讐。









 「じゃあナミさん、おれとキスしようか?」

 「………はい?」



その笑顔でどれだけの女を落としてきたのか、金髪碧眼のコックはにこやかにそう言った。



 「…サンジくん、私が何を相談してるかもう忘れたの?」

 「覚えてるよもちろん」

 「じゃあその提案は何よ」

 「ヤキモチ大作戦」

 「…は?」




ゾロの前で、自分とナミがキスする場面を見せ付ける。

ゾロは絶対に嫉妬する。
それはつまり、ナミに対して特別な感情を抱いているということ。

その感情を自覚させることが目的だとサンジは力説した。



ナミは疑い深げな目でその姿を見つめ、サンジはその視線にも気付かず熱く語っている。



 「でもなーーー」

 「それにねナミさん、おれの気持ち知ってるのにこんな相談するなんて、かなり酷だよ」

 「………」

 「このくらいのご褒美貰ったって、バチは当たんないだろ?」

 「……そのわりには、ゾロとの事に協力的じゃない。女の人なら誰でもいいのって思っちゃうわよそれじゃ」



ナミが誤魔化すように茶化すと、サンジは口元を緩めてナミに微笑む。
その笑顔からナミは慌てて目を逸らし、横目でチラリとだけ見た。



 「おれが協力するのは、それがナミさんの願いだからだよ」

 「……」

 「仮にこれがゾロからの相談だったら、絶対に乗らないよ? ナミさんだから協力するんだ」

 「……」

 「貴女はおれの全てだから」



この男に惚れていたなら、どこまでも大事にされて女としての幸せを味わえたことだろう。
ナミはサンジの笑顔を見ながら、ぼんやりとそう思った。

女を落とす常套句なのかもしれない。
でも、分かったうえで騙されてみたい、という気にこの男はさせるのだ。


危ない危ない、とナミは再び目を逸らす。
あやうく流されるところだった。
だが…。



 「……ん、まぁ、その作戦も悪くないかもしれないわね」

 「よっし! じゃあ次のゾロの見張りのときに!」

 「……」




ゾロが何も反応しなければ、それだけの話。
正面切って玉砕しなくてすむ、というだけのこと。

もし何らかの反応を…、嫉妬を、してくれれば。
あわよくは、ゾロの方から何らかの行動を起こしてくれれば。

などと都合のいいことも考えつつ、ナミとサンジはその作戦を実行したのだった。















作戦決行から翌日の早朝。
サンジからの報告を受けたナミは、何となく頬を緩ませながらキッチンを後にした。


ゾロの反応を聞いたかぎりは、かなりの脈アリである。
あとはどう行動するか、もしくはどうやって行動を起こさせるか。

考えながら、習性で足はミカン畑へと向く。
だが木の間に緑色の頭を見つけ、思わず動きが止まった。


ゾロはミカンの木の1本に寄りかかり、腕を頭の後ろで組んで枕にして目を閉じている。

ナミはばくばくと暴れる心臓をどうにか抑えつつ、平静を装ってミカンの木に近づく。

目の前を通り過ぎても、ゾロはピクリとも動かなかった。
眠っているのか。
その姿を見下ろして少し胸をなでおろし、ナミはミカンの葉の様子を見る。


手早く終わらせて部屋に戻ろう、そう考えていた。
さすがに昨日の今日で上手く話せるとは思えなかった。

ゾロに背を向け、それぞれの木に目を走らせてチェックをする。


だがすぐに、背中に視線を感じて恐る恐る振り返った。





ゾロはばっちりと目を開け、ナミを見つめていた。



 「……っ、お、おはよう」

 「おう」



どうにか裏返らずには済んだが、明らかに動揺した声でナミは挨拶をした。

ゾロもあっさりと返し、立ち上がってナミに近づく。
ナミは思わず背を向け、葉に埋まる勢いで出来うる限り木に寄った。
だがゾロは構わず距離を縮めてきて、すぐ隣に立つ。


近い。
近すぎる。

心臓の音が聞こえてしまいそうで、ナミはこっそりと深呼吸した。
チラリと隣を見上げると、ゾロはぼんやりとミカンの葉を見つめていた。
目が合わなかったことでどうにか落ち着きを取り戻し、同じように葉っぱを見つめて痛んだものを除いていく。




 「お前ってさぁ」

 「…、な、なに」



唐突にゾロが口を開き、ナミはびくりと体を強張らせる。

こんなことでいちいち反応していては先が思いやられる。
自分で自分を叱咤し、ナミは不自然な笑顔をゾロに向ける。



 「なかなかすげぇ女だよな」

 「……は?」



意味が分からず、ナミは思わず目を丸くしてゾロを見つめた。
ゾロはニヤリと笑いながらその顔を見つめ返す。






 「このおれにカマかけやがったんだからな」




瞬間、ナミの顔から血の気が引いて嫌な汗が一気に流れ出す。

バレていた?
何故?

ダラダラと汗を流したまま固まっているナミを見て、ゾロはぷっと噴き出した。



 「なななな何のこと?」

 「どもりまくってるぞ」



ゾロは耐えきれずくっくっと笑いながら、ナミの頭をくしゃりと撫でた。
その仕草にナミはかあっと顔を赤くする。

乱暴に髪をかき混ぜていたゾロの手がふいに止まり、今度は優しく乱れたその髪を直し始める。
ナミは軽いパニックになっていて、抵抗もせずされるがままになっていた。


飛び跳ねまくったナミの髪がようやく元の位置に戻った頃、
そのまま横髪の束を少しすくって、そのさらさらとした感触を楽しむようにゾロは指の隙間からこぼしていく。

自分を、というか自分の髪を見つめるゾロの目が、普段と違ってあまりに優しいものだから、
ナミは抗議することも尋ねる事もできず、大人しくゾロの正面に立ってその行為を受けていた。
顔は相変わらず赤く、当然ゾロにもそれは気付かれている。




 「ナミ」

 「な、に」

 「おれお前のこと好きみてぇだ」

 「………………」



ゾロの突然の告白からナミの顔が真っ赤になるまで、軽く十秒はかかっていた。
相変わらずオレンジの髪をいじりながら、ゾロは辛抱強くナミの反応を待っていた。



 「……え、と、その」

 「言わせたかったんだろ?」

 「………っ」



髪から指を離し、ゾロは今度はナミの肌に指先で軽く触れる。




 「お前は?」

 「……え」

 「おれにだけ言わせる気か? フェアじゃねぇなぁ」

 「…………」




ゾロは意地悪く笑う。




確かに。
ゾロが言ってくれれば、と。
そう考えていたりしたけれど。


いざ言われると。



何かもう。





頭の中がさらに混乱して何も考えられなくなったナミがとうとう泣き出してしまい、
結局ゾロはそれを慰めるのに精一杯で、ナミから狙いの言葉を言わせることはできなかった。



仕掛けた罠に嵌った獣が、大人しくしていてくれるはずがない。




罠。』の続き
その後のゾロが気になる、とのことでしたが。
あれ、ナミさんのお話になってるね。
あれあれ。
まぁえぇやん細かいことは、ね?

10/16にリクくれた方、これで許せ!(開き直り)

2006/12/22 UP

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