トレース




海へと降りていく道を、ゾロは歩いていく。
色褪せた痩せた草が方々に生えてはいるが、薄茶色い土くれの方が目立っている。
人によって舗装された道ではない。単に水が行き渡らず草木が育ってないのだろう。
むしろ、人の住む場所は彼の背後より遠くに離れつつある。
旅の途中で見つけたこの島は、大きさや村の人口も中程度という所か。
他の連中は何処にいったのか判らない。島についた途端、めいめい勝手に出かけていった。
村人に尋ねたらログは2日らしい。それなら1日はゆっくり出来るだろう。
だがゾロは村には泊まらず、船に戻るつもりだった。金を持ってないのだ。
ちゃんと貰えるはずだった小遣いは、今朝ナミが風呂を使ってるのを知らず浴室のドアを開けてしまったため、彼だけ支給されなかった。
ちょうど風呂場から出たばかりで滴の流れ落ちる艶めかしい身体を、上から下までしっかり眺めたあとでゾロは「ヒゲを剃りにきたんだ」と浴室に入った要件を告げた。
逆に、それが怒らせたのかもしれない。
(やっぱり、いい身体だったな)
思い出すと、腰の当たりがもやもやとしてくる。どうせなら胸の1つも揉んでやればよかったか。
どんな顔をしただろうかと考えて、ゾロは口の端をほころばす。
とくに急ぐ帰り道でもない。夕刻までにはまだ時間もある。
右手を見れば、遠くにうっそりと木々が茂ってるのが見える。
前方から左側は、対照的になだらかなスロープになっていて、その先に水平線がキラキラと光を放っていた。
海にさえ出ればどうにかなると彼は思っていた。そのまま海沿いを歩いていけばいい。そのうち船に着くだろう。
そんな大雑把な考えで呑気に歩いていたゾロは、視界の隅に白っぽく光るものを見つけた。
海の光か反射したのだろうと思いつつ、足を止める。
彼の左側、開けた視界のその先に、大人が一抱えするぐらいの岩がある。
それに引っかかるように、白い大きな物体が転がっていた。
「なんだありゃ?」
首を傾げつつ、近寄ってみる。
膝を抱えた人間ほどの大きさのそれは、見た目は繭のようにも見える。
一応、用心はしつつも、まだ殺気は出さない。何かあれば身体の方が先に反応するようになっている。
だがそれが、もぞりと動いたのでゾロは足を止めた。
様子を窺っていると、また少しだけもぞもぞと動き、中から苦しそうな声が聞こえた……ような気がした。
「……ウ……」
人間の女のような声に、ゾロは驚いて目を見張った。
「……おい、誰か入ってるのか?」
眉の中で動くものは、ゾロの問いかけに答えない。
しばらく見ていると、またごそりと動く。
「………うう………」
いかにも、弱々しい声が聞こえてくる。
ゾロは少し迷ったが、大胆に近寄ってみることにした。
中にいるのが人間で、この変な繭のせいで呼吸が出来ないなら大事だ。
そっと手で触れてみたが、すぐに後悔した。
「……げっ……」
妙に粘っこい。手がべっとりと張り付く感じだ。
慌てて手を離すと、のりのようにペリペリとした感触ながらもあっさりと取れる。
掌を確かめてみたが、特に異常はない。
だが繭の方に大きな変化が起こった。
ペキペキと音を立ててヒビが入っていく。割れたヒビが内側からめくれ、何かが必死で出てこようとしている。
流石に立ち上がり、飛び出てくるらしいそれに対し体勢を整える。
ヒビの一部が割れポッコリと小さな穴が空き、溜息のように空気が零れた。
一呼吸おいて、中から白いヘビのような物が、ずるりと這い出てくる。
「………!」
思わず息を呑む。
這い出てきたのはヘビではなく、女の細腕だった。
それは力なく、何かを求めるように宙を掻いていたが、やがてぱったりと繭の上に落ちた。
「おい、大丈夫か?」
どうやら中にいる女は、出てくるだけの力が残ってないらしいと判断し、ゾロは近寄ってみる。その白く細い腕を捕まえてみた。まるで剥きたての卵のように、ほわほわとした腕だ。
(細いな……ナミと同じぐらいか)
ふと思い出したのは、今朝見た彼女の美しい姿だ。頭の先からつま先まで、全部きっちり記憶している。
だが手は忙しく動いて、ヒビの入った繭を外から剥がしにかかっていた。
外壁のぬめりも、今はそれほど不快ではない。むしろ、さっきより粘着がなくなってきているようだ。
意外に柔らかいそれを大きく剥がすと、確かに中には人がいるようだった。
「おい、しっかりし……」
グッタリとしたその女に声をかけようとしたゾロは、思わず言葉を失った。
目に飛び込んできたのはオレンジ色の頭。それがゆるゆると顔を上げていく。
奇怪な繭の中に収まっていた女は、ナミと同じ顔をしていた。
「ナミッ!?」
驚きのあまり大声を張り上げたが、繭の中の相手は反応が鈍い。
「おい!」
呼びかけて捕まえていた腕を引っ張ると、ぐんにゃりとそのまま倒れ込んでくる。
受け止めたゾロは、異質な印象を受けた。
なんと表現していいのか判らない。
ただ確かに触っているのに、人間としての肉の感触を感じないのだ。生気に乏しく、生き物の気配がない。
繭の中はしっとりと潤っていて、濡れそぼっているナミの髪の毛からポタポタと滴が落ち、ゾロの身体も濡らした。
トウモロコシの薄皮のような服を着ていて、それが素肌にへばりついている。その下はおそらく何もつけてないようだ。
何とも扇情的な眺めに困りつつも、腕の中の女を揺すった。
「おい、しっかりしろよ」
揺すられてやっという風情で、女は顔をのろのろと上げる。
改めて間近で見ても、見間違いという事はない。
紅茶色の潤んだ瞳も、滑らかな頬も、花びらのような唇も、全てあの勝ち気な航海士と同じ作りだ。
何処か戦慄を覚えながらも、ゾロはその女の肩を捕まえ確認するように訪ねた。
「……おまえ、ナミ……じゃあないな?」
「…………」
「アイツに、双子の姉妹がいるってのも聞いたことねぇしな……」
そう問いかけても、女は何も答えない。いや、何か必死に言おうとはしているようだ。
あう……と開いた濡れた唇が、必死に何かを答えようとしている。
「なんだ?」
それに魅入られるように、もう少し顔を近づける。
一瞬の油断。
女は最後の力を振り絞るように、顔を寄せたゾロの首にするりと腕を回した。
「なっ!」
驚くゾロの唇に、女は夢中で自分のそれを重ね合わせてきた。
背筋がぞくりとする。ぬめるような舌が口腔内をねぶり、ゾロの舌に絡みついてくる。
必死で身体を離そうとするが、女の方がより必死だった。
餓えきった動物のように、夢中でゾロの唇に吸い付いてくる。
刀を抜こうかと思ったが、様子を見ていてもそれ以上の危害がなさそうなので、ゾロは諦めて女が満足するまで唇を許してやった。
「……はぁ……」
ちゅっと音を立てて唇が離れると、女はホッとした吐息を上げた。
ぐらりと倒れた身体を、そのままゾロにもたれてくる。
「……おい、いつまでそうしてるんだ……」
こちらの言うことには返答せず傍若無人にふるまう女に、流石にゾロは苛立った声をあげた。
「そろそろ答えろ。お前はいったい何なんだ?」
肩を掴んで揺すると、ふらりと顔を上げる。
赤ん坊のような瞳が、真っ直ぐに見上げてくる。純粋で汚れを知らない、澄み切った瞳。
普通の人間ならたじろぎそうだが、ゾロは構わずにそれを見返した。
やがて女はゾロからふぃっと目をそらすと、キョロキョロと辺りを見回した。
ざぁっと乾いた風がオレンジ色の髪の毛をなぶる。
何処を見渡しても、草が申し訳ない程度にしか草が生えない大地。
女の眉が哀しそうに下がり、大きな溜息をついた。
「ここは……ダメ」
「……なに?」
やっとで発した言葉に、ゾロは今度こそ本当にゾッとした。
声までナミにそっくりだ。ただ普段よく聞く、あの鼻っぱしらの強い元気な声ではない。
どこかたどたどしく、初めて言葉を発するようにぎこちない。
女はゾロなど目にも入らぬように、乾いた地面をざらざらと触り、ああっと声をあげた。
「みずもない……つちも……かたい……マナもたりない……」
ずるりと手が滑る。己を支えきれないように、その身を横たえた。
「……たりない……」
「……おい、何がどうしたんだ……」
訳がさっぱり判らない。
女に触れると、くったりとした身体はそのままゴロリと転がった。
絶望に満ちた目が、高い空を見上げている。
「……おまえ、本当にナミじゃないよ……な?」
念のため、女に問うてみる。どれだけ顔が似ていても、声がそっくりでも、この女はナミではない。あの気力と生命に満ちあふれた女が、こんな風になっている訳がない。
そう判っていても、ここはグランドラインだ。どんな奇っ怪なことが起こるか判らないのだ。
寝転がっていた女は、やっとでゾロに視線を向けた。そして、ボウッとした顔でぽそりと答える。
「……なみ…………なに?」
「お前は、ナミ、って言う、女じゃ、ないんだな?」
はっきりと女が理解出来るように、言葉をいちいち区切りつつ女を指さしながら話すと、やっとの事で女は答えた。
「……わたし……ナミ、ちがう……」
「そうか、それならいいんだ」
ゾロは、思わず安堵の溜息をついた。とりあえず最悪の事態ではないようだ。
それならばと、再度尋ねる。
「……おまえは、人間か?」
人間ならば、相当辺鄙な奴ということになる。と思ったが、女はあっさりと否定した。
「……ニンゲン……ちがう」
「……人間じゃない?なら、なんだ?」
「わたしは……『Eirial』」
「なんだって?」
「Eirial」
「……なに?」
思わず首をひねる。女の発音は、まるで風か何かのようで、ハッキリと聞き取れない。
だが女は特に気を悪くした様子もなく、そのまま喋り疲れたように目を瞑った。
血の気を感じない顔は、青ざめたように白い。最も血が通っているかどうかも判らない。
人間じゃないと聞かされても、ゾロは全く恐怖を感じない。そういう生き物なんだろうと見たままを受け取っている。だが、どうしてもこれだけは聞きたかった。
「……なんで、そんなナリ……いや姿なんだ?」
何故ナミと瓜二つなのか。まさか、彼らは皆どれも同じ顔や姿なのか……もしそうなら面倒なことになりそうな気がする。
だが、そんなゾロをぽかんと見上げていた女は、相変わらず透明な表情でポツリと答えた。
「これ……あなたがくれた」
「──はあ?」
「これは、あなたから……流れこんできた」
何を言っているのか判らず、ゾロは目をしばたかせた。
「意味がわかんね……」
「あなたが、わたしにふれた」
「──!」
「そこから……このカラダつくった……」
(まさか)
「このこえも……ぜんぶ……」
言葉も
思考も
「……最初にあの繭にさわったときか……」
愕然とした。
あの繭に触れたのは、中に人間がいるようだと思ったからだ。
少し高い声は、女のようだと。
それから──そうだ、現れた白い腕を見て、ナミを思い出したんだ。今朝、見た映像が強烈で。
目の前の女が人間ではないと知らされた以上に、衝撃を受ける。
それなら、この生き物にあの女と同じ身体を与えたのは自分だ。
「そう」
女はそっけなく言葉を返すと、再び目を閉じる。
どうも自分が思っていた以上にやっかいな事に巻き込まれたらしい……やっとで理解できてきたゾロだが、その相手がどんどん生気がなくなってきているのが流石に気になり出す。
「……お前、どうしたんだ?」
「……つかれた……」
本当にグッタリとした女の─いや女であるのかすら判らないが─顔を覗き込む。
「……おまえ、死にそうな顔してるぞ」
瞼をピタリと閉じた顔は、先程より色味が薄くなってきている。
これはナミではないと判っていても、胸の奥が小さく軋む。
「ここではダメだと言っていたな……」
静かに尋ねたが、何も答えない。
「何処ならいいんだ?」
そう言うと、やっと白い瞼が開いた。ぱったりと地面に置かれた手を、少し挙げて遠くを指さす。
「……マナ……たくさん…………ほしい」
「それじゃ判らん」
抽象的な会話に苛立ちはじめた時、先程の女の事を思い出した。水が足りないとか、大地が硬いとか。
「草がもっと生えてる所か?」
耳元でそう言ってやると、かすかに眼を開けた。
「森か」
このまま置いていけば、恐らくこの生き物は死ぬだろう。
ナミと同じ顔のままで。
それは何となく目覚めが悪い。しかも自分の責任とくれば尚更だ。
そう思う気持ちを利用する為に、コイツらは相手の思うような身体となって生まれてくるのか……だとしたら上手くやられてるようで面白くないが。
「仕方ねぇ」
ゾロは女を抱えて荷物のように肩に担いだ。全く重さを感じさせない。小鳥のように軽い。
扱いは乱暴だが、不満を言うでもなくもたれている。
こういう所は、ナミとは違う。そう思って、ゾロは小さく笑った。
「おい、連れていってやるから行きたい場所に案内しろ。判ったな?」
「……うん」
背中で女が頷く気配がする。
「よし、行くぞ。ナミのパクリ」
他に呼びようもないので、そう声をかける。
相手はどう思ったか判らない。そう言われても気を悪くした風でもない。最も、何かを言う気力すらなかったのだろう。
彼らが立ち去った後。
残された繭は役目が終わった事を理解したかのように、その身を風に解けさせていった。



目の前に対象物があっても迷うのが得意なゾロだったが、結果的にいい方向へと向かっていた。
ここの森はとても広い。
そしてゾロはその奥へ奥へと入っていく。
最初はもっと木もまばらで、人の手が入ってるように見えたが、だんだんそれもなくなってきた。
太い木々が立ち並び、暗い木陰を落としている。
水の流れる音が聞こえてきた所で、ポッカリと開けた場所にでた。
サンサンとした光が、そこに注がれる。濃い緑の草木が、足下に心地よい。
「おい、どうだ?ここは」
足を止めて、肩に担いだその不思議な生き物をそっと降ろす。
それはペタンと腰を降ろし、ふわりと緑の絨毯に仰向けに倒れた。
「……ああ……」
すぅーっと、女は息を目一杯吸い込む。深く吐き出し、また思い切り吸い込む。
「ああ……おいしい……」
先程とは全然違う、喜びに満ちた声が上がった。
「マナがいっぱい……ここなら、根をおろせる……」
くぅんと、嬉しそうに匂いを嗅ぐ。
そうやっていると本当にナミのようで、ゾロはあの女にコイツを逢わせてみたらどんな顔をするだろうとニヤリとした。
しかし、そうなると理由を話さないといけないだろう。こいつに触れた時に、ナミの事を思い出していたとは言いづらい。
「ところで……マナってなんだ?」
さっきもそう言っていたなと思い尋ねると、ナミに似たそれは、寝転がったままほっそりした腕を大きく広げた。
「これ全部。たくさん、あふれてる」
「……木とか草のことか?」
「その元」
「元?」
「さっき、あなたからももらった」
そう言ってゆっくりと起きあがり、ゾロを見てニッコリと笑った。全く邪気のない微笑みは、たまにナミがする笑い方に似ていてドキッとした。
「さっきって……まさか……」
キスをした時のことかと、自分の唇を指さすと、うんと頷いた。
「あなたも、たくさんあふれてる」
そう言って、またニコリと笑う。同意するのに頷いたり笑ったり。
そういう仕草の1つ1つが、だんだん人間らしくなっている。
成長しているのか、たんに元気になってきたのか。
(マナって……生気みたいなもんか?)
確かに、ここは先程とは違い生き物の生命力に満ちている。ゾロにとってもなかなか気持ちの良い場所だ。
やれやれと、並んで腰を降ろす。
ふわりとした草の感触が気持ちいい。
(さて、コイツをどうすればいいのか……)
このまま放っておいても大丈夫なのかどうか。
ここはすっかり気に入ったようだが、そのまま置いておいていいのかも判らない。何となく責任も感じる。
(ん?待てよ……さっき『根をおろせる』とかなんとか……)
そう言っていたなと相手を振り返った時、そのナミと同じ顔がにじり寄っている事に気づく。
「……なんだ?」
「あなたのマナ……もっとほしい」
ねだるようにそう呟いて、そろそろと擦り寄ってくる。その意味する所を判り、思わずギョッと身体を引いた。
「はあ?!って、ここならたくさんあるんだろ!?」
「そう……ここ、たくさんある……でも、満ちるまで時間かかる……」
そう言って、少しションボリと顔を伏せる。
「わたし……生まれるまでだいぶかかった……」
「……どういうことだ?」
「ほんとうはわたしたち、森のなかで生まれる。でもなぜか、あそこまで飛ばされた」
「…………」
「もう少しで、生まれなかった」
女の言い方は抽象的だが、何となく理解した。
事故か何か判らないが、本来こういう森の中で生まれる筈だったコイツは、森の外まで繭が飛ばされてしまったということらしい。それを自分が触れて孵してしまったのだろう。
「遅く生まれてきたから、その……マナが足りないってことか?」
そう尋ねると、コクリと頷く。
「この姿は借りもの。もっと成長する」
「──なに?」
「大きくなる」
「……まさか、その身体で、でかくなるって意味じゃ……」
それは流石に考えたくない……と思いながら尋ねると、そうではないと首を振る。
「これは動きやすいから、この形を借りてる。本当の姿はEirial」
「……エイリ……ってもわかんねーけど、それはそこの草や木じゃ足りないのか?」
「この子たちからそれだけ取ったら、この子たち枯れてしまう……」
「……ちょっと待て。俺なら枯れてもいいのか」
ちょっと不用心すぎたか?と、今さらながらに警戒した。
コイツの目的が最終的に自分から生気を絞り尽くすことなら、例え外見がナミでも関係ない。
だが、目の前のそれはナミとそっくりな顔で、ニコリと笑ってみせた。
「大丈夫。あなた、たくさん持ってる」
「そーいう問題じゃねーだろ」
笑顔で無理を通させるあたりが、全くあの女と似ている。ゾロの眉間の皺が少し深くなったが、相手は全く気にしない。
「少し眠くなるかも……だけど、後でちゃんと返してあげるから」
「……返す?」
「返す」
そう言いながらも、もの欲しそうににじり寄ってくる。
キラキラした瞳で近寄ってくると、そのまま座っているゾロの膝に乗ろうとした。
「……判ったよ……」
ふーと溜息をつく。何処まで吸われるか判らないが、さっきもそれほどダメージを貰わなかった。
期待に満ちあふれた顔を、至近距離で見つめる。
森の生命力に触れ、幾分でも気力を取り戻したそいつは、ますますナミによく似ていた。
「……俺はゾロだ。そう呼べ」
「ゾロ……」
「そうだナミ」
そう言って相手の顎を掴むと、自ら唇を合わせる。
舌を差し込み、相手のそれと絡ませる。
それは……ナミは満足そうに喉を鳴らした。そうやって触れあってみると、人間のそれと変わらないような気もする。
細い腰を抱き寄せると、ふっくらとした胸が押しつけられる。
これもそれも自ら作ったものかと思うと、己のしていることに皮肉も感じた。
だが夢中になって自分を貪っているソレを、捨てることも出来ない。
腰の辺りが重くなってきた。この異様な状況に、それでもキチンと反応してきている自分を笑いたくなる。
股間に張りを感じてきたとき、ナミはやっとで唇から離れた。
嬉々とした目で、じっと下を見つめる。
「……ここ、すごい……」
「なに?」
「たくさん……溢れそうになってる」
うっとりとした声で呟き、ゾロの股間をそろりと撫でた。
思わず声が出そうになった。
「……テメエ……」
止めようとしたが、女があまりに無邪気に撫でるのでその手を押しのけ損ねてしまった。
触られて、そこは素直に反応する。反応すれば、女は楽しそうにもっと撫でる。
更にオレンジ色の頭を下ろしかけたので、ゾロは慌ててそれを留めた。
「ちょっと待て!それは……」
「……?」
ダメなの?と言いたげに、コクリと首を傾げてゾロを見上げてくる。
ナミと同じ顔で、欲しそうに彼のそこをさすり続ける。
(悪いな、ナミ)
心の中で溜息をついて、人間の方のナミに謝った。
「これが……欲しいか?」
「うん。欲しい」
ナミと同じ顔が素直に頷く。
その笑顔に、言いようのない背徳感と興奮を憶えた。
女の手を離し、ベルトを自ら外して、硬くなり始めたそれを外気にさらす。
嬉しそうな女を一度留めて、可愛らしい歯列を指でなぞった。
「頼むから、これを当てるなよ」
不思議そうにしながらもナミは頷き、硬度を増したそれに音を立てて吸い付く。
脳天まで突き抜けるような快感が、背中を走り抜けた。





かさかさと、生き物の歩く気配がする。
複数の、軽い足音。小さな鳴き声。
何かが頬をペロリと舐める。
「おわっ」
慌ててゾロは眼を開けた。
つぶらな大きな瞳が、彼を見下ろしている。
「……鹿?」
ゾロが目を開けたので、鹿は驚いたようにピョンと後ろに跳ねた。そして、改めてゾロが危害を加えないかと見つめている。
「……いつのまに」
ぼぅっとした頭を振りながら、身体を起こす。
半裸になった身体から衣服がずれおちた。
結局、奉仕させるだけでは足りずに、女を押し倒して自らを埋めた。
何度かの行為のあと、疲れ切ってそのまま眠ってしまったようだ。
既に日が暮れかかっている。かすかに茜色の空が滲んでいるが、それももうすぐダークブルーに塗られてしまうのだろう。
随分眠ったと思ったが、それほど経ってないかもしれない。
「……アイツ、何処にいったんだ?」
キョロキョロと周りを見渡すが、何処にもいない。
代わりに、鹿や兎がやたら集まってきている。彼らは草原に落ちた実を美味しそうに食べている。
「……腹、へった……」
生気をあの生き物に食わせたからなのか単純にやりすぎたのか、身体が疲れ切っている。
もう一度眠ってしまいたいが、いかんせん腹が減りすぎた。

『わたしを食べて』

声が聞こえてきた。
頭の中に直接届くような声。
「ナミ?」
ナミの声に似ている……いや、コレはアイツの声だ。あのナミの身体を与えてしまったという、あの不思議な生き物の。

『ここよ』

また声がする。すぐ近くのようだ。
だが、キョロキョロと辺りを見回しても小柄な動物たちしか見あたらない。
その時、何か小さな物がポトンと頭に落ちてきた。
「てっ」
草の上にコロンと転がり落ちたそれは、オレンジ色の蜜柑のような実だ。
訝しみながらも、それを手に取ってみる。香しい、爽やかな香りが鼻腔をくすぐる。

『それを食べて』

また、声が聞こえた。
その時になって、やっとゾロは気づいた。
ゾロの直ぐすばに、クリーム色の木が青々とした葉を茂らせて立っている。
だが、さっきまでそんな木は確かになかった。
色濃い葉っぱには、その香しい果実がいくつも成っていた。
やがて、また1つ、2つと実が落ちる。それを鹿や兎が、駆け寄って美味しそうに食べ始める。
「……おまえ」
『そう、これが私』
喜びに満ちた声は確かにその木から届けられるようだ。
さやさやと、風に併せて枝葉が揺れる。
『あなたのおかげで、こんなに早く育つことができたの……それはお礼』
その声に、ゾロは手に持った果実を見下ろした。
自失からやっとで抜け出し、なんてこったと肩を降ろした。
確かに、大きくなっている。
姿形も全く違う。
しかし、これは予想外だ。
「おまえは……結局なんなんだ?植物なのか、それとも動物?」
『さあ……ただ私達はこうやって生まれるもの……』
さらさらと、優しい声が届く。
動物か、植物か、虫なのか。あるいはただの物の怪なのか。
だがきっと、彼らにはどう呼ばれるかなど、どうでもいいのだろう。
ただ昔からそうやって生きていると言わんばかりに木は存在し、鹿や兎は当たり前のように果実をねだりに来る。
ゾロはそのオレンジ色の果実を、改めて見つめた。
がぶりと齧り付くと、甘く爽やかな香りが口のなかに弾ける。
霧中で食べ尽くし、滴る甘い液も舐め尽くすと、先程の倦怠感がスッキリと消えていた。
「……なるほど、返してくれるって、このことか」
改めて、その豊かに育った木を見上げる。
もう、何処にもさっき人間だった面影はない。
ただ、そのオレンジ色の果実がナミの髪の色とよく似ていた。
「美味かった。ごちそうさん」
『私こそ、ありがとう』
キラキラとした声が、ゾロの中に響く。
心の中で、こっちこそと返した後で、ゾロは最後にと声をかけた。
「もう1個、くれないか」
『足りない?』
「いや、お前の元になった女に食わせたいんだ」
そうでなければ、きっとお前に力を与えてやれなかったと言うと、確かに相手は笑ったようだった。
そして、最もよく実った果実を、男の手の中にそっと落としてくれた。



rokiサマ(CARRY ON)の、2005年ゾロ誕DLF作品。

ファ、ファンタズィーーーー!!
ゾロ、見過ぎ!!
余すところなく見過ぎ!!!!
何か純真無垢(?)なパクリナミさん、カワイイ・・。
オレンジ色の果実はさぞかし美味しいでしょうな。
だってゾロの以下略。
続きがそのうち出るかもですよ!!わはーい!

オマケがあります。


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