裁。
「甲板掃除なんざルフィらにやらせりゃいいだろ! あいつらだって遊んでばっかじゃねぇか!」
「仮にもあんたもこの船の一員でしょ! 自分の船の掃除くらいちゃんとしなさい!」
「あーもう、いちいちうるせぇんだよお前は!!」
「何ですってぇ!?」
「2人ともーーー!!!!!!」
後甲板で恒例の如く繰り広げられていた口喧嘩に、割って入る可愛らしい声がひとつ。
鼻を突き合わせて怒鳴りあっていたゾロとナミに向かって、階段を駆け上がってきたチョッパーは声を張る。
2人は機嫌の悪い目つきのまま振り返り、チョッパーを目に留めた。
その途端、階段の一番上の段に足をひっかけたらしいチョッパーが派手にスッ転んだ。
一瞬宙に浮き、それからベシャリと床に落ちる。
伸びたまま動かないチョッパーを見て、ゾロとナミは慌てて駆け寄った。
「チョッパー!!」
「おい、大丈夫か?」
2人に声をかけられ、チョッパーは赤くなった青い鼻をこすりながら立ち上がる。
「うん…大丈夫…」
「ちゃんと足元見ろよ」
「慌ててたから」
「何をそんなに?」
ナミはチョッパーの隣にしゃがみこみ、その鼻を覗きこみながら尋ねた。
ゾロは腕を組んだまま正面に立っている。
「だって、2人が喧嘩してるって」
「………」
「………」
ナミは思わず顔を上げ、気まずくゾロと目を合わせてすぐに逸らした。
「2人とも、何で喧嘩してたんだ?」
純真無垢な子供の目でそう聞かれ、ナミは再びちらりとゾロを見るが、ゾロはふいっと顔を背けた。
ナミはその態度に眉間に皺を寄せ、チョッパーに向き直って強い口調で返事をした。
「この未来の大剣豪とやらが、寝てばっかりで掃除もしないから」
「おれはトレーニングしたあとは昼寝って決まってんだ」
「あらそう、大層なご身分ですこと」
ナミは立ち上がり、じろりとゾロを睨む。
再び2人の間に剣呑な空気が漂い始める。
それに慌てたチョッパーはピョンピョンと飛び跳ねんばかりに、2人の間で叫んだ。
「なら! ならゾロの分の掃除もおれがやるから! だから喧嘩するなよ!!」
「…チョッパー……」
「…………」
ナミはチョッパーの言葉を聞いて、大袈裟に瞳を潤ませる。
それから再び、ゾロにきつい視線を送る。
「ゾロ! チョッパーにこんなに気を遣わせて! 年上として恥ずかしくないの!?」
「ぐ…」
「ナ、ナミもそんなに怒鳴らないでよ! ゾロのこと好きなのに何でそんなに怒るんだ!?」
「う…」
ナミの言葉にゾロは何も返せず、
チョッパーから純粋な目で見上げられたナミは思わず頬を染めた。
「おれ、おれ…2人が仲良くてしてるの見るの、すごく好きだよ…」
チョッパーは少し俯き、何かを告白するかのようにもじもじとする。
「こんなこと言ったら2人とも怒るかもしんないけど、何かお父さんとお母さんって感じでさ…」
「…おと……」
「…おか……」
一気に喧嘩の気を削がれた2人は、ちらりと目を合わせて苦笑した。
夕刻になり、ゾロとナミ、そしてチョッパーの3人は揃ってキッチンに現われた。
予想通りだとウソップが笑いながら声をかけたが、ゾロに睨まれて肩をすくめる。
それから隣に座ったチョッパーに体を寄せ、ゾロたちに聞こえないように声を潜めて尋ねた。
「お前、どうやってあの2人を仲直りさせてんだ?」
「どうやってって、別に何もしてないけど…」
チョッパーはサンジの給仕姿をウズウズと見つめながら答えた。
負けじとウソップは詰め寄り、その長い鼻を押し付けながら喧嘩仲裁のコツを聞こうとする。
「あの2人の喧嘩止められるなんて、相当だぜ?」
「そんなことないって。 だって、よく言うだろ?」
「何て?」
ウソップが首をかしげると、チョッパーはにっこりと笑った。
「夫婦喧嘩は犬も食わないって」
全く邪気の無い子供の笑顔でそう言われ、ウソップは思わず固まってしまった。
この小さな船医が、メリー号で一番の大人なのかもしれない。
2007/07/14 UP
『【鎹。】の続き』
本当はブラックなチョパにしようかと思ったんですが(笑)、
さらりと大人なピュア・チョッパーになりました。
はちさん、こんな裏側ではダメかな?
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