過去拍手・其の十九 (2007/01/15〜2007/02/28)

離れ離れの彼らに10のお題 1〜5



01.夢でもいいなんて奇麗事

違う宇宙へ行ってしまうわけではない。
でも今までのように、会いたいと思った瞬間に家を飛び出して会いにいける、
そんな距離ではないのだ。

「何泣いてんだよ」
「だって」
「ようやくてめぇの夢が叶うんだぜ?笑えよ」
「ゾロ」
「第一歩だろ」
「……そうね」

夢だった。
外国でも認められる、そんな女優になることが。
その夢が、叶おうとしている。

世界的にも有名な映画監督。
彼が海外で行ったオーディション、何万という応募者の中で私は役を勝ち取った。
主役ではないけれど、セリフも多く主役に絡む役柄だった。
国内では獲れる賞は全て獲った。
それでも、あの監督の作品に出られるような機会はそうは無いだろう。
彼が全世界的にオーディションを行わなければ、おそらくは私はまだ国内でのみ活動していたはずだ。
いつか、海外へ行こうと思っていた。
ゼロからのスタートになることも構わない。
海外での私の知名度など無いに等しいだろうし、外国語も流暢とはまだ言えない。
それでも、私は自分の力を試す、もっともっと大きな舞台を求めていたのだ。
合格を知らされたときは、まさに天にも昇る気持ちだった。
マネージャーと2人で、笑いながら泣いた。
そのときは嬉しくて嬉しくて、考えが及ばなかったのだ。
海外へ進出する、それはつまり、
ゾロと離れ離れになるという意味を持つのだと。

「有休取って、ゾロも来てね」
「あぁ」
「メールもするから、面倒くさがらないでちゃんと返事してよ」
「分かってるよ」
「別に…一生会えないわけじゃないもんね」
「…当たり前だろ」

唇を噛むと、ゾロはそっと私を抱き寄せる。
通り過ぎる人たちがその姿に一瞬視線を寄越すが、すぐに気にせずに歩き去っていく。
空港の人込みの中で、私たちのまわりだけ時が止まっているようだった。

「夢でなら、毎日逢えるかな」
「同じ夢ばっかじゃ飽きんじゃねぇのか?」

くっくっとゾロが笑う。
ゾロのシャツに顔を埋めたまま、背中に回した手に力を込める。

「飽きないよ」
「そうか」
「夢の中だけでもいいから、逢いたいもん」
「……そう、だな」


夢の中だけでも、だなんて。
女優のくせに、何て下手な演技かしら。

このまま、本当に時が止まってしまえばいいのに。


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今度は遠距離恋愛なお題です。
ナミさんは女優、ゾロは普通のリーマンです。
細かい設定は追及しない方向でヨロシク!


02.指先に触れる熱が恋しくて

いつものように、さらさらとしたオレンジ色の髪に指を差し入れる。
柔らかいその髪は指の隙間から逃げるかのように零れ落ちていく。

ナミはおれの胸にしがみついたまま顔を上げない。
国内では既にトップクラスの女優として通っているくせに、
笑って別れる、そんな演技は出来ないらしい。

そのまま手を滑らせてうなじに触れる。
落ち着かせるように、その細い首筋を撫でてやる。
ナミは小さく鼻をすすって、さらにしがみついてくる。

腰に回した腕を引き寄せて強く抱く。
微かに震えているナミの肩の上に顔を乗せ、まるで吸血鬼のようにナミの首筋に口付ける。
いっそこのまま拘束して、おれだけのものにしてしまえれば。
ナミの体をその指に刻みこむように、何度も首筋や背中を撫でる。

「毎日、夢で逢えるかな」

ナミがポツリと呟く。

「夢の中だけでもいいから、逢いたいもん」


夢で逢えたなら。
この熱も感じることができるだろうか。


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ゾロも口には出しませんが、脳内乙女でした(笑)。


03.まだ、逢えない?

「ゾロ」
「おぅ、撮影はどうだ?」
「順調よ、スタッフさんともすっかり仲良しよ」
「へぇ、言葉通じてんのか」
「失礼ねっ! ペラペラよ!!」
「へぇ」

他愛も無い会話。
昨日は何があった。
今日は何があった。
まるで高校生の男女ように、交わされる日常の報告。
時差もあるし、お互いの仕事もあるからあまり長電話はできない。
いくら喋っても、足りないというのに。

「……ねぇゾロ、お休み取れた?」
「あー、今調整中。でも多分大丈夫だ」
「よかった」
「お前は撮影無いのか?」
「うん、その頃は私のとこはもう終わってるし、オーディションも無いから」
「そうか」

壁にかかったカレンダーに目をやり、手を伸ばしてそっと触れる。
ここに来て数ヶ月。
私にとって初の海外作品となる映画も作品のクランクアップはまだだが、
私のシーンはもうすぐ撮り終わる。
だが、国に戻るつもりはなかった。
既に別のオーディションをいくつも受け、良い結果をもらったものもある。
映画が公開されて良い評価をもらえれば、もしかしたらオファーも来るかもしれない。
どちらにしろ、しばらく戻る予定はない。
そのことはゾロにも伝えてある。
ゾロは応援してくれている。
だからこそ、私は安心してここで活動を続けることができるのだ。

だが、それと「逢いたい」という気持ちは別物だ。
カレンダーを1枚めくると、そこには赤い○で囲まれた数字が並んでいる。
まるで愛しい人がそこにいるかのように、指でその数字たちをなぞっていく。

「ねぇゾロ」
「ん?」
「まだ、逢えない?」
「…もうすぐだ」
「うん」


あの日話したように、夢では毎日逢っているのだけれど。


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国とか時期とかは考えないようにね!


04.見知らぬ人に君を重ねて

人込みの中を歩きながら、ふと振り返るときがある。
ナミと同じ、オレンジ色の髪の女。

ナミとは違う顔をしているのに。
ナミとは身長すらも違うのに。
それなのに、ただ髪の色が同じというだけで一瞬何かを忘れそうになる。
振り返り、そのオレンジ色の髪をした女の後姿を見送って、
情けない自分に自嘲する。

メールもして、電話もして。
互いの気持ちが離れることを心配したことはない。
だが、自分がこんなにもナミという存在に執着しているとは思いもよらなかった。

いくら向こうでの生活を知らされても。
いくら電話越しにその声を聴いても。
雑誌やテレビでその姿を見つけたとしても。
この手で触れたいと思う気持ちは尽きる事は無い。

中毒だ。

無意識にそう呟いたらしく、すれ違ったサラリーマンが怪訝な顔を寄越す。
ふっと笑って、歩き出す。
とりあえず今すべきは、まとまった休みを取れるよう必死に仕事することだ。
ナミは事あるごとに『逢いたい』と口にする。
実際に逢えるかどうかは問題ではなく、口にすることで逢えない寂しさを誤魔化しているように。

ようやく逢えるのだ。
あいつの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
何よりも、いい加減おれが耐えられない。
顔がにやけていたらしく、再びすれ違うOLに気味悪がられた。
構うものか、と心の中で呟いた。

オレンジ色の面影を持つ他人ではなく、ナミそのものに逢えるのだから。


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乙女ゾロ継続中(笑)。
ゾロの会社のこととか細かいことは以下略。


05.窓から見える雪が涙のように思えた

「……何で」
「悪ぃ、どうしても無理なんだ」
「だって、ずっと前から言ってたのに!」
「急に入院した奴の仕事がおれにまわってきて、休み取ってる場合じゃ無くなっちまって」
「そんなの知らない」
「……無理なモンは無理だ」
「休み取るって言ったくせに!何でゾロに仕事回ってくるのよ!」
「病気じゃ仕方ねぇだろ!」
「………」

電話の向こうでゾロが怒鳴り、互いに口を噤む。
小さく舌打ちするのが聞こえた。
仕事なんだから仕方ない。
そんなことは分かってる。
でも、私はずっと楽しみにしていたのに。

「……ゾロは、私に逢いたくないの」
「…何でそうなるんだよ、今回は逢えないってだけで、別に逢いたくねぇだなんて一言も」
「もういい」

そのまま電話を切った。


バカ。

電話を握り締めて、小さく呟いた。
静かな部屋にはやけに大きく響く。

ゾロが平気な声で言うから。
逢いたいと、その一言を言ってくれなかったから。
ただそれだけでまるで子供のように怒って、感情にまかせてせっかくの電話を終わらせてしまった。
溜息をついて、ぶると体を震わせる。
窓の外を見ると、チラチラと雪が舞い始めていた。
寒いはずだ。
ソファに置いてあったショールを羽織って、窓に近づく。
手を伸ばすと、冷たいガラスが指先に触れた。
窓の外では雪の粒が段々大きくなって、視界を白く染めていく。

バカ。

もう一度、今度は少し声を張って口に出す。

視界が霞んでいくのは雪のせいか、
それとも、涙か。


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喧嘩しちゃいましたなぁ…(他人事)。
季節はどうやら冬らしいね!

続きは翌月に。


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