蔵。








 「よっこらせっと」

 「何だそりゃ、食いモンじゃ無ぇのか?」



キッチンのテーブルの上に、サンジは重そうな音を立てて紙袋を置いた。

サンジのいない隙にこっそりと酒を拝借しようとしていたゾロは、
小さく舌打ちをしてラックから手を引っ込め、その荷物を覗き込む。



 「本日の戦利品だ」

 「あ?」



ニヤリとゾロに笑いかけ、サンジはビリビリと紙袋のテープを剥がした。
そこから取り出されたのは、数冊の雑誌。



 「………」

 「てめぇも見るだろ?」

 「てか、また買ってきたのかよ」

 「見ねぇっつーんなら全然おれはそれで構わねぇけど」

 「いや見るけど」

 「よしよし」



うんうんと頷いて、サンジは雑誌を袋に戻した。
それを隅によけて、今度はちゃんと食材の入った紙袋から中身を取り出していく。
新鮮で質がよく、ちゃっかりと値切られた食材たちを見る目は、
先程までの青(性)少年の顔とは違い、一流コックのものになっていた。



 「あ、でもルフィたちが先だからな」



ふとサンジは顔を上げ、ゾロにそう声をかけた。
キッチンから出て行こうとしていたゾロは立ち止まり振り返る。



 「何だ、あいつらが先かよ」

 「しょうがねぇだろ、こないだ見せたら気に入ったみてぇだから」

 「順番的にはおれだろ」

 「それがよー、あいつら好みが合わねぇっておれのセンスに文句言いやがったんだ!」



サンジは唇を突き出して不満を露にし、ゾロに訴える。
呆れた顔でゾロは戻ってきて、テーブルの上の紙袋をトンと叩く。



 「だからてめぇのはマニアックだって言ったろ」

 「でもお前は別に嫌いじゃねぇだろ?」

 「……まぁ」

 「だろー? 結局ガキにはまだ分かんねぇんだよな!
  今度のはあいつらにも何とか理解できるはずなんだ、だからまずはあいつらに見せる!」

 「お前は一体何を目指してんだ」

 「あ?」

 「何でもない」



きょとんとした顔のサンジは、それから再び食材整理の手を動かし始める。
ゾロはその姿を見ながら、チラリと雑誌の紙袋に目をやった。


キッチンという皆が団欒する場にはあまりに不似合いな、ソレ。





 「なぁ、さっさと隠しといた方がいいんじゃねぇの?」

 「あ?」



ゾロは顎で紙袋を示す。


こういう類の雑誌を、サンジはキッチンの戸棚に隠していた。

コックの聖域であるキッチンを勝手に荒らすものはいない(食糧泥棒は除く)。
だから隠し場所としては安全だ。

そう言ってサンジは堂々とそこに収納していたのだ。




 「あぁ、もうあそこに隠すのはやめたんだ。
  あいつらも見たいだろうから、男部屋に置いとこうと思ってな」

 「なんつーか、この件に関してお前はえらい優しい先輩だな」

 「だってよー、何か楽しいじゃねぇか」



苦笑したゾロに、サンジはへへっと笑いかける。



 「そのうちあいつらも好みで買ってくるだろうし、皆で回し読みとかしようぜ!」



サンジはヘラヘラと笑いながら紙袋をポンポンと叩く。

無言でその姿を見つめ、ゾロはしみじみと呟いた。



 「お前、同年代のツレとかいなかったんだな」

 「………文句あっか」

 「別に、まぁその気持ちも分からんでもない」

 「だろ?」



サンジは笑い、ゾロもつられて笑った。












 「何2人で微笑みあってるの気持ち悪い」

 「……別に微笑みあってねぇ」

 「変な言い方やめてくれよナミさーーーん!!」



キッチンに入ってきたナミの第一声に、2人は揃って嫌そうな顔をした。
だが以心伝心で、さり気なく移動しナミの目から雑誌の入った紙袋を隠す。



 「今日の夕食はなぁに?」

 「船長が五月蝿いんで、肉料理でっす」

 「そっか、久しぶりだから私も食べたいわ」

 「貴女のためにこの腕存分に振るわせていただきます!!! 隠し味はもちろんおれの無限の愛!!」




目をハートにしたサンジを軽く流しつつ、
ナミは片手に持っていた紙袋をテーブルに置いた。



 「あのさー、サンジくん」

 「はいっ!」



目を合わせニコリと微笑んだナミに、サンジは体を溶かしつつ威勢のいい返事をする。








 「隠し場所、変えたのね?」




 「………………」






無邪気な笑顔のままのナミとは対照的に、
サンジと、ついでにゾロの2人は引きつった顔で固まった。




 「だったらあそこに、私のお菓子隠してもいい?」

 「………あ、はい、どうぞ……」

 「部屋にあるとついつい食べちゃうのよねー」



ナミはそう言いながら、戸棚の前に椅子を引っぱってきてその上に立ち、
扉を開けてその奥に菓子の詰まった紙袋を押し込んだ。

それから椅子を戻して、さっさとキッチンから出て行く。



その間、サンジとゾロは引きつった笑顔のまま動かなかった。






 「………気付かれてんじゃねぇかバカコック!」

 「あぁそういえばあの隣には紅茶のストック置いてたもんなぁ………」

 「アホーーー!!!!!」




『【語。】の続き』
随分昔の話の続きだなぁ。
23番目の作品だよ【語。】って!
ちなみにこの話は255番目だよ!
ここ2年は小話ばっかり書いてる気がする……。

10/13にリクくれたハルさん、こんな2人でいかがでしょ?
ナミさんは最強です(笑)。

2006/12/15 UP

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