予。
映画の公開に合わせて帰国したナミは、空港で歩き出した途端に無数の報道陣に囲まれた。
向こうではこんなにマスコミに騒がれたことはなかったので、久しぶりの感覚に何となく戸惑ってしまう。
サングラスをかけなおして、ナミは足早に歩き続けた。
隣についているマネージャーのロビンがまわりのリポーターたちを制してくれているが、
それでも前後左右に張り付かれて歩きにくいことこの上ない。
確かに映画は向こうでは好評だった。
おかげで国でも劇場数を大幅に増やした公開となった。
主演俳優たちも後日合流し記者会見や舞台挨拶を行う予定だが、今日この日はナミだけが帰国していた。
元々国内では人気実力ともにトップクラスだったナミではあるが、
今日のこのマスコミの熱狂ぶりは映画公開とは関係ないものだった。
帰国の数日前、事務所から送られてきた週刊誌にはナミの記事が載っていた。
無言で歩き続けるナミに向かって、マイクやレコーダー、カメラのレンズが無遠慮に向けられる。
「映画の成功おめでとうございます」
「出発の空港では男性と一緒だったということですが?」
「現在もお付き合いは順調に続いているんでしょうか?」
映画のことに触れたのは最初の一言だけで、あとはみな週刊誌の記事に関する質問だった。
事務所やマネージャーからはコメントは発するなと言われている。
映画に関しては改めて正式な記者会見があるし、
ナミは最初に「ありがとうございます」と答えただけであとは全て無視した。
かき分けるように出口へとひたすら進むナミに向かって、報道陣は相変わらず返事の無い質問を投げかけてくる。
「彼はあなたにとって大切な人ですか?」
よく通る女性の声が、そう尋ねてきた。
こんな状況のマスコミ連中にしてはやけに甘い質問をするものだと、
ナミは思わず足を緩めてその質問をした女性の方へと顔を向けた。
その隙を見逃さず、他のリポーターやカメラマンは行く手を阻み、ナミはあっという間に立ち止まる羽目になった。
「彼はあなたを支えてくれていますか?」
なかなかに人目を引く綺麗な青い髪をした美人リポーターは、また尋ねてくる。
立ち止まり、サングラス越しに彼女をじっと見つめるナミが言葉を発するのをマスコミたちは口を噤んで待っていた。
先程までの騒がしさからうってかわって、ナミを中心とした人の円は一瞬しんと静まりかえる。
質問をしたリポーターは、微笑みながらナミをまっすぐ見つめていた。
「……彼は」
ナミが口を開くと、マスコミたちは沈黙しながらもガバリと詰め寄るようにマイクやレコーダーを突きつけてきた。
「彼は…私の、とても大切な人です」
そう答えた瞬間、リポーターたちは嬉々として一斉に質問を浴びせかけたが、
女性リポーターはそれに負けぬ澄んだ声で再び質問をし、結局他の報道陣はまた静まり返ることになった。
「彼のこと、愛してますか?」
臆面もなくそう言って、女性リポーターはまたにっこりと笑った。
ナミはあとでこのリポーターの名前を聞いておこうと思いながら、同じように微笑んだ。
国中の人間を魅了するその微笑は、カメラにしっかりとおさめられていた。
「えぇ、愛してます」
その瞬間、わっと周囲が盛り上がり、ナミはそのリポーターにもう一度笑顔を返して、
空港から脱出すべく再び歩き出そうとした。
だが、ガクンと急に背後から腕をひかれて足を止めさせられた。
何て乱暴な、と思って振り返ったナミは、そこに立っていた人物を見て目を丸くした。
あやうく名前を呼びそうになったがどうにか自制する。
帽子を目深に被りサングラスをかけた男は一瞬ニヤリと笑って、
ナミをひょいっと抱き上げて報道陣の間をすり抜けた。
リポーターたちは何が起こったのか一瞬理解できず、ぽかんとその光景を見送っていた。
彼らは誰一人その男の存在に気付いていなかった。
視界に入っていたとしても、完全に気配を消していた男は彼らの注意を引くことはなかったのだ。
リポーターたちにしてみれば男は唐突にそこに現れ、そして唐突に大女優をかっさらっていった。
だがすぐにマスコミの勘が働き、「彼だ! あの男だ!」と声を上げ慌ててナミたちの後を追って駆け出した。
成人女性を抱えているというのに男の足は恐ろしく早く、
追走も虚しく結局彼らは2人を捕まえることはできなかった。
空港を出たゾロは、待機していた赤いスポーツカータイプの車の後部座席にナミを放り込んだ。
「ちょっと、乱暴ね!」
「サンジ、出せ」
「はいよー」
運転席の金髪の男は軽く答えて発進させた。
バックミラーでちらりとナミと視線を合わせ、「まさかお前の彼女があのナミさんだとはな…」と笑っていた。
ナミは一応笑顔を返して、それから隣の男に目をやった。
帽子とサングラスを取って座席に放り投げたゾロは、ふーーっと長く息を吐いてシートにもたれた。
「……なに大胆なことしてんの? 明日のスポーツ新聞にいいネタ提供しちゃったじゃない」
「知るか」
「テレビカメラにもガッツリ入っちゃってるわよきっと」
「かもな」
ゾロはボリボリと頭をかいて素っ気無く答えた。
ナミはそれを横目で見て俯き、自分のサングラスもはずした。
「……マスコミがいるから、迎えには来ないって言ってたくせに」
「あぁ……でもまぁ、つい」
「ついって何よ」
クスクスとナミは笑う。
その笑顔を見て、ゾロもようやく軽く笑った。
「到着時間と裏道、ロビンが教えてくれたんでな」
「ロビンが?」
「しっかしあいつ…こっ恥ずかしい質問しやがって……」
ゾロは独り言のようにブツブツとそう言った。
ナミは首をかしげてゾロを見る。
「あいつって?」
「ビビだよ、あの質問したリポーター…」
「………知り合いなの?」
あのリポーターは、マスコミにしておくには勿体無いような美人だった。
ナミはその顔を思い出して、一瞬強張った表情でゾロを見つめる。
「大学の後輩。 周りのマスコミの気ぃ引けって協力してもらったんだ」
「…ゾロの後輩にマスコミ関係がいたんだ…」
「あぁ、最近知ったんだけどな」
その口調に後ろめたさは感じず、ナミは小さな嫉妬を胸の中にしまった。
外したサングラスを弄びながら、ゾロをチラリと横目で流し見る。
「なに、見返りは独占取材とか?」
「あぁ…いや、ちょっと違う」
「じゃあなに?」
どこか言いづらそうな顔を覗き込むと、ゾロはちらっとナミを見ただけで窓の外に視線を移した。
それからボソリと呟いた。
「………将来、結婚のスクープ報道と独占取材、可能であれば式への出席」
「………………へぇ……」
一瞬固まったナミは、ふふふと頬をゆるませて、
ゾロの赤く染まった耳を見ながらその腕に腕をからませ寄りかかる。
「じゃあ、あんまり待たせたら悪いかな?」
「かもな……」
ナミが小首をかしげて言うと、顔を向けたゾロはニヤリと笑って答えた。
バックミラーを見上げたサンジは、後部座席で繰り広げられる映画のようなキスシーンに小さく口笛を贈った。
2007/07/08 UP
『(拍手連載の)遠距離恋愛ゾロナミの再会話』
ナミさんが女優で、ゾロはリーマンです。
詳しくは↑の過去拍手読んでください…。
サンジくんは貸しもあるので素直に言うこと聞いてくれます。
てかこのサンジとゾロは普通に仲良しなんで。
春さん、あんまりイチャついてないけどゴメン…!!
生誕'07/NOVEL/海賊TOP
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