「は〜い、んナミすわ〜ん、ロビンちゅわ〜ん、朝食の用意が整いましたよ〜。うぉら野郎ども、とっとと来ねェと全部ルフィの餌食だぞ!」

ラウンジの前で中華鍋の底をおたまでガンガン叩きながら、毎度のサンジの呼び掛けが響き渡る。
それに合わせて船のあちこちからクルーたちが顔を見せ、一同はきちんと整えられたラウンジに集った。
そこには、いつもの朝食にもう一手間掛けたメニューが並び、早速伸ばした右手を縫い止められているルフィに滝の涎を流させていた。

「すみませんねナミさん、こんなあり合わせの食材で。明日島に着いたら早速新鮮な素材を仕入れて、腕によりを掛けて素敵なディナーを振る舞いますから」
「あら、そんなことないわよ。十分よ、これで。いつも美味しいご飯のお陰で、こっち体重を維持するのが大変なんだから」

そう言いつつ始まった食事風景はいつもと何ら変わりなく、ものの5分もしないうちにあれこれ飛び交う乱戦状態になりつつあった。
混乱の原因はもちろんルフィで、踵落としの一撃で沈黙を余儀なくされた船長は床に伸びたままにっと笑ってナミに告げた。

「そーだナミ、今日楽しみにしてろな」
「・・・はぁッ? 一体何を企んでるのよ、あんたたち!?」

そう問い掛けても、誰ひとり口を割る者はいない。
その辺りは重々打ち合わせか示し合わせでもしたのか、視線を振ってもウソップやチョッパーまでもがさり気なく目を逸らす有様だ。

こうなると変に団結力の高いことを知っているので、ナミはそれ以上追求するのをやめてラウンジを後にした。

(どの道、今日一日過ごしてみれば判ることだわ)

それよりも、気候も落ち着いて来たのだから、あれこれ仕事をこなさなくてはならない。
日誌の書き込みが終わった今みかんの手入れが最優先事項で、3本あるうちの木の2本は剪定して、残りの1本がいくつか収穫できるものがあったような気がする。
若干荒れた海域を渡ったので、少し肥料や補強が必要なところもあったかもしれない。

指針を確認して大雑把なメモを取り、それを分類して今度は倉庫の方へ行く。
メリーに乗るクルーたちはいつも通りそれぞれの定位置にいるので、ナミはそんなものだと少々油断していた。




「ナ〜ミ〜〜〜〜ッ!」

不意に上空から間延びした声が掛かり、何事かと振り仰いだ瞬間目の前にルフィが現れた。
と、状況を把握する間もなく一気に全身を浮遊感が襲い、気づけば彼女は悪戯好きの船長に抱えられたまま思い切り空中に放り出されていた。

「い、やぁぁぁぁぁぁッッ!!」

いや、見張り台に伸びた左手を掛けて飛び上がったので、本当の意味で「放り出された」わけではないのかもしれない。
それでも不意に投げ出された恐怖は計り知れないものがあった。
やがてルフィをクッションにしながら見張り台の中へと飛び込んだが、心臓が飛び出すかもしれないと思ったナミの驚きは半端ではなかった。

目を見開いたまま身体に力が入らず、早鐘のような心臓の音を聞きながら呆然と空を見上げる。
その身体をルフィは無造作に抱きしめ、オレンジ色の髪をくしゃくしゃと掻き回しながら嬉々として告げた。

「ナミ、誕生日おめでとな。いつもは大抵ゾロ辺りにしかやんねェけど、たまにはこうして一緒に飛ぶのも鳥になったみてェで楽しいだろ?」
「・・・・・・」

未だ意識が戻りきらない顔を覗き込み、小さく首を傾ける。
そこにはしてやったりの楽しげな笑みが浮かんでいた。

「おー、驚かして悪ィ悪ィ。そんなにビックリしたか? んでも、気持ち良かっただろ?」
「い・・・いいわけあるかぁぁッッ!!


ドカメキ、ゴキンッ!!!


「な゛、な゛ん゛で・・・」

憤慨するナミが甲板に降り立つ頃、ルフィは形の変わった顔を押さえて蹲るしかなかった。





(まったくあのバカ、何考えてんのよ? 人抱えて吹っ飛ぶのなんて、もっと頑丈な奴だけにしとけってのよ。人を荷物みたいに放り投げといて・・・今度やったら勘弁しないんだから)

ぷりぷりしながら倉庫から補強用のロープと鋏を持ち出していると、そこにウソップがやって来た。
さっきの今なので、どうしても視線が剣呑としてしまう。
それに一瞬怯んだものの、「俺は勇敢なる海の戦士!」と小さく口の中で呟いたウソップはわざとらしく大きな咳払いをした。

「あー、ナミ? その、怒るなよ?」
「何が? あんた、何か私が怒るようなことしたの?」
「いいい、いや何もそんな! その、したってよりも、これからするって方が正解かと・・・」

言い訳がましく目を逸らしながらぶつぶつと言い募る。

「そんでなくたって、あいつ・・・の視線がお前から逸れる瞬間を狙ってたんだからよ」
「だから、何が? あいつって誰!?」

そう言いかけた瞬間、ゆっくりと伸びたウソップの手がナミの肩を抱いてそっと自らの肩口に寄せた。
柔らかな、抱擁と呼ぶにはあまりにもささやかな所作に、ナミは一瞬怒るのも忘れて目を見開いた。
そこには少なくとも妙な下心や作為は感じられず、あるのは溢れ出す誠意と敬意、そして仲間としての想いだった。

「あー、その・・・たんじょーびおめっとさん。そして、いつも頑張ってくれてサンキュ。俺たちがこんなおっそろしい海を無事に航海できるのは、全部船の根底を支えてくれてるお前のお陰だ。その魔女に――いやいやいや! 優秀なる航海士に謝意を表明して、海の戦士ウソップ様からの気持ちに代えさせてもらうことにするッ、以上! だから殴るなよ!?」

慌てて飛び退いたウソップは、咄嗟にナミが後ろ手ながら瞬時に組み立てたクリマタクトを敬遠しながら、背を見せないように一目散に逃げ出して行った。
捨て台詞なのか、「確かに伝えたぞ〜!」と叫びながら。

(・・・ナニ、これ・・・)

今ひとつ状況が飲み込めず、何度も目を瞬かせる。
もしかして、と思った思考はひとつの結論を弾き出しつつあった。





みかんの手入れは時間がかかりそうだったので、優先順位を変えて踵を返す。
指針を確認して取ったメモを先に片づけるのに部屋に戻れば、読み終わった本でも戻そうと思ったのか、分厚いそれを抱えたロビンが階段を降りて来るのが見えた。

「あらロビン、何か次の本を物色中?」
「ええまあ。航海士さんは、片づけ物で忙しいところだったのかしら?」
「んーん、別に。これをファイルにしまってから、みかんの手入れでもしようと思ってね」

そう、と頷いたロビンはおもむろにナミに近づき、そのまましなやかな両腕を開いて彼女の身体を絡め取った。

「・・・えーと」

女伊達らの長身とナミにも勝る豊満な肉体に抱きしめられ、一種男に抱擁されるよりもどうしていいのか思考が麻痺する。
その困惑を感じ取ったのか、「他意はないのよ」と耳元に柔らかな囁きを落とした。
そうして綴られた言葉は、子守唄の響きを以ってナミの心に降り注いだ。

「お誕生日、おめでとう。元は敵だった私を船に乗せてくれて感謝しているわ。こんな経験はしたことなかったから毎日が戸惑いの連続なこともあるけれど、本当に嬉しいのよ。それに、女同士でこんな風に誰かと一緒に過ごしたこともなかったし。受容されるというのは、くすぐったいようで嬉しいものなのね」
「そんなこと・・・だって、ロビンを誘ったのはルフィだし・・・」
「そうね。それも事実。そして、真実は目に見えるものばかりではないわ」

ふくよかな胸元にきゅっと抱かれ、別の意味でどきどきする。
ベルメールに抱きしめてもらった幼い日、傷負って村に戻って黙ったままのノジコに包まれた日――ふとそんな記憶が甦り、ナミは何とも言えない気持ちになった。

年上の落ち着きが、今のナミには遠いあの日に亡くした温もりを思い出させる。
香りも感触も違うのに、なぜかあの頃の記憶を呼び起こされる。

「ありがとう。今日の日にここにいてくれるあなたに、心からの謝意を表するわ」
「・・・ここは、『どういたしまして』と言うべきなのかしら?」
「だと嬉しいわ」

くすくすと豊かな双丘が揺れる。
抱きしめられた腕が心地好い――が。

「――ロビン、ひとつ言ってもいい?」
「ええ、何かしら?」
「抱きしめてくれるのは嬉しいんだけど、こんな二十輪だか三十輪だかで身体中ところ構わず抱きしめられるのはちょっと・・・」

いつの間にやら立っているふたりの周りに咲き誇ったロビンの腕。
それが遠慮会釈もなくナミの身体に絡みつき、今や彼女は何十本もの腕に絡め取られて捕食されかけた獲物のようだった。

「ナミ、あのなあのな、ちょっとだけいいかッ?」

そこへ扉を叩く硬い音がして、この船の小さな船医が顔を覗かせた。
チョッパーは遠慮がちに隙間から顔を覗かせ――その光景を目にして、お約束のような絶叫じみた悲鳴を上げた。


ぎゃ〜〜、ナミがロビンに喰われてる〜〜ッッ! うわああ、いいい、医者〜〜〜〜ッッ!!!」


転げる勢いで逃げ出す後ろ姿を見送り、ふたりは何とも言えない溜息を漏らした。

「・・・この場合、精神安定剤を処方するための医者が必要なのは船医さんの方じゃないのかしら」
「確かにこの状況じゃ、喰われてるようにも見えるわね」

ナミの苦笑を他所に、ロビンの微笑みは相変わらずだった。





その後資材を用意してみかん畑に行く途中、涙目のチョッパーがメインマストから覗くようにこちらを見ていることに気づいた。
もちろん隠れている角度は、身体を思い切り目立たせて顔を隠すというお馴染みのポーズだった。

(何度言っても直らないのね、この癖)

苦笑しながらチョッパーに近づく。
小さなトナカイはそのしなやかな身体を上から下まで見つめ、どこも欠けていないことを確認して心底安堵した様子だった。

「まったく、私がロビンに食われるわけないでしょ? そもそもロビンは人なんて食べないんだから。それとも、仲間をそんな風に思ってるの?」
「そ、そんなこと! でも俺、びっくりしたんだよ! だってナミの身体からうねうねニョロニョロって、イソギンチャクか何かみたいに絡みついてて絶対逃すもんかって感じに見えて・・・」
「・・・それは、チョット、怖いわね・・・」

画像として脳裏に思い描いてみると、どうしてなかなか寒い光景になる。
後でさり気なく釘を刺しておくべきだろうかと思いつつ、ナミは最初の用件を思い出して言葉を連ねた。

「そうそう、あの時何か言いかけてたわよね? どうしたの?」
「あ、そうだった。ちょっと材料に使いたいから、みかんの実を何個か分けて欲しいんだ。摘果した青いやつで十分だからさ」
「あら、それならキッチンの隅にあったかしらね。料理の香りつけに使うとか言ってたから、全部サンジくんに預けちゃってたのよね」
「そっか。なら一緒に行って貰って来よう!」

踵を返しかけた時、ラウンジのドアが開いてサンジが顔を出した。
大振りの盆を持っているので、どうやらおやつの時間らしい。

「うぉら野郎ども! とっとと群がって食っちまえ! 特製オレンジシフォンケーキ、残したらバチ当てんぞ!」
「誰が残すか〜〜ッ!」

途端に争奪戦になり、甲板は一気に騒然となった。デッキチェアのところに出て来たロビンにも同じものを振る舞い、サンジは最後にナミの方を振り返った。

「えーと。ナミさん、主賓ってことで特別ですから、ちょっとキッチンまでいいですか?」
「はいはい、りょーかい」
「お、俺ちょっとみかんを貰ってもいいか? 2、3個でいいんだ」
「おお、いくつでもいいから、持ったらとっとと出て行け。俺とナミさんの愛のランデブーを邪魔するなよ」
「別に俺も忙しいからそんなつもりないよ」
「生意気言うのはこの口か、クソトナカイ! 今夜のメインディッシュにすんぞ!!」

みかんを抱えて慌てて駆け出して行く後ろ姿を見て、ナミは震えるように肩を揺らした。

今度はサンジだ。
思わず笑みの形に吊り上がってしまいそうな口許を必死に抑え、ナミは何食わぬ顔でサンジの後について行った。
ドアを開ければ、いつもの彼女の定位置には淹れたての紅茶とクリームの添えたオレンジ風味のシフォンケーキが用意されており、芳しい香りを漂わせていた。

「基本的にはロビンちゃんと一緒の仕様ですが、クリームには本日特別の愛情ソースを添えておきました。レディ、どうぞ遠慮なく召し上がれ」
「そうね、本日のみの・・・特別仕様だから遠慮なく頂くわ」
「ナミさん・・・そんなキビシイあなたもやっぱり素敵だ・・・」

滂沱に暮れながらも、ナミが美味しそうにケーキを口に運ぶのを見て相好を崩す。
やはりキッチンを預かるプロの料理人たる者、食されて初めて本領を発揮する料理に掛ける情熱は半端ではなかった。

斜めに引いた隣の椅子に掛けてその様子を見ていたが、やがて食べ終えたのを確認するとサンジはおもむろにナミの肩をそっと抱いて右手を取った。

「ナミさん、誕生日おめでとう。・・・あなたという輝く指針があるからこそ、このメリーの間抜けなクルーたちも無事ここにいられます。その深い知識と見識と、何より男の心を癒す美貌に今日の日を感謝します。そしてナミさん、世界の果てまでフォーリンラブです♪」

右のみ覗いた青い瞳が細められ、サンジはどさくさに紛れてその手の甲に羽のような口づけを落とした。
軽く音を立てて触れた唇はやんわりとした熱を帯び、見つめる視線が妙に意味深だったが思い切り気づかない振りをしてやった。

「ご馳走様。みかんの手入れがあるからもう行くわね」
「・・・ハイ」

どことなく寂しそうな笑みが見えたので、ナミはほんの少しだけ仏心を覗かせ、

「サンジくん、ありがとね。今日はあなたの愛でお腹がいっぱいになったわ」
「んナミすわぁぁ〜〜ん! 俺、毎日があなたのための誕生日でも構いません――ってかそうなってくれ!」

目がハート模様になったサンジは、くねくねと意味不明のダンスを踊りながらキッチンの中を彷徨った。
いや、もしかしたら意識は既にとんでもない場所を流離っていたのかもしれなかったが。





みかんの手入れをしながらふと視線を振れば、ゾロは後甲板の指定席で剣を振っていた。
クルーの中でもっとも無骨で女心を理解しないこの男が、一体どんな顔でどんな行動に出て来るのかある意味見物だった。
他人事だと笑ってしまうが、きっと今までナミにアプローチして来た面々のようにスマートにはいかないだろう。

(そうよ、下手したら『おめでとさん。じゃあ』で終わっちゃいそうだもの)

もちろんそれで不満だとは言わないが、ゾロには・・・・もう少し考慮して欲しいとも思う。

あからさまにアプローチしたわけではないが、それとなく互いを憎からず思っていることは何となく気づいてはいた。
具体的な約束や行動は起こしても起こされてもいなかったが、それでも半歩くらい進展してもいいとも思う。


みかんの手入れは思いの他時間が掛かり、補強を終えたところでナミは一旦休憩することにした。

秋島だというのに、あまりの上天気に陽射しは残暑の気配を見せ、帽子を被っていても汗が流れ落ちる。
少しだけ休憩しようと帽子を脱ぎ、柔らかな風の抜ける木陰に腰を下ろしてそっと汗を拭う。
心地好い気温とけだるい疲労感から、ナミはいつの間にか落ちた瞼に誘われるまま眠りの世界へと飛び立って行った。




それからどのくらいたった頃だろう、ふと間近に重い足音を聞いたような気がして意識が半分浮上した。
完全に覚醒したわけではないので、何となく周囲の気配は察することができるが、身体はピクリとも動かない――そんな具合だった。

靴の主は少し躊躇い、それでも思い切ったかのようにゆっくりとナミへと近づいた。

「・・・ナミ、起きてねェよな、寝てるよな?」

(起きてるわよ)

頭ではそう思っても、実際は指1本動かすことすら叶わない。
意識だけが浮上しているので、ある意味貴重な体験のようにも思われた。

「ようやく寝てくれたか。今日は朝からせかせか動き回ってたから、もしかしたら疲れてうたた寝くらいしてくれんじゃねェかと期待してたが・・・待ってて良かったぜ」

閉じた目元に影が差し掛かるので、ともせずともその男との距離はかなり近いらしい。
錆の利いた声はなおも続く。
全身に響く、柔らかな空気を伴って。

「――心意気だったよな。受け取れ」

呟かれた声がやけに近いと思えば、不意に右の目尻に柔らかく温かなものが触れた。
そうして呟く、「母親の分」と。
言ったが早いかそれは繰り返すように場所を移動し、左に触れた時は「姉貴の分」と囁き、額に触れた時は「風車のおっさんの分」だと呟いた。

今この場にいない、ナミの大切な人々。
本来ならば真っ先に彼女を祝ってやりたいだろう面々の代わりに、ゾロは意識だけでも祝おうとしている様子だった。

が、そこで気配は去らず、吐息の掛かるほど間近な気配は散々逡巡した末にそっと唇へとその感触を残した。
触れるだけだったがそれはひどく熱く、ナミは震えてしまわないよう必死に堪えるしかなかった。

いや、「何をするのだ」と跳ね起きて憤慨してもいい状況だったが、ナミはそのまま眠った振りを敢行することにした。
せっかく無骨が服を着て歩いているようなゾロが自ら前進して来てくれているのだから、このくすぐったいような気配を壊したくなかった。
一度そうして離れたが、何か名残惜しかったのか男の唇は再びナミのそれへと触れて来た。
今度は、そっと下唇を食むように。


離れ際に「おまけだ。今日はおめっとさんよ」と照れたようなぶっきらぼうな呟きが漏れたが、それを最後にゾロは大きく身を逸らしてその場を後にした。

ゆっくりと立ち去る足音を聞きながら、ナミはとうとう堪えていた緊張の糸が切れて一気に赤面した。
全身に汗が噴き出し、火照る頬はかなりの熱を帯びてきっと真っ赤だろう。

そこに、とてとてと小さな足音がやって来る。
間違いなく、それは最後の訪問者であるチョッパーのものだった。

「遅くなってゴメンな、ナミ。抜け駆けするわけじゃないけど、丁度いい材料が残ってたからハーブとみかんとその他諸々からオイルを作ってたんだ――って、あれ、寝てるのか?」
「・・・ううん、今目が覚めたわ」

ゾロの気配が遠くなったのを確認し、ナミはゆっくりとヘイゼルの瞳を開いた。

「あれ、どうしたナミ、真っ赤だぞ? 熱でもあるのか、具合悪くて寝てたのか?」
「そ、そんなんじゃないの。何でもないのよ・・・」
「そうなのか? 何か今ゾロがいたから、起きてたのかなぁって思ったんだけど。じゃあ、《本日の心意気》はゾロが最後だな!」

(あんたが最後だってば)

「ちょっと待って。今人型になるから」
「――ううん、いいわ、そのままで」

そう言ったナミは、小さな人獣型の身体をそっと抱きしめた。
今日の趣旨は“祝いの言葉を掛けながらナミを抱きしめる”がコンセプトだったようで、チョッパーは「これじゃ逆だ」と暴れたがこうして触れ合うことに違いはないので、ナミは笑ってどちらでもいいだろうと無理矢理押し切った。

「えっとえっと、ナミ誕生日おめでとう! 俺ナミが大好きだ。ここにいてくれてありがとう、俺たちの仲間でいてくれてありがとう、この船で一緒の仲間として旅ができてホントに嬉しいぞ!」
「うん、私もよ」
「そそそ、そうかよ。まったく、俺は照れてなんかいねェぞ、コノヤロー!」

途端にデレデレに笑み崩れる様を見下ろしながら、ナミはくすくすと笑った。
木漏れ日の揺れるみかん畑の木陰は、相変わらず爽やかな空気を提供していた。


何気なく指先でそっと唇をなぞる。

熱い想いと、「憎からず」から大きく踏み出した淡い気持ち。
戸惑いながらも、自分だけでなく彼女を遠くで思う者の気持ちをも代弁してくれた“心意気”は、確かにナミの胸の内にきっちりと受け取られることとなった。


優しく柔らかな感触を残して行ったあの男の真意は、いずれ明かされる日も来るだろう。




真牙サマ(Baby Factory)の、2005年ナミ誕DLF作品。

こ・・・心意気万歳!
何がオマケだ剣豪め!!(笑)。
はーはー。
あとウソップがイイです・・っ。
サンジくんはさすがに手(口?)が早い。

2005/07/03

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