継。











その少年は、はっきり父親からと分かる2つのものを受け継いでいた。


ひとつはその髪の色。
父親と同じ、森を思わせる深い緑の色。


そしてもう一つ。



その少年は、動物の言葉を解し心を通わせることができた。















村を守るために自らの体を犠牲にした巫女。
その女を愛して、自分の力を削って甦らせた妖怪。

その2人――ナミとゾロの子供はコトと名付けられ、
母親に似た愛らしい顔と、父親に似た慈悲の心を持っていた。


コトの生まれる数ヶ月前にこの村に辿り着いた夫婦は、すんなりと村人たちに受け入れられた。
2人が人を惹きつける容姿と天分の持ち主であったこともあるが、
自身も弱りながらも傷ついた妻を案ずる男の姿に、村人たちは同情したのだった。



だが、2人の子供はまた別であった。



動物たちを相手に会話のような所作を見せるコトを、村人の中には不気味がる者もいた。
それを直接的にナミたちに言うことはないが、自分の子供がコトと遊ぶことをさりげなく禁じていた。


ゾロとナミもそれに気付いていたが責める訳にも行かず、
コト自身もそこまで気にしていないようだった。
第一子供というものは親に止められたとしても、遊びたい相手とは遊ぶのだ。
親の目を盗み、コトと共に森を駆ける子供たちの姿をナミは何度も見ている。
















その森には高く大きな滝がある。

危ないからその上には近づくなと、村の子供たちは大人からきつく言われていた。



この日、一人の少年がその滝の上にいた。
母親と喧嘩した少年は、見せしめとしてわざと危険な行為をしようとしていた。

自分を探しに来て、ここに立っている姿を見つけたらさぞかし驚くだろう。
そんな些細な気持ちだったのだ。


どどどど、と鼓膜を潰すような大きな音を立てて、大量の水が流れ落ちている。
少し体を覗かせると、眼下の滝つぼは立ち上る水しぶきで全く見えない。


こんな高さは、少年には初めて見るものだった。

足がすくみ、体が震える。


やっぱりやめよう、もっと他の方法で。



そう思った次の瞬間。




水に濡れた岩に、少年は足を滑らせた。
















小さな村に緊張が走った。

村の子供が一人、行方が知れないという。


もうすぐ陽が落ちるというのに森に入ったまま帰ってこないその子供の母親は、
コトをあまりよく思っていない人物だった。

案の定、母親はコトを、ナミを責めた。


遊ぶなと言ったのに。
獣と話すような、得体のしれない子供と一緒に森へ入ったりするから。
挑発された獣に食われてしまったのかもしれない。


コトはナミの手をぎゅっと握り、母親の叫び声に耐えていた。
村人たちはなだめようとするが、我が子を案ずるが故の狂気に取り憑かれた母親は口を閉じることはなかった。


獣なんかを相手にするような子供がこの村にいるなんて。
その子のせいで、私の息子は。




子供を想う母の心は分かる。
ナミは何も言い返さず、ただコトの手を握り肩を抱く。
その背後からゾロが近づき、ナミの頭を自分の肩にそっと寄せた。



 「ゾロ…」

 「大丈夫、きっと無事だ…森が大人しい。 探しに行こう」



ぎゅっと目を瞑るナミの耳元に、ゾロが囁く。
ナミも頷いて、動き出そうとすると同時に。


コトが、ぎゅっとナミの手を強く握った。




 「コト?」

 「滝」

 「え?」

 「滝にいる」



コトは自分の真上を飛ぶ鷹を見上げながらそう呟いた。
ナミも母親も村人たちも、思わず空を見上げる。
ゾロも同じように顔を上げ、舌打ちした。



 「コト、何ですって?」

 「滝の上に立ってるって」

 「何……」

 「そう言ってる」



鷹を見つめながら、今度はゾロが答えた。

まわりを囲んでいた村人たちが、それを聞いてざわりとどよめく。




コトはナミの手を離し、一人で森の中へと走って行った。

運動能力も、父親の人ならぬそれを受け継いでいるらしく、あっという間にその姿は見えなくなった。


少年の母親は、「滝…」と呟いて、真っ青な顔で膝から崩れ落ちた。
傍にいた村人が慌ててその体を支える。



 「急げ!」



他の男たちが一斉に滝を目指し、森へ向かって走り始めた。
ゾロとナミも同様に駆け出す。

妖怪であるゾロは当然だが、少女時代を森で過ごしたナミにとっても足場の悪さは問題ではなかった。
前を走っていた男たちを次々と追い越し、木々が茂り岩がむき出しの斜面を駆けて行く。



ゾロとナミはほぼ同時に、ちょうど滝の真ん中あたりの高さの岩場に出てきた。
顔を上げたナミは、悲痛な声を上げる。



 「コト!!!!」
















コトは少年と同じ高さの岩場まで出ていた。

少年の後姿を見つけ、ほっと息を吐いて声をかけようとする。
だが次の瞬間、滝を覗き込んでいた少年が向きを変えようとして、足を滑らせた。



 「!!!」



コトは何も考えず、滝へと身を翻す。








ゾロとナミが少年とコトの姿を確認した瞬間、
少年は足を滑らせ、落下する少年を追ってコトまでも滝へと飛び込んだ。



 「コト!!!!」



ナミの叫びは、滝の轟音にかき消された。

コトは空中で少年に飛びついて、しっかりとその腕で抱きしめた。
2人は一塊になって、滝つぼへとまっさかさまに落ちていく。
この高さで落ちて無事で済む者はいないだろう。




 「ゾロ!!」




ナミがそう叫んだ刹那、ゾロの姿は白虎に変わった。








巨大な獣が岩を足場にして滝を跳び上がっていき、落下する少年とコトをその背中に受けとめた。
コトが自分の背にしがみつくのを感じたゾロは、そのまま重力にまかせて反対側の岩場にすとんと着地した。

前足をかがめて、コトと少年を地面に下ろしたゾロは人の姿に戻る。




少年は気を失ってはいたが、かすり傷ひとつ負っていない。



 「コト、大丈夫か?」

 「うん、ありがとう」



ゾロはコトを引き寄せ、その腕で無事を確かめるように強く抱く。



 「無茶をするな」

 「ごめんなさい、だって……」

 「でも、よくやったな。 お前のおかげであの子は助かった」

 「…うん」



抱き寄せた頭をガシガシと撫でると、コトは照れたように笑った。
滝つぼを挟んだ向かいの岩場では、ナミが心配そうに見つめている。
ゾロが無事を知らせるように片手をあげて軽く振ると、ほっと笑顔を見せた。


ようやく追いついた村人たちも、4人の無事な姿を見つけて揃って安堵の溜息をついた。












山を下り、少年の母親は我が子を泣きながら抱きしめた。
目を覚ました少年も泣きじゃくり、ごめんなさいと母親にしがみつく。


それからしばらくして、少年自身と村人から話を聞いた母親は、ゾロたち3人の所までやってきた。

さっきとはうって変わった態度で、膝をつきコトを抱きしめてありがとうと何度も繰り返す。
ナミはその様子を見ながら、チラリとゾロを見上げる。
視線を感じたゾロはそれに肩をすくめて返し、顎でコトを示した。





コトは、本当に嬉しそうに笑っていた。




『【種。】の続き』
ネ、ネタが………!!
前作でジ・エンドだったもので……!!(笑)
これでも主役はコトですよ。

前作でナミさんの命を繋ぐために自分の力を使ったゾロですが。
…そういうイメージで終わったんですが(イメージかよ)。
今回のゾロは、その分パワーは落ちてますけど元々凄いレベル(?)なので、
まぁいいやん細かいことは(逃げた!)
まわりの人には妖怪だって事は秘密です。

10/10にリクくれた連太郎さん、こんな続きじゃダメでしょか?

2006/12/01 UP


生誕'06/NOVEL/海賊TOP

日付別一覧

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送