惑。









 「ゾロ、今日帰り早い?」

 「あ?あー・・・、多分定時で帰れる」

 「分かった。いってらっしゃーい」

 「ああ」






そうして頬にキスをひとつ。
私は幸せ人生真っ最中だった。
























 「おはようございます」

 「あ、ロロノアさん、おはよう」


ゴミ袋を抱えて、同じマンションの主婦仲間に朝の挨拶をする。
ゴミ捨て場には、同じ棟の顔なじみの人たちが2,3人集まって、世間話をしていた。
ここに住んで1年弱、まだまだ新参者の私は、ご近所付き合いのために笑顔でその輪の中に参加する。




 「今日は暑いですねー」

 「・・・・あの、ロロノアさん?」

 「はい?」



上の階に住む女性が、僅かに声を潜めて話しかけてきた。
この人は、実はちょっと苦手だった。
決して悪い人ではないのだけれど、いわゆるワイドショー的ネタが大好きなのだ。
私も嫌いではないけど、仮にも同じマンションの住人たちのゴシップを、
真偽も定かではない段階で世間話のネタにするのは、あまり好きではない。

そしてこの人がこんな風にこっそりと話を振ってくるのは、大体がそういうネタなのだ。
さぁ今日はどの人のネタなのかしら、と思っていたのだが。



 「最近ご主人、何か・・・ない?」

 「・・・・うちの?何かって・・・?」


まさか自分の旦那のネタが来るとは思わず、一瞬呆けてしまった。


 「その、浮気の兆候みたいな、ね?」

 「・・・・・浮気・・?」

 「無いならいいのよ!気にしないで!」

 「ゾロが浮気だなんて・・・・」

 「あのね、たしぎさんが見たっていうから・・・」


その人がチラリと隣に目をやると、
眼鏡の女性がビクリと体を震わせる。


 「見た・・・?」

 「ごっ、ごめんなさい!」



たしぎさんは、このマンションでは一番仲の良い女性だった。
年齢は彼女の方が上だが、
どこか抜けた性格が、自分と同年代のような感覚を抱かせていた。
彼女もこんなゴシップネタは好きではなかったはずだ。



 「見たって、何を見たんですか・・・?」

 「・・・・ナミさんのご主人が、その・・・、女の人の部屋に入るのを・・・・」

























昨日たしぎは、いつも行くスーパーではなく、
少し離れたところにある専門店へと足を伸ばしていた。
その店は輸入物の商品を多く入れており、調味料などの品揃えも豊富だった。
結婚して3年になるが、最近ようやく料理に凝りだしたのと、
日頃の運動不足を解消するため、わざわざその店まで買い物に出かけたのだった。

気になったスパイスを数点買って、
夕食の材料はいつものスーパーで買うことにして、たしぎはその店を出た。

その帰り道、住宅街を通ったたしぎが、ある高級マンションに目を向けたとき、
見覚えのある顔を発見した。




緑がかった不思議な色の髪に、精悍な横顔。
初めて会ったとき、心底『かっこいい』と思ったのは主人には内緒の話だが、
とにかくその人、ロロノア・ゾロがいた。



 (ロロノアさん・・・セールスマンだったかしら・・?)



平日の昼間に、こんな住宅街のマンションに居るなんて、と思った矢先、
ゾロが一人ではないことに気づいた。



 (え・・・)



長い黒髪で、すらりとした美人の女性だった。
そのマンションの住人であるらしい女性が、オートロックを解除し、ゾロに声をかける。
ゾロは女性の隣を行き、扉を開けて女性を促す。
そのまま2人は一緒にマンションの中に入っていった。
2人の視線の絡み方が、セールスマンと客という関係ではないのを確信させた。

























 「・・・・・・」

 「ご、ごめんなさい、言おうかどうか迷ったんだけど・・・」

 「・・・いいえ、言ってくれてありがとう・・」







ナミは、たしぎから聞いたマンションの名前に覚えがあった。

結婚する前も、結婚してからも、何度も行ったことがある。
そこは、ゾロの友人、サンジの住むマンション。
そして、おそらくその美女は、サンジの妻・ロビン。























皆に何と言って部屋に戻ったのか覚えていない。
おそらく私が消えた後、噂に尾ひれがついて、暇な主婦たちには格好のネタを提供してしまっただろうが、
そんな所まで気は回らなかった。
キッチンのテーブルに崩れるように座って、さっきの話が頭の中をグルグル回るのにまかせていた。












合コンという出会いではあったものの、
それに運命的なものを感じたのは自分だけではなかったと思う。
出会って3年目にようやくプロポーズされ、
半年前には、一度目の結婚記念日も迎えた。
それからすぐに妊娠が分かって、幸せな結婚生活を順調に送っていたはずだった。
毎朝出かけるときはキスをして、
新婚当初と変わらぬラブラブっぷりだったはずだった。
まさか自分の家庭で、こんな問題が発生するなんて。










ゾロは優しかった。

初めて会ったときは、目つきの悪さや乱暴な言葉遣いから、すこし引き気味だったが、
一緒にお酒を飲んで少し話すと、
時折見せる優しい顔がその性格を現していて、気づいたときには惚れていた。


口調は相変わらず乱暴でも、ゾロはいつも優しくて、
愛されていると実感させてくれた。

妊娠が分かってからは、普段以上に私を甘やかしてくれて、
毎晩私の足をゾロがマッサージするのが日課になっている。





そのゾロが浮気。
考えたこともなかったし、未だに信じられない。
きっと見間違いだろう、サンジくんに用があったのだろう、と、都合のいい言い訳を考える。
でも、平日の昼間、何故わざわざ自宅に行く必要があるのか。
私には何も言ってなかったし、サンジくんだって平日は仕事だ。
・・第一、たしぎさんが見たという昨日、私はサンジくんのお店に行っている。
サンジくんは店にいたし、ゾロが家に来るという話をしてこなかった。
それにサンジくんは、『そろそろ久しぶりに皆でゴハン食べよう』と提案していたくらいだ。

私もサンジくんも知らない間に、
ゾロとロビンは逢っている。











くだらない疑惑が、どんどんと溢れてきて、私の足元を崩していく。




幸せだった日が、崩れていく。




夫婦パラレル。
無駄に続きます。
2人とも27歳か28歳くらいで。
適当で(爆)。
てか、またゾロロビか自分!!!!

2005/08/08

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