担当した場所では派手な人間花火が何度も打ち上がっているのが見える。
手加減など毛頭するつもりもなく、特にルフィなどはせっかく振舞われた肉料理を味わう好機を奪われ、さぞや憤慨しているに違いなかった。


タタタタタン!


軽い連続音に何だと思えば、それは甲板に銃弾が着弾する音だった。
そのうちの1発などもろに靡いた髪を掠め、ナミはどっと冷や汗を噴き出させながらきっとその方向を睨み返した。
掠めた位置と甲板に開いた穴の角度から瞬時にその方向と角度を割り出す。

「ウソップ、厄介な銃撃部隊が別働でいるわ! あそこ狙えるッ?」
「おお、任せろ! 砲身0度リセット方位35度、仰角50度、うりゃ――ッ!」

瞬時に反応した長鼻の狙撃手は、ナミの指し示した方角に砲身を操り、その一角を占めていた敵の狙撃手の一団を見事粉砕してのけた。
見事なコンビネーションだった。

「うーし、さすが名狙撃手キャプテン・ウソップ様、グッジョ〜ブ俺!」

それでも完全に大砲による砲撃や砲台自体を排除しきれていないため、向こうからの激しい攻撃は止まず、何度も海面に着弾する波の煽りを受けてメリーは大きく揺らいだ。

それには辛うじて踏み止まったが引いた踵が何かを踏みつけ、ナミの身体は大きく揺らいだ。

「・・・・・ッ!」

その好機を間近にいた敵が見逃す筈もなく、下卑た笑みを浮かべた三下の海賊はそのまま半月刀を振り被ってナミへと迫った。
咄嗟にクリマタクトを構えたが指が滑り、それは一瞬遅れて胸元までしか持ち上げられなかった。

見開かれた瞳が、コマ落としのようにその動きをつぶさに捉える。
あれで斬られれば、おそらくゾロのように肩から脇腹に掛けて大きく袈裟の傷になるだろう。
いや、傷で済めば御の字、下手をしたら命はない。

(――間に合わない!)


「「ナミ!!」」
「航海士さん!」



「――――――ッッ!!」



その、瞬間――マストに凄まじい衝撃が伝わった。
それは船体を揺るがすほどの激しさで、メリーは大波の煽りでも食らったかのように激しく揺れた。


突然のことに男は足を掬われ、ナミをどうこうするどころではなくなった。
次の刹那に双方の間に黒い影が舞い降り、それは旋風を巻き起こす勢いで竜巻を呼んで無頼の輩の身体を吹き飛ばした。

「油断してんじゃねぇ! 船に細けぇのが群がってっからよもやと思ってみりゃ、何だこの有様は!」
「――ゾロ!」

どんな手品を使ったのか、ゾロはおよそこの男の跳躍力を以ってしても飛び越えられない距離から飛んで来たらしかった。
ナミは驚いて何度も目を瞬いていたが、すぐにすべきことを思い出し、戦況を見極めようと辺りを見回した。

敵船内では相変わらず人が噴水のように吹き飛ばされ、残ったふたりの斬り込み隊の猛攻振りが伺われた。

それでなくともルフィは、あれほど楽しみにしていた宴会の邪魔をされているのだ。
その怒りは並大抵のことでは収まらないだろう。

「向こうはもうじきカタがつく。こっちも一掃すんぞ! ――犀回サイクル!!」

一時は押されていたメリー内の空気は、ここに来てゾロの登場で一気に逆転した。
決して不利ではなかったものの、とにかく尽きない人員に辟易を通り越してさすがに疲労が蓄積していた。

ゾロの傍らでまたひとり敵を薙ぎ倒し、ナミははっと我に返って足元を見た。
甲板の端に置いておいた筈の物が散々な揺れにあって縁の方まで転がっている。
それはナミが今日ゾロのためにと特別に用意したもので、そうおいそれと手に入らないランクの品だった。
このままでは海に落ちるか、この騒動で壊れるか。
今の今まで無事だったことの方が奇跡だったが、ならば今ここであっさりと壊されてしまうのも納得がいかなかった。

ちょっと手を伸ばせば届く位置だ。

ナミはそれを掴み取ろうと手を伸ばした――。


「――ナミッ!!」


数発間近に届いた銃弾に身体が竦む。
ナミが必死に手を伸ばしたそれは、ほんの目と鼻の先で甲板を叩く銃弾で粉砕されてしまった。

いや、それよりも。

手元が翳ったと思わず振り返った視界に映ったのは、脇腹を朱に染め、それでも倒れまいと踏み止まる剣士の姿だった。

「・・・ゾロ!!!」
「バ、カが・・・何下らねぇモンのために飛び出してやがる・・・!」

掠ったのか直撃か、いつもの真白いシャツはいつしかじわじわと赤く染まっていた。

翡翠の双眸が敵船の銃撃部隊の位置を見極める。
視界で直接見えずとも、特定の位置に定められた殺気の発信源は自ずと感じているようだった。

浅い呼吸が整えられ、それらのすべての場所を睨めつける。

「一世三十六煩悩・・・」

「二世七十二煩悩・・・」

「三世百八煩悩・・・」


「三刀流・・・百八煩悩鳳ポンドほう!!」


轟音とともに旋風が巻き起こり、それは周囲のすべてを薙ぎ払うかのような勢いで敵船の横腹を甲板付近の銃撃部隊諸共抉った。

それとほぼ同時に、まるでそれに呼応するかのように敵船甲板上でふたつの激しい旋風が巻き起こり、それによって船員の殆どが打撃の乱打を浴びて海中へと消えていった。


夕暮れ漂う頃合いに始まった戦闘は、日もとっぷり暮れた時分にようやく収束の時を迎えた。





「ち・・・チョッパー、ゾロのバカが怪我したわ、診てやって! 私は向こうの様子を見て来るから!」
「な、ナミ? 大丈夫なのか、敵は――」
「あっちにはルフィたちもいるんだから大丈夫よ」

そう言って飛び出しかけた時、丁度向こうから戻って来る人影があった。
言わずと知れた船長と料理人に労いの言葉を掛けると、ふたりは苦笑めいた顔を浮かべて肩に背負った荷物袋をそれぞれに叩いた。

「何、それ?」
「ん〜? 俺が持ってんのはお宝で、サンジが持ってんのは食料だ! 俺はあっちの方がいいって言ったのによ」
「てめぇに持たせといたら、キッチンに行くまでに全部なくなんだろうが」
「え、お宝あったの?」
「まあ一応っていったレベルですよ、ナミさん。ったく、あんだけでけぇ図体のくせして大した質のお宝も食材もねぇなんざ、海賊の風上にも置けねぇぜ」

ぶつぶつと文句を言うが、それでもこのコックの手に掛かればどんな三流の食材でも超一流の料理に変わるのだから不思議だった。
改めてルフィの背負っていたお宝とやらも覗いてみたが、確かに質の点では今ひとつといった具合だった。
ないよりはマシだっただろうが、それでも少しは鑑定眼を養えと言ってやりたくなるレベルだ。

「ま、これでもないよりマシね」

さほどひどくはやられなかったが、それでもまったくの無傷とはいかなかったメリーも修理してやりたい。

「何だゾロ、てめぇあんな雑魚相手に怪我してんのかよ? 未来の大剣豪様も大したことねぇな」
「・・・うるせぇ」
「うん、出血は多かったけど弾は抜けてるし、いつもの怪我に比べたらまだまだましな方だよ。でも、3日は安静にしてなきゃだからな。特にあの、でっかい重りを振り回すのはダメだぞ? 腹筋に負担掛けて傷が開くから」
「へぇへぇ」

ナミはちくちく痛む胸を抱えながらそれを眺め、それでも平静を装って次の指示を出した。

「ウソップ、メリーは移動できる? 少しあいつらから離れたいわ。そうしたらまた錨を下ろして停泊するから」
「おう。けどナミ、少しでもお宝が手に入ったんなら、次の島ではメリーの修繕を最優先に考えてもらえると嬉しいな」
「うん、考えとくわ・・・」

自責の念で胸が痛い。
だが、今ここでそれを口に出してしまえばまたケンカになりそうな気がする。
特にサンジが絡めば、彼は真っ先にナミに味方するので、それを快く思わないゾロが食って掛かるのは目に見えていた。

かといって、このままうやむやにはできない。

逡巡する思いから、知らず両手をきゅっと胸の前で握り締める。

「航海士さん、ひどい顔色よ。船医さんを呼んだ方がいいかしら?」
「ううん、平気よ・・・」

ざっと甲板を見回す。

サンジがせっかく腕を振るって作った料理は、半分がところかれらの破壊行為によって粉砕されていた。
当然の報酬と、敵船から強奪して来た食材を頬張っているが、そんなものでルフィが納得しているとは到底思えなかった。

「サンジ〜、メシ〜、腹減った〜〜」
「ったぁく、終わればそれなんだからよ。待ってろ、今その三流食材に一流コックの腕を加えてやる」
「チクショ〜、一番でけぇ肉後の楽しみに取っといたのに〜。慣れねぇことすんじゃなかった〜〜」
「繋ぎにこれでも食ってろ」

袋の中を物色し、サンジは特大のバケットを出してルフィの口へと押し込む。
それはほんの一瞬でなくなった。

「おいコック、俺にも酒」
「怪我人の分際で何を要求してんだかな。おらよ、ほどほどにしねぇと脇腹の風穴から酒が噴き出すぞ」
「や、出ねぇから!」

とりあえずナミたちを守った報酬とでも思ったのか、サンジは渋々ながらもゾロへと酒の瓶を放ってやった。
そのサンジにウソップがきっちりツッコんだが、それはチョッパーの乾いた笑みしか誘わなかった。





緩い風に乗って少しだけ移動し、皓々と月の光の煌く大海原の真ん中に錨を下ろして停泊する。
おそらく今夜はそこで夜を明かすことになるだろう。

ウソップを筆頭にして、少し甲板などの補修をする。
派手に壊れたわけではないが、それでも愛しのメリーが傷ついたまま放置されるのは彼の気が済まなかったらしい。

いつの間にか前甲板からゾロの姿が消えていた。
サンジから酒を貰っていたので、おそらくこの月夜に誘われて後方甲板か蜜柑畑の方へでも行ったのだろう。

ひとりでいるのだろうから、これを好機と一言あって然るべきだ。
仮にも大怪我をするかもしれなかった場面を助けてもらったのだから、それ相応の言葉くらい掛けてもバチは当たらない。

そう頭では判っているのに、なぜか足が動かなかった。


怖かったから。

また自分のせいで誰かが傷つくのを間近に見てしまったから。


乗り越えたと思っていたのに、まだ過去の記憶はこうしてふとした弾みに表面化してナミの心を絞めつける。

自らを抱くように立ち竦んでいると、不意に頭に温かな何かが乗せられた。
何事かと目を開ければ、そこにはさして目線の高さの変わらない黒髪の船長が佇んでいた。
ルフィはいつもと何ら変わらない笑顔で、ポンポンとナミの頭を撫でた。

「大丈夫だから」
「・・・え?」
「んにゃ、船も、みんなも、ゾロも、全部だ」
「ルフィ・・・?」
「だから、ひとりで泣くなよ? お前が泣くんなら誰の胸でも貸すけど、風車のおっさんに言い訳立たなくなっからできれば泣かないでくれっといいんだけどな」
「うん・・・」

ナミは目尻に浮かんだ涙をそっと拭って口許で小さく笑った。

本当にとんでもない男だ。
いつもは間が抜けていて、自分が舵を取らないとどこへ行くか判らなくて、率先してトラブルばかり呼び込む問題児だというのに。
その小柄で細い身体が、どうして今はこんなにも大きく見えるのだろう。
やんちゃをそのまま具現化したような少年なのに、どうして今はこんなにも大きな漢に見えるのだろう。

やはり未来の海賊王になる男だからなのだろうか。

「・・・ありがと、ルフィ」
「おう、いいってことよ」

そうして背中越しに手を振る姿はやはり一船の船長に相応しく、手にしたものをすべて背負う覚悟と許容とが同居して見えた。





皓々とした光を投げ落とす月を肴に、珍しくサンジが素直に寄越した酒を呑む。

質より量の海賊相手で歯応えもなかったというのに、この体たらくは少々自分らしくなかった。
まだまだ修行が足りないと自然苦くなる酒をぐいと嚥下し、小さく吐息を漏らす。

そこに誰かの気配を感じれば、やはりと言うべきか蜜柑畑からの階段をナミが降りて来るところだった。
視線が絶えずあちこち彷徨っているところを見ると、未だ納得し切れていないか何か迷っているかのどちらかなのだろう。

迷いも衒いもない目を向けると、ナミは明らかに狼狽するかのように視線を逸らした。
完全に横を向いたままナミが呟くようにこぼす。

「・・・助けてくれなんて言ってないのに、そんな怪我して・・・」
「あぁ? ったく、いきなりその言い草かよ」

意識して助けたつもりはなかったが、いきなりその言葉はないだろうと眉間の皺が深くなる。

「あんた、バカよ。銃弾の雨に身体晒してそんな的になるなんて」
「てめぇでやったことだ、修行が足りねぇと自覚はしてるさ」
「ホント、バカなんだから・・・」
「・・・てめぇわざわざケンカ売りに来たのかよ!?」

言葉尻に棘を込めて言い返すと、不意に視界が暗くなった。
何事かと問うまでもなく、近くに膝を落として屈んだナミの胸に抱きしめられたらしかった。

「バカよ、ホント。あんた普段の行いが悪すぎるのよ。せっかくの誕生日なのに敵襲に遭うわ、セッティングした席をメチャメチャにされるわ、そんなつまんない怪我はするわ・・・」
「バカバカ連呼すんな。・・・だから、何が言いてぇよ?」
「偶然でも勢いでも、私の近くで血を流して欲しくないのよ。もう、私のせいで流れる血を見たくないの・・・」

それはアーロンに囚われていた頃の記憶に連動する。
誰も頼れず、誰も傷つけないためには自分がその渦中にいるしかなかった頃の。

ゾロは目を閉じ、そっとそのオレンジの髪を梳いた。

「せっかくプレゼント用意してたのに・・・」
「ああ――もしかして、あの時それを取ろうとしてたのか?」

ふと銃弾の雨の中、ナミが必死に手を伸ばしていたものを思い出す。
綺麗にラッピングされていたが、細長い筒状のものだったのでもしかしたらと思い直す。

「・・・そうよ、大酒呑みのあんたにはもったいないくらい上物のいいお酒だったのに。返す返すもあんなとこに置いとくべきじゃなかったと後悔してるわ」
「ああ、そりゃあもったいなかったな」
「私の盾になって怪我して、おまけに貰える筈だったお酒もパアにして・・・ホント、あんたってついてない」

すぐ隣にぺたんと座ったナミの溜息が微かに頬に掛かる。
それを間近に感じたゾロは、ふと悪戯めいたことを思いついた。

「なら別に『お前がプレゼント』でもいいんだぜ? よく言うだろ? 『プレゼントは私♪』ってよ」
「・・・あんたオヤジ? まったくどこからそんな、いらない知識ばっかつけて来んのよ」

小さく肩を竦め、それでもこの場から去ろうとはしない。
口では呆れましたと言ってはみても、結局ナミ自身それを甘受しているということなのだろうか。

――と、いきなり細い指先がゾロの耳元に掛かり、強引に引き寄せられる。
そのまま何をするのかと思えば、いつしかゾロの頭は座ったナミの膝の上に乗せられていた。

「せっかくの誕生日だもん、貸しだなんて言わないわ。今日だけのサービスだからね、本日限定なんだからねッ」

どうやら肝心のプレゼントをなくした代わりに、膝枕という代替品を思い立ったらしい。
柔らかで甘い香りのするそれは、上物だったという酒に勝るとも劣らない魅惑の贈り物だった。

「ああ、悪くねぇが・・・」

ゴロゴロと頭が安定する置き場所を模索し、結局うつ伏せになってその細腰を抱くように頬を埋める。
短いスカートから曝け出された太腿の柔らかな感触や、何気なく触れた頭にそのしなやかな身体からの鼓動が伝わって来る。

いつもより熱い身体も少し早い鼓動も、今傷負ってここにいる自分の気のせいではない筈だ。
何となく気分がいいので、思わずもう一声つけ加えてみる。

「せっかくだから唄えよ。いつも、蜜柑の手入れしながら鼻歌唄ってんだろ? アレでいいから」
「歌って・・・ちょ、ちょっとゾロ聞いてたの? やだ、私そんな大きな声で唄ってた・・・?」
「気配を辿るように意識を向けりゃな。まあ、俺だから聞こえたってところか」

それはきっと無意識下で気を向けていたせいに違いない。
戦いの最中で、咄嗟に飛び出したナミを反射的に身体で庇ったように。

「ほれ、プレゼントなんだろ? 恥ずかしいなら目ェ瞑ってっからよ」

ゾロは切れ長の翡翠色の双眸を閉じる。
ナミは喉の奥で唸っていたが、やがて観念したかのように低く高く囁くような声で唄い始めた。


それは、かつてベルメールが唄っていた歌。
機嫌のいい時や酔っている時に、まるでふたりの娘に聞かせる子守唄のように。
その時は判らなかったが、今になってみればナミにもその意味が理解できる。



愛しくて。

ただ愛しくて。

そこにあるだけで涙が出るくらい嬉しくて。

幾万もの人の営みの中で、限りある逢瀬の偶然に感謝したくて。



ありがとう。

生まれて来てくれてありがとう。

出会ってくれてありがとう。

生きていてくれてありがとう。

愛してくれてありがとう。


それだけが、ただただ嬉しいから・・・。



甘いフレーズ、繰り返す優しい旋律。
溢れる想いを切々と綴る恋唄に、ゾロの胸は傷の痛みも忘れて満たされた。

こんな誕生日も悪くない。
傷負った不覚を埋める鍛錬はまた今後更にメニューを加えて積み上げればいいが、こんな優しくも柔らかな瞬間は早々訪れたりはしない。


滅多に見ないゆったりとした顔で目を伏せる様を見下ろし、ナミはこういうのも悪くないかもしれないと相好を崩す。
決して軽くはないその重みが、今この場所で生きている生命の重みそのもののようで、照れ臭いながらももう暫くそうしていてもいいと思ってしまう。

規則正しく揺れる呼吸に眠ったことを確信し、野次馬がいないか一応辺りを見回してからそっと呟いてみる。

「・・・ありがとう、ゾロ」

上体を屈め、三連のピアスの煌く耳元にそっと唇を落とす。
囁くような声音だったのに、その片目が薄く開かれた。
おもむろに伸ばされた左腕がナミの頭を抱え込み、強引に引き下ろしてそのまま唇を封じる。
触れて、チラリと唇の表面をなぞるだけの口づけだったが、ナミの度肝を抜くには十分すぎる爆弾だった。

「何だよ・・・人が寝入るの待ってからしかそういう殊勝なこと言ったりしたりしねぇのかよ」
「お、起きてるなんて反則よ!」

思わずその横面に軽く平手を落とす。
それを捉えて更に唇を寄せたゾロは不敵な笑みを浮かべ、反対にナミの頬を朱に染めた。

「ホントはこのまま続きと行きたいとこだけどな」
「・・・イヤよ、血の雨を浴びたくなんてないもの」
「ほお、随分意味深じゃねぇか。なら、続きは後でな」
「・・・エロマリモ」
「上等だ、ナミ」


そうして肩の力を抜いたナミは再び小さな声で唄い始めた。

今ここにある、すべての命に感謝して。



   <FIN>




真牙サマ(Baby Factory)の、2005年ゾロ誕DLF作品。


ゾロとサンジの合体技、うはうはです。
あぁこんな感じなんだきっと!こういう事言ってるんだよコイツら!みたいな。

膝枕の言い訳を連呼するナミさんが好きです(告白)。
ゾロはついてないようで、結局オイシイとこ頂いてます。
「そ、そうか!膝枕はうつぶせか!!」と妙なところで衝撃(笑)。

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