アーロンは遊女屋楼主とは別の顔を持っていた。
異国から武器の密輸をしていたのだ。


慎重な取引をしていたにも関わらず、アーロンはその詳細を律儀にも秘密裏に記録していた。
関係者を脅迫する材料にでもする気だったのかもしれない。

アーロンは死んだものの、その帳面が見つかったため、
関わった者は全て処罰されることになった。



ただし、遊女屋の経営は一切無関係ということになった。
おそらくはアーロン自身の最終的な隠れ蓑だったのだろう。



遊女屋で働く者は、誰一人アーロンの裏の顔を知らなかった。
役所から話を聞いた番頭たちは揃って顔を見合わせ、
楼主を失った店の今後を考えて、不安を隠せないようだった。


それを治めたのは、女主人ノジコだった。


ノジコがアーロンの犯罪を本当に知らなかったのかは分からないが、
一応は無関係ということで、今後の店の一切はノジコが仕切ることになった。

元々権勢的なアーロンよりも、ノジコの方が店の人間からは慕われていた。
遊女は男主人よりも女主人に懐くし、ノジコはまだ若いため遊女たちも接しやすいようだった。
店の男の中には、アーロンが死んでよかったなどと囁く者もいたほどだ。





アーロンの死から半月。
調べも終わり、遊女屋は日常を取り戻していた。




















 「じゃあね、ナミ」

 「・・・色々ありがとう、ノジコ・・・」

 「あー、湿っぽいことはやめてよ。ほら、さっさと行きな」




身請けが成立し、ナミが店から出て行く日。
ノジコは泣きそうなナミを面倒くさそうに内所から追い出した。



 「ノジコ」

 「早く行きなって」

 「・・・・うん」



さっさと背を向けて座り込み、煙管を吸い始めたノジコを名残惜しげに見つめながら、
ナミは立ち上がり障子に手をかける。



 「・・・ナミ」

 「はい」

 「元気でね」

 「・・・はい」



目元を拭って、ナミは内所を後にした。








 「・・・・今日の煙草は、一番美味いね」



煙が目にしみたと自分に言い訳をして、ノジコは目をこすった。




















 「ロビン?」



店の門の手前で、ナミはロビンを見つけた。



 「見送りにきてくれたの?」

 「えぇ」

 「・・・ありがとう・・」



まだ昼前のこの時間は、通常ならば前日の仕事を終えて仮眠を取っている時間だった。



 「・・・ナミ、幸せに。あなたなら領主の妻もきっと務まるわ」

 「・・・そう、かな。そうだといいな」



ナミはそう言って、照れくさそうに少し笑った。
ロビンはその顔に満足そうに微笑む。


 「大丈夫。辛くても、笑ってるのよ」

 「・・・うん」

 「あの人の傍に居られれば、きっとあなたは笑っていられるわね」



ロビンがからかうようにクスクスと笑ったので、ナミは頬を染めた。





 「・・・・ねぇロビン、ロビンはどうして・・・どの身請けの話も受けないの?」



ナミはふと思って、いつも疑問だったことを聞いてみた。
ロビンに身請けを持ちかける男は数知れない。
それでもロビンは、その一切を断っているのだ。



 「・・・私はいいの。此処で過ごすと決めたから。
  長いことこの暮らししか知らないから、この方が過ごしやすいのよ」

 「・・・そう・・・」



ロビンの過去は、ナミはうっすらとしか知らない。
ロビンの昔の想いが今彼女の中でどうなっているのか、知らない。
でもそれがロビンの決めたことなら、ナミがとやかく言うことはできなかった。











 「ナミ」




迎えに来たゾロが、門から声をかけた。
ナミは一度ゾロに目をやり、またロビンの顔を見る。
優しく微笑むロビンに促されて、ナミは門へと小走りで向かった。
荷物を受け取り、ゾロはロビンに目を向ける。

目が合ったロビンは、ゆっくりと丁寧に頭を下げた。




 「・・・・・・」

 「・・・ゾロ、どうしたの?」




ロビンの姿をじっと見ていたゾロを、ナミは不思議そうに見上げた。



 「いや・・・どうも見覚えがあると思ってたんだが・・・思い出した・・・」

 「・・? 何を?」

 「ちょっとな、昔のことだ」

 「・・・・?」

 「まぁいい。行こうか」

 「うん」













愛した女を、この手から離さない。

それは、父ができなかったこと。


身分の差を越えることができなかった、父。











ゾロはナミの手を取って、強く握った。
目が合うと、ナミはにっこりと微笑んだ。

幸せそうに。




この手を、この笑顔を、決して離さない。




二人で居られれば。


ただ、それだけで。




その同じ思いがあれば。


ただ、それだけで。





ゾロもナミも、繋いだ手から互いのその暖かさを、しっかりと感じていた。





(終)



2006/01/23 UP

オチは弱いまま終わる!!(笑)。
この後2人は幸せになったんでしょうか。
きっとなります。
ナミさんならやれます。
ゾロがいるから大丈夫。

mariko初めての連載は全17話となりました(いきなりやりすぎ)。
1話ごとのオチも最終的な大オチも考えな・・・って、連載って難しい・・。
玉砕しつつも終了。
すごいな長編書ける人って・・・。
改めてそんな人たちを尊敬するのでありました。

ゾロ誕でリクをくれたソラさん!!
1ヶ月以上もお待たせしました(汗)。
ソラさんの脳内遊廓ゾロナミを壊すことなく表現できたかは分かりませんが、
いかがでしたでしょうか?
ナミさんがカワイソウな設定になりすぎましたかね(笑)。
若干ゾロの性格はリクと違ってるかも分かりません。
初めての長編に初めての企画(?)モノ。
色んなことにチャレンジできて非常に楽しかった。
遊廓という世界の勉強にもなりました。
素敵リクをありがとう、ソラさん!!

さて、本編終了後は補足的番外編をお楽しみください。

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