自分が王女でなければ、もっと早くに好きだと言えただろう。
「聞いたか? とうとうあの盗賊団が捕まったって」
「へぇ、いつ?」
「昨日の夜中に盗賊団まとめて捕らえて、今は尋問中だろうな」
「あのロロノア盗賊団も、さすがに国をあげての手配じゃ捕まるかー」
「だなー」
見回りの衛兵は、門番に挨拶をしながら城の前を通り過ぎた。
顔見知りの門番は軽く笑顔を見せて、彼らに片手を上げる。
「そういや、脱走王女様も戻ってきたらしいぜ」
「誘拐って話もあったろ? なんせ1ヶ月以上も連絡が無かったって」
「あぁ、それがな、どうもその盗賊団と一緒に居たらしい。」
「へぇ…、じゃあそいつらが?」
「さぁな…そのへんも尋問中なんだろ」
「王よ、こやつが例の盗賊団の頭です」
腰に剣を携えた警備長が恭しく頭を垂れながら、自らの後ろにいる男を示した。
男は背中の後ろで両手を縛られ、体にはグルグルと鉄の鎖が巻きつけられている。
その端を持った警備長は、ぐいとそれをひっぱり男を歩かせた。
背中を蹴り飛ばし、王の面前で膝をつかせる。
その男に続いて、さらに十数名の男たちが同じように鎖で巻かれて連れてこられた。
蹴り飛ばされ、最初の男の後ろにドサドサと倒れていく。
「お前ら、無事だったか」
「アニキこそ…! よかった…!!」
一番前で膝をついた男は、背後の男たちに笑顔を見せた。
床の上で這っていた男たちはその笑顔を見て、目を潤ませて体を起こした。
「よく耐えた」
「おれたちより、ゾロのアニキの傷の方が!」
「おれは大丈夫だ」
ゾロと呼ばれた盗賊の頭は仲間たちを安心させるような笑顔を見せる。
だが赤く染まりボロボロになった服の下に無数に刻まれた鞭の痕は赤く腫れ、胸には一際大きな傷が走っていた。
顔には固まった血がこびりつき、顔半分は腫れて片目はほとんど見えてないようだった。
「……お前が、頭のロロノア・ゾロか?」
しんとした広大な広間で、低い声が響いた。
ゾロたちは口を噤み、豪華な玉座に座る男を見上げた。
鋭い眼光を放ち、有無を言わさぬ威厳を持った男は、まっすぐにそれを見返した。
「あぁ」
「貴様、国王に対して何という態度か!!」
警備長は鞭をしならせ、ゾロの背を打った。
ゾロは小さく呻き、仲間たちはその目に怒りを宿す。
「生意気な目をしおって!! 盗賊風情が!!」
警備長はさらに鞭を振り上げたが、王に「下がれ」と低く言われ、不本意ながら一歩引いた。
「ロロノア・ゾロよ」
「………」
「私の娘を誘拐したことを認めるか?」
「……さぁね」
王の言葉を聞いて、ゾロの後ろにいた男たちは目を見張った。
王の椅子の隣に寄り添うように立っている女。
美しく着飾り背筋を伸ばし王と同じく生まれ持った威厳を放つ女。
一度目にすれば忘れない、美しいオレンジ色の髪。
「……頭!! あれナミじゃねぇですか!?」
「あいつ王女だったのか!!?」
男たちはどよめき、だがゾロだけは無言でナミを見つめていた。
「ゾロのアニキ……まさか、ナミのヤロウが裏切って…!?」
「違う」
仲間の言葉に、ゾロは即答した。
だがそれ以上はやはり何も言わなかった。
ゾロの空気を感じ取り、仲間たちは次第に口を閉じていった。
王の隣でゾロたちを見下ろしながら、ナミは唇を噛んだ。
1ヶ月、生活を共にした男たち。
盗賊とはいえ、人のいいヤツらばかりだった。
素性の知れぬ女も受け入れ、仲間として扱ってくれた。
現れた警備隊を前にして彼らはナミを逃がそうともしてくれた。
一人の男と目があった。
ロロノア・ゾロ。
まっすぐ自分に注がれているその視線を、ナミは逸らすことなく受けとめた。
騙すつもりなど無かったのだ。
もちろん警備隊に密告などもしていない。
だが彼らがそれを信じてくれるだろうか。
彼らは捕らわれ、そして王女として自分は彼らの前に立っている。
裏切ったのだと、元よりそのつもりで近づいたのだと思われても仕方ない。
ナミは胸が苦しくなって、少しよろめいた。
彼に、ロロノア・ゾロに、そう思われるのだと考えたら呼吸するのさえ苦しくなった。
「ナミ、どうした」
「……大丈夫です、お父様」
父である国王が、心配げにナミに声をかけた。
ナミは深く息を吐き、姿勢を正した。
「……嫌な事でも、思い出したか? ヤツらに何をされた?」
「………いえ」
娘の体を案じる王の言葉に、ナミは小さく首を振った。
ゾロの目をじっと見つめる。
「何も……何もされませんでした」
いっそ狂おしいほど。
乱暴でもされていれば、今こうして胸が苦しくなることもなかっただろうに。
だが彼は出逢った夜から別れの夜まで、ずっと優しかった。
悪事を働く姿も、捕らわれボロボロになった姿すらも、愛しいと思ってしまうほどに。
「……お父様」
「どうした、ナミ」
ナミは少し声を張って、王にまっすぐ向き直り微笑んでみせた。
「この者たちの処刑を、取りやめていただきたいのです」
「……何を言い出す? 攫われた間に唆されたか?」
「ロロノア・ゾロの剣の腕は、盗賊ながら我が国一だとか。 ならば恩赦として彼を警備隊に加えてみては?」
王は娘の目をじっと見つめた。
決して逸らされぬそれに、小さく溜息をついてから王は再び盗賊たちに目を向ける。
「ロロノア・ゾロよ、腕に自信は?」
「ある」
「………ならば私に勝つことができたなら、娘の提案を考慮しよう」
「王よ!! 危険です!!」
警備長が思わず前に出て叫んだ。
だが王は構わず、立ち上がり自らの腰に下げた黒い剣を抜いた。
「他のヤツらは?」
ゾロは王を睨むように見上げながら、そう尋ねた。
不敵な笑みを浮かべ、振り返った警備長はそれに思わず息を呑んだ。
頭の雰囲気を感じ取り、仲間たちの鎖がじゃらりと鳴った。
「そやつら全員が貴様と同じほどの腕があるとは思えんが」
「ならば刑を免れるのは、おれだけか?」
「そうだ。 盗賊を全員釈放なぞするわけなかろう」
王の答えを聞いて、ゾロは肩をすくめた。
「ならば、その話は無しだ」
「ゾロ!!?」
ナミは思わず声を上げた。
「弟分を捨てて自分だけが助かろうなんざ、クソ野郎のすることだぜ?」
「アニキ!!」
仲間たちは感涙し、それからゆっくりと体を動かし、片膝を立てた姿勢になる。
ゾロはニヤリと笑ったまま、視線を王からナミに移した。
「ナミ!!」
「っ!?」
王女の名を呼び捨てたことに警備長が怒鳴ろうとしたが、それを遮るようにゾロは叫んだ。
ナミの目を見つめ、問いかけるように片眉を上げる。
吸い込まれるようにその目を見つめたナミは、動けなくなった。
「共に来るなら、来い!!!」
次の瞬間、ゾロは立ち上がった。
体に巻きついていた鎖はがしゃりと音を立て床に落ち、
目を丸くした警備長が行動を起こすよりも早く、ゾロは彼が腰に下げていた剣を奪った。
そのまま警備長を斬り、訓練された警備隊が動き出すよりも早く、
風のように舞ったゾロは仲間たちの鉄の鎖を斬った。
それと同時に男たちは立ち上がり、一斉に警備隊に飛び掛る。
「盗賊ナメてんじゃねぇぞ!!」
「アニキに続け!!!」
ゾロのあまりの動きの速さに、警備隊の行動は一歩遅れていた。
解放された仲間たちはそんな彼らの武器を易々と奪い、一斉に出口へと続く扉へ向かい走った。
ゾロを先頭にしたロロノア海賊団は、逃亡を阻もうとする警備隊の男どもを斬り捨てながら広間から脱出した。
王は剣を手にしたまま、自ら盗賊たちの後を追おうとした。
だがナミはその腕を握ってそれを阻止する。
「ナミ、離しなさい!!」
「お父様、お願い!!!」
「部屋に戻っていろ!!」
「お父様!!」
「私の言うことが聞けないのか!!!」
王は怒鳴り、ナミの腕を振り払って玉座からの階段を駆け下りる。
ナミはぎゅっと唇を噛んで、くるりと向きを変えて走り出した。
その気配を背中で感じて、王は安堵しだがすぐに足を止めた。
「………ナミを! 娘を止めろ!!」
「…王!?」
「あの子を止めるんだ!!!」
だが広間に居た人間はほとんどが盗賊たちを追っていた。
残っているのは王の警護に当たっているものと、盗賊に斬られ床に伏している者だけだった。
相当の拷問を受けたはずの盗賊たちに油断していた警備隊は、結局無様にも彼ら全員を取り逃がすことになった。
追っ手すらも撒き、ロロノア盗賊団はその日を境に街から姿を消した。
そしてもう一つ、この街から消えたものがあった。
それから数年先、ここよりはるか遠く離れた国で、
緑色の髪をした男を頭にした盗賊団が名を馳せることになる。
束ねるのは緑色の髪をした三刀流の男で、
そして美しいオレンジ色の髪をした女が、彼の右腕を担っている。
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2007/07/18 UP
『王女ナミと盗賊ゾロ』
ハッピーエンドで!とのことでしたが…
あれ、これって一応ハッピーエンド…でいい?(聞くな)
ゾロナミシーンを尽く端折るという暴挙に出ておりますmarikoさん(笑)。
『そこを書けや!!!』という怒りの声が聞こえてきそう…。
でもそんなの関係ねぇ!!
そんなわけでショコラさん、これでご勘弁を!!
生誕'07/NOVEL/海賊TOP
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