争。
「いやしかし、意外だな」
キッチンで、大きな鍋の中身をグルグルかき混ぜながらサンジは呟いた。
「何が?」
「ゾロだよ」
「ゾロがどうかしたのか?」
テーブルの上に上半身を伸ばして、どうにかツマミ食いをしてやろうと狙っているルフィは、
サンジの呟きに反応して顔を上げた。
サンジは振り返り、腕を組んでシンクに寄りかかる。
「あいつも人並みに青春しちゃったりするんだなー、と」
「何の話だよー」
「お前気付かなかったか?」
「ゾロがナミを好きってことか?」
「……気付いてんじゃねぇか」
ルフィがあまりにあっさりと言ったので、
若干拍子抜けしたサンジは再び鍋に向き直りコンロの火を弱め、フタをする。
それからテーブルに移動して、ルフィの斜め前の椅子に座った。
「意外じゃね?」
「そんなの、ずっと前からじゃねぇか」
「ずっと?」
「そうだな、おれら3人が初めて会ってー、それからすぐくらいか?」
「……へ、へぇーー…」
少々の疎外感を感じつつ、だがそんな前からだったのかというさらに意外な事実に、
サンジはルフィにバレないように動揺を隠しながら、努めて冷静に返事をした。
「からかうと面白いよな、ゾロって」
「お前アレ、わざとか」
先日ゾロの前で、ルフィはナミにかなりのセクハラ行為をしていた。
といってもルフィにもナミにもその自覚は無いので問題は無いのだが、
ゾロにとっては面白くない光景だったようだ。
それを見たおかげで、サンジはゾロの気持ちに気付いたのだ。
「だってよぉ、ゾロって分かりやすいんだ」
「そうか?」
「違うか?」
「さぁ」
あの剣士は何を考えているか、どうも本心を隠すタチらしい。
あのシーンを見ていなければもしかしたらサンジは、ゾロのナミへの思いには気付かなかったかもしれない。
今だからこそ「言われてみれば」という事はいくつかあるが。
「ま、ナミの方もアレだしな! 良かったよなゾロ!」
ルフィの言葉に、サンジの思考が中断する。
「……アレって何だよ」
「…何って?」
「誤魔化すな!」
「誤魔化してなんかねぇよ、お前だってナミのこと見てんなら分かるだろー?」
「………」
ルフィが不満そうな顔をする。
思わず言葉に詰まり、サンジはテーブルに片肘をついてその手に顎を乗せる。
咥えた煙草を器用に上下に揺らしながら、ぼんやりとナミのことを思う。
確かに、彼女の態度はここ数日で変わっている。
いや、元々そうだったのか?
自分が気付かないフリをしていただけなのか?
トレーニングをする剣士を見る瞳の色や、
夕食のときに自然に隣に座ることや、
上陸時の買出しにあの男を連れて行くことや。
2人の間に流れる、おそらくは当人たちも気付いていないあの空気。
「………」
いやいやいや、気のせいだ気のせい。
そんなことはあるわけはない。
サンジはぶんぶんと首を振る。
ゾロの方はまだしも、ナミがあんな男に惚れるわけはない。
そうだ、あんな男。
寝てばっかりのくせに酒だけは人並み以上に消費しやがる。
夏場には近寄りたくもないほど大汗をかいて、クソ邪魔な筋トレグッズを振り回して。
目つきは悪いし態度も悪いし、迷子になるわ大怪我するわ。
………だが。
約束はきちんと守る男。
強い夢を持ち、ただそれを果たすためにひたすら前に進む男。
いつも冷静な判断を下し、周りに目を配り、相手が気付かないような気を遣える男。
こんな言葉は吐き気がするほど似合わないが、そう、優しい男なのだ。
「…………ちっ」
「サンジどーした? 顔が面白いことになってるぞ?」
「……何でもねぇよ、うるせぇな」
一人百面相状態になっていたサンジはまた舌打ちをして、ルフィの頭を握ったままだったおたまで殴った。
「いてぇな!!」
「盗み食いすんなクソゴム!!」
「ちょっとだけ!!」
「だめだ!!」
背後の鍋に向かって伸びようとするルフィの腕を叩き落しながら、サンジはまだ思考を飛ばす。
仮に、万が一。
ナミがゾロに惚れることがあったとしよう。
それでも、ゾロが自分の気持ちに気づいていないうちはまだ大丈夫だ。
自分にも勝機はある。
(勝機って何だよ、もう気持ちで出遅れてんじゃねぇか)
そう思ってまた舌打ち。
とにかく、今はまだ大丈夫。
ゾロが気付かない限りは……。
無自覚でアレなのだ、もし自覚したら……。
ブンと頭を振って嫌な想像を振り払い、サンジはルフィを蹴り飛ばす。
対・ゾロの気持ちを込めながら。
『【惹。】の続き』
サンジくんのお話。
ゾロは未だに無自覚です。
10/10にリクくれた方、こんな続きで許してください…orz
2006/12/05 UP
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