100001ゲッター、みちりんサマへ愛を込めて

堕。 ―第1話―










 「お前はこの国を統べる者だ。 その夫となる男が音楽にしか能が無いようでは困る」




恋人の話をすると、返答はいつも決まってこうだった。



決して厳しい父親ではなかった。
一般家庭の父と同じように、娘を愛していた。
だが恋人となると話は別だった。

東の国の小さな島国とはいえ、一国の王であるその男にとっては、
大事な大事な一人娘であり、ゆくゆくはこの国を統べる女王となる娘の結婚相手にはそれなりの身分の男を、
と思うのは当然のことであった。

だがそんな父親の心を知ってか知らずか、
王女が選んだ相手は、両親も無く独りで生きる、しがない作曲家であった。

王はその男に一度だけ会ったことがある。
国王に対してもそのまっすぐな目を逸らすことのなかった、精悍で立派な体躯の青年だった。
もし自分が国王でなければ、娘の選んだその青年を喜んで迎え入れたことだろう。

だが、自分は国王であり娘は王女であった。

その生まれ持った身分の差は所詮努力や愛などで埋められるものではなく、
結局王は娘の言うことを拒絶し、上位の男と無理矢理結婚させることを選んだ。
王女にしては奔放な性格の娘も父親を愛し国を愛していたため、最後には自分の言うことを聞くと王は信じていた。


そうして、王女は選ばれた相手との結婚を了承した。



だが、王は気付いていなかった。

自分の娘が、その男をどれほど愛していたのかを。



















 「明日よ」

 「……」



男の部屋で、決して上質とは言えないシーツに2人でくるまって、女はポツリと声を漏らした。

女――ナミは体を起こし、小さな窓から差し込む月明かりの下にその白い肌をさらした。
返事をしない男の顔を見下ろして、小さく溜息をつく。



 「ゾロ」

 「……」



名を呼んでも、男――ゾロは返事をしなかった。
無言で手を伸ばしてナミの腕を掴み、自分の胸の上に抱き寄せる。
男の厚い胸板に頬を寄せ、ナミは目を閉じた。



 「明日、結婚するのよ」

 「……あぁ」



そっけない返事に、ナミは顔を上げてゾロを睨んだ。
ゾロはただじっと天井を睨んでいた。



 「私が結婚してもいいんだ?」

 「……いいわけねぇだろ」

 「じゃあ、何か言ってよ」

 「……お前は王女で、おれはただの男だ」



ゾロがそう呟いたので、ナミはかっとなって男の頬を叩いた。
乾いた音がしたあと、静寂が室内を包む。





 「私は、王女として貴方を愛したんじゃないわ」

 「……」

 「貴方は王女の私を愛したの?」

 「……」




答えない男の顔をじっと見つめていたナミは、やがて息を吐いてシーツから抜け出した。
床に散らばっていた衣服を手早く身に付け、歩き出す。




 「ナミ――」

 「さよなら」



ナミは小さくそう言って、男の部屋から出て行った。







何度も繰り返したあの会話。
結局答えは出ないまま、明日になれば愛してもいない男と結婚する。

恨むべくは父か身分か、それとも出逢いそのものか。



だがそれでも、愛したことを後悔はしたくないと、
ナミは涙を拭って顔を上げた。







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某エステのCMだよー。

2007/05/10 UP

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