嫉。









 「あ、あのケーキ美味しそう! キレー!」

 「甘そうだな」



洋服の詰まった買いもの袋を片手にぶら下げたまま、ケーキ屋のウィンドウをちらりと見てそう返事をした。
ナミは立ち止まって中を覗き込み、それから振り返ってこちらに微笑みかける。



 「サンジくんに言って作ってもらおっか」

 「……いーんじゃねーの」

 「あ、でもルフィに取られちゃうから内緒で頼もっと」

 「………」



今度は返事をせずに、歩き始める。
ケーキの形を覚えるようにもう一度ウィンドウの中を覗き込んでから、ナミも小走りで付いてきた。


久しぶりに大きな島に上陸したこの日、ナミは自分の洋服を買うために町に出た。
その荷物持ちとして付いてきたのだが、そのせいかナミはいつもよりもはるかに大量の服や日用品を買っていた。
両手が塞がらないように右手でその荷物をまとめて持っているから、ナミはおれの左側を歩きながら時折店の前で足を止める。
さすがに買い物はそろそろ打ち止めらしいが、いわゆるウィンドウショッピングとやらは終わる気配は一向に無い。
確かにこの日の荷物持ちは自分から言い出した事だが、女の買い物に付き合うのは戦闘よりも疲れる。
それでもナミの機嫌が良く、隣を歩くおれに何度も笑いかけてくるから、着実に増えていく荷物を素直に受け取ってしまう。



 「サンジくんがさー、せっかくキレイに作ってくれてるおやつ、ルフィったらいつも一口よね」

 「……あー」

 「船の上であれだけのモノが食べれるってことに有難味を感じないのかしら」

 「…さぁな」

 「あ、そういえばこないだルフィと町に出たとき、サンジくんが一人で買出ししてたんだけど」

 「………」

 「すごい真剣な目で食材選んでて、ルフィも声かけられなかったのよー。 あのルフィが」



そう言ってナミはクスクスと笑う。
だが隣からの反応が無いことに気付いて、覗き込むように見上げてきた。



 「ゾロ?」



子供じみている、と自分でも分かっていた。
だが、返事をしたくなかった。



 「どうしたのよ、急に不機嫌な顔して」

 「別に、元々だ」

 「違うわよ全然。 私何かした? 勝手に怒られても困るんですけど」

 「別に」

 「…あんたのスイッチってよく分かんないわ」



口を尖らせてナミはそう呟いた。

航海士の機嫌は損ねないこと、それはこの船の暗黙のルールだ。
今それを破ってしまったことは自覚していたが、それよりも自分の感情を抑えるのに精一杯だった。
黙れ、と叫びそうになる。
ナミにはおれから怒鳴られる言われは無いのだ。
そう思って必死にどうにか口を噤んでいたというのに、ナミの一言で何かがブチリと切れた。



 「サンジくんは分かりやすいのに。 そもそも隣で勝手に怒り出したりしないし」



足を止めると、ナミも遅れて立ち止まった。



 「そんなに荷物持つのイヤだった? あんた自分で付き合うって言ったん――」



早口にそう言いながら振り返ったナミだったが、おれの顔を見て続く言葉を止めた。



 「おまえ」

 「……なによ」

 「他のお―――」



そこまで言って、ガバリと口を押さえる。


今、何を言おうとした?
こいつはおれの女でも何でもないのに。

きょとんとしたナミの顔を見ていられなくて、くそっと呟くとまた足早に歩き出して、目を合わさずにナミの隣を通り過ぎる。


二人で買い物に出たからか。
自分に対して、あんな風に笑うあいつを見たからか。

何を勘違いしている。
隣を歩く男がルフィやクソコックでも、ナミはああやって笑いかけるに違いない。

自惚れるな。
溺れるな。

こいつは、おれだけのものには決してならない。


右手にぶら下げた紙袋が、やたらに重く感じられる。

またくそっと小さく呟くと、急に左腕にガクンと体重がかかった。
驚いて立ち止まると、いつの間にか追いついていたナミがその細い腕を絡ませて寄りかかっていた。
こちらを見上げて、フフと何故か得意そうに笑っている。

何か言うべきだったかもしれないが、口を開けばまたロクでもないことを言ってしまいそうで、結局無言で歩き続けた。
ナミも無言で、早足のおれに文句すらも言わずに、腕を絡めたままで付いてくる。
時折ちらちらとこちらを見上げてくるのは分かっていたが、目を合わすことはできなかった。

すれ違うヤツらが、好奇の混じった目でおれたちの方を見ていく。
理由は分かっている。



 「……分かったわよ」



ようやく口を開いたナミの声色には、どこか面白そうに笑いを含んでいた。



 「もう他の男の話はしないから」

 「…っ!」

 「あんたのその顔に免じてね」



ナミはまたフフっと笑って、おれの腕を引っぱると足を緩めさせた。
抵抗はせず、素直に速度を落として隣のナミをちらりと横目で見下ろす。

目が合うと、ナミは子供のように楽しそうに笑った。



 「耳まで真っ赤」

 「……うるせ」





目つきの悪ぃ、刀と買い物袋ぶら下げた男が顔真っ赤にして女と歩いてちゃ、そりゃあ道行くヤツらも見ちまうだろうよ。






『【呈。】の続き』

ゾロ視点…ということで。
どっかで書いたことあるような見たことあるようなネタですが…記憶が……。
まぁ約2年前ですからね。
…どんだけゾロ誕延長してんだ(笑)。
とりあえずカワイイゾロにしたかったけどいまいちの結果に。あいた−。

nikonikoさん、こんなんダメっすか…?

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