呈。








コックがナミやロビンに対して鼻の下を伸ばしているのを見れば、そういう類の感情があるのだろうというのは想像できる。
だが、あの男は上陸した町でもそこらの女共にヘラヘラと声をかけまくっている。
ナミたちもそれを知っているからこそ、自分たちに対するコックの態度もあっさりと流しているのだろう。
同じ男から見ても、コックのナミたちへの気持ちがどれほどのモノなのか信用はできない。
結局はただの女好きなのだ。

そう思っていた。

あの夜までは。








日誌を書いていたらしいナミは、そのままキッチンのテーブルに伏して眠っていた。
コックはいつものように夕食後の皿洗いをしている。


筋トレ後の水分補給のためにキッチンへ向かったのだが、
コックが小さくナミの名を呼ぶのを聞いて、扉にかけた手を止めてしまった。
キッチンの中からナミの声はせず、移動して窓からそっと中の様子を伺う。
悪趣味なことをするつもりはなかったが、中に入ることもできずだが何となく気になって少しだけ顔を覗かせた。



テーブルで眠るナミの隣にコックは腰を下ろし、
小さな寝息を立てる女の顔をじっと見つめていた。

もう一度、名を呼んだ。
いつもの阿呆みたいに裏返った声ではなく、低く、女ならば『優しい』と感じるであろう声で。

起きる様子の無いナミからはやはり返事は無いが、コックはそれを求めているわけではないようだった。
テーブルに片肘をつき、ただただ見つめている。

それから片方の腕を伸ばし、少し戸惑ったあとナミの髪にそっと触れた。
指先だけで、触れるか触れないかの距離だろう。
コックはただそれだけなのに、嬉しそうに笑っていた。

愛しいものを見るように

だが今にも泣き出しそうに

微笑んでいた。


コックのそんな顔は今まで一度も見た事の無いものだった。



そのまま気配を消して、足音を立てぬようにしてキッチンから離れた。

コックの気持ちには気付いていたはずなのに。
それを目の当たりにして、何故だか動揺が収まらなかった。









翌日、いつものように甲板で胡座をかいていると、倉庫から出てきたルフィと目が合った。



 「あれ、寝てねぇのかゾロ? 珍しいなー」

 「ちょっとな」



ルフィはいつもの顔で笑いながら近寄ってきて、隣で同じように胡座をかいた。
横目でそれを見て、昨日のことを思い出しながら声をかけた。



 「ルフィ」

 「ん?」

 「コックは、ナミのこと」

 「好きだろ?」



ルフィは質問を終える前に即答し、首をかしげる。



 「…いや、そうじゃなくて…、他の女とは」

 「あいつは本気だぜ」



再び質問よりも早くルフィの答えが返ってくる。
目を見張ってルフィの顔を見ると、大きな目でまっすぐと見返してきて普段はあまり見せぬ顔でニヤリと笑った。



 「……お前は気付いてたのか」

 「あぁ、だって」



ルフィはそう言いながら立ち上がり、今度はいつもの幼い顔で笑う。



 「おれも本気だからな!」

 「………何?」

 「お前は?」



太陽を背負った男はそう言いながら、台詞とはあまりに不釣合いな子供のような無邪気な顔を向けてくる。



 「ぼやぼやしてっと、取り返しつかねーぞー?」




おれの返事を待たずに、にかっと笑ったルフィは「ナミーー!」と叫びながらミカン畑に文字通り飛んで行った。




姿は見えないがどうやらルフィに体当たりされたらしいナミが叫ぶ声が聞こえ、
それから殴られたルフィが地面にめりこむ音がした。

日常茶飯事、いつものことだ。



少し考えてから立ち上がり、ルフィのようには飛ばずに階段を上り後甲板に向かう。
ミカン畑を見上げると、頭にコブを作ったルフィとナミが笑っていた。

籠をルフィに持たせ、ナミはミカンの木の要らぬ葉を摘んではその中に入れる。
ルフィが何か言ったらしく、2人は揃って大きな口を開けて笑った。





あの笑顔を独占することなど無理だと分かっていても、それでもそれを求めてしまう。
そう考えていたのは、どうやらおれだけではなかったらしい。





ルフィは再び腕を伸ばして、ナミに抱きつこうとしていた。
それを見上げながら、ふんと鼻を鳴らして叫ぶ。



 「ナミ!!」

 「あらゾロ、なに? だーから離れなさいってば!」



おれに気付いたナミはこちらに顔を向けながら、まとわりつくルフィをひっぺがす。
ルフィはちらりとこっちに視線を寄越したあと、負けじとナミにへばりつこうとしている。



 「明日、上陸だろ?」

 「えぇ、順調に行けば明日の午前中には島に着くと思うけど」

 「お前の買い物、付き合うよ」

 「え?」



ズボンのポケットに手を突っ込んでミカン畑を見上げてそう言うと、
ナミは目を丸くしてルフィを振り払う動きを止めた。



 「どうせ暇だからな」

 「…そう? じゃあ荷物持ちでもしてもらおうかな! ゾロが街に出るって珍しいもんね、何か服でも買う?」

 「任せる」



ナミは楽しそうに(少なくともおれにはそう見えた)笑った。
そんなナミの姿を見て、ルフィはむーーっと口を突き出し「おれも行く!」と叫んだ。



 「お前はダメだ」

 「何でだよ!!」

 「ゾロ、なんで?」

 「何ででも」



両腕を組んでそう答えると、ルフィはさらに口を突き出しナミは首をかしげる。



 「…じゃあまぁ、そういうことみたいだからルフィは別で行きなさい」

 「ナミのケチーーー!!!!」

 「何で私なのよ!!」



ガン!とナミに殴られながらもルフィはブツブツと文句を言う。
それを無視して、ナミはこちらを見下ろしてくる。




 「じゃあゾロ、明日ね!」

 「あぁ、約束だ」



そう言って笑うと、ナミも頬をうっすらと染めて微笑んだ。




 「約束ね!」







きっとこの女は誰のものにもならず誰にも捕らわれず、自由にこの海を渡るのだろう。

だが、今この瞬間に向けられた笑顔は、確かにおれだけのものだった。




2007/07/28 UP

『サンジやルフィがナミに恋心を抱いているのを知って、慌ててナミを振り向かせようと努力するゾロ』
原作ベースで、とのこと。

慌てて…ないかなゾロ…。
何かいつもの隠れ家ゾロだね。
おやおや…。
……気にすんな!!!(逃)
このナミさんは、誰を好きとか無いですよ。
いやでもそこはゾロナミサイトですから、潜在的ナミ→ゾロ設定ですけど…(笑)。

nikonikoさん、ゾロがやたらと冷静ですがお許しをー!


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