「呪いって何」



男の後を追って、ナミは城の廊下を歩く。
男は返事をせず、無言で自分の寝室の扉を開ける。
ナミはしつこくついていき、同じように中に入った。



自分で扉を閉め、ナミはベッドの脇に立った男の傍まで早足で近づく。

男はマントを外し、ベッドに腰掛ける。
ナミも少し悩んで、隣に座った。

男は相変わらず何も言わない。




 「呪いって何なの」

 「………」

 「…私は貴方の花嫁なんでしょう? 妻に隠し事なんてしないで」

 「………」



ナミは男の顔を覗き込み、じっと見つめる。
仮面越しの見えない男の表情を読みとろうと、必死だった。
男はナミを見つめ返し、まず手袋を外しそれからシャツに手をかけた。


ゆっくりと腕を抜き、裸の上半身をナミの眼前に晒す。


先程ナミが見たのは、胸の傷だけだった。
だがそれだけではなく、男の体は全身が傷に覆われていた。

傷の無い箇所を探せという方が困難だった。
胸も、肩も、腕も背中も腰も、無数の傷により皮膚はひきつれ、
火傷の痕だろうか、ケロイドが右腹の脇から背中にかけて体の半分以上を覆っていた。
顔は仮面を被っているので見えないが、首筋から走る傷の先を想像すれば、
そこも同じような痕で覆われていることは想像できる。


ナミは思わず口元を押さえ、小さな声を上げた。
その様子を、男は無言で見つめていた。



 「…どうして、こんな」

 「……昔、おれがまだ今より子供だったころ」

 「昔…?」

 「もうずっと昔だ……覚えていない」



真っ赤に染まったシャツを床に落として、男はゆっくりとナミに語った。









男は、一人の魔女と出会った。

男は女を知らないまだ子供で、魔女は人間とは比べようもないほどの美しさを持っていた。

男は魔女と関係を持ったが、それは単なる好奇心からのものだった。
だが魔女にとっては違った。

自分の元を去ろうとする男に激怒した魔女は、狼を操り、逃げ出した男を襲わせた。

森の中で狼の群れに飛びかかられ、男は瀕死の重傷を負った。
魔女の棲む森に入ってくる人間はいない。
助けも無く死が近づいてきた男の傍に、魔女は妖艶な微笑みと共に現れた。

また自分の元に戻るのなら、傷も癒し全て元通りになる。
虫の息で地面に転がる男を見下ろしながら、魔女は楽しそうに笑った。

魔女の笑顔を、男は最初は美しいと思っていた。
だがこのときは、既にそれを怖ろしいとしか思えなくなっていた。

戻るものか、と。
男は掠れた声で答えた。

怒り狂った魔女は、男に呪いをかけて立ち去った。



永遠に続く呪いを。








 「そうしておれは、こんな姿になった」

 「永遠に……?」

 「傷は塞がった…だが癒えることは無い。 全身を醜い傷に覆われ、人前に出ることはできなくなった。
  死ぬ事も許されない、呪いがおれの体の傷を塞ぐからだ」

 「……貴方は、一体どれくらいの間、ここで一人で?」

 「さぁな…何十年か、何百年か……」

 「……不老不死、てことなの…?」

 「年はとる」



男はフッと笑った。



 「だがそれは普通の人間の、何倍も何十倍も遅い。
  あのときのおれの年も、今の自分の年ももう覚えていない」





たった一人で。
嫉妬に狂った魔女の呪いに閉じ込められて。
人並みに暮らすことも、自ら決することも許されず。

いつしか男は野獣と呼ばれ、強制的な力でしか人生を共にする伴侶すら見つけることができなくなった。
年を取らない自分を残して、花嫁たちは老いて死んで行く。
共に生きることも共に死ぬことも叶わず、野獣はただその死を悼んで泣く事しかできなかったのだ。





 「家族も、城の人間も皆死んだ。

  花嫁たちも死んでいく。

  心の底ではおれを恐れ、怯え、老いて、そして死んでいく。

  おれには城と、庭の花たちと、そしてこの怖ろしい呪いしか残らない」






微かに震えた男の声を聴きながら、ナミは立ち上がり男の正面で向かい合い膝をついた。
腕を伸ばし、男の仮面に手を添える。
一瞬男は体を強張らせたが、抵抗はしない。

ナミはゆっくりと、その仮面を外した。




仮面の下はやはり傷だらけで。

でもそこにある翡翠色の瞳は、とても綺麗だった。





 「ねぇ、私はまだ貴方の名前も知らないの」

 「………ゾロ」




男――ゾロが静かに答えるのを聞いてから、ナミはそっとその唇に口付けた。




 「ゾロ、愛してるわ」

 「………」

 「私が貴方と居るから。 だから、泣かないで」

 「ナミ」

 「愛してるわ」




ゾロの目尻に唇を寄せて、それからナミはもう一度口付ける。








呪いを解く方法はただ一つ。

愛する女を見つけること。

己のその姿を見ても。
己のその呪われた運命を知っても。

なお愛すると言ってくれる女を見つけること。








以降、人々が野獣の咆哮を聞くことは無かった。




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『美女と野獣でゾロナミ』
結局映画は観ませんでした。
一応絵本は読んでみました。
思い込んでた内容と結構違いました。
狼部分の話は先に書いてたのですが、お話に出てきてビックリしました。
映画を見た際の記憶が脳内に残ってたのか。
最後適当(コラ)でゴメンナサイ。
てかこの場合、呪いが解けた瞬間にゾロって死ぬんじゃないの?(笑?)
まぁ深いことは気にせずに!

10/13にリクくれたruruさん、こんな雰囲気で!

2006/12/12 UP

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