「……あのー、相席させてもらってもイイですか…?」
「どうぞ」
ドアを開けた女は遠慮がちにそう言って、中に入った。
念のためにサングラスだけはかけておいたゾロはそう答えて、何となく姿勢を正す。
ゾロの姿を見て、それから女は周りを見渡す。
特に騒ぐことはなく、女はゾロの正面の椅子に腰掛けた。
「あの…、あなたもお一人なんですか?」
「あぁ」
女は少し戸惑っているようだった。
個室で他人と2人きりで相席、しかも相手が男という状況ならそれも当然である。
当然ウソップはその事を話しているだろうし、普通なら断るだろう。
それでも相席を了承したのだから、女はよっぽどこの店で食事がしたかったらしい。
女にメニューを手渡すと、軽く頭を下げて受け取った。
戸惑いを見せたのは最初だけで、既に目はメニューに釘付けになっている。
頬を緩ませて、時折一人でなにやら呟きながら選んでいた。
至近距離で見ても、女の顔は整っていて美しかった。
やはりモデルか何かしているのかもしれない。
「……あんた、そんなにここの料理食いたかったのか?」
「え? えぇ、ずっと前から友達と約束してたんだけど、急に彼氏と会うとか言われてドタキャン」
顔を上げた女は、肩をすくめて笑った。
「あげくの果てにダブル・ブッキングで予約も取れてなくて」
「そりゃ災難だな。友情より男か」
「ずっと外国に行ってて急に帰国してきたらしいから、しょうがないかなとは思うけど。
でもおかげでこんなキレイな個室に入れたし、いっかな」
「まぁ店側もサービスしてくれるんじゃねぇの、詫びに」
「デザートとか付けてくれるかしらね。でもここで食事するの念願だったから!」
ふふっと笑って女はメニューを閉じた。
「あなたはもう注文したの? せっかくだから、一緒に食べない?」
「…あぁ、そうだな。何頼んだかなおれは…」
女が差し出してきたメニューを受け取って、片手でゾロはサングラスを外してテーブルに置いた。
メニューを見ながら、そういえば新作以外はウソップに任せたことを思い出す。
ふと視線を感じて顔を上げると、女はじっとゾロのことを見つめていた。
(しまった)
(騒ぐタイプか、実は?)
ゾロは軽く冷や汗をかいたが、女は声を上げることはなかった。
「もしかして、ロロノア・ゾロ?」
「…あぁ」
「すごい、そっくりさんかと思ったわ」
「一応、本物だ」
ゾロはメニューを脇に置いてオーダーのボタンを押した。
女は相変わらずゾロのことをじっと見つめている。
なんだか居心地が悪くて、ゾロは女の方を見ることができなかった。
(おれの方が素人みてぇじゃねぇか)
心の中で苦笑して、チラリと目を合わせると女はにこりと笑った。
「テレビで見るより目つき悪いわね」
「…ほっとけ」
女はふふっと笑って、テーブルに肘をついて手を組み、そこに顎を乗せた。
「あなたみたいな有名人サンが、こんな簡単に一般人を相席させちゃってイイの?」
「さぁね」
「ナンパなら別だけど」
「………別に、そういうわけじゃ……」
「あら残念」
ゾロはこの世界に入ってからは、女と真面目に付き合ったことはない。
今はファンと名乗る女や一般人と関係を持つ余裕はなく、
同じ世界の人間とは何度かそういう状況になったことはあるが、恋人同士になることはなかった。
お互いが割り切った関係だったのでマスコミに漏れることもなく、
ロロノア・ゾロの女性問題がワイドショーのネタになったことは過去に一度も無い。
(おかげでゲイだと噂されたことはあったが)
それなのに。
今、個室とは言え普通のレストランで、
一般人の女と二人きりで食事をしようとしている。
これを誰かに見られたらどうなるか?
写真でも撮られたらマスコミは喜んで食いついてくるだろう。
ゾロはぼんやりと他人事のように考えて、
だが自分の軽率な行動を後悔することはなかった。
(一目惚れなんてのは、信じねぇタチだったんだがな)
ゾロは椅子に背もたれてフッと笑った。
「……ナンパだったら、ついてくんのか?」
女は一瞬目を丸くして、すぐにクスクスと笑った。
「私、有名人には興味無いの」
「そーかい」
「そ」
あまりにあっさりとした断りの返事に、傷つく前に笑ってしまった。
食事を終えてグラスの水を飲み干した女が、席を立ちそうな雰囲気を出し始めた。
食事中は、いわゆる社交辞令的な無難な会話に終始した。
ゾロの中ではどうにかきっかけを掴もうという魂胆があったのだが、女の方はいたって普通で、
まるで仕事相手と打ち合わせを兼ねた食事をしているかのようだった。
(おれも自意識過剰だったな)
一人考えているうちに、とうとう女は切り出した。
「それじゃ、私はもう帰りますね。今日はありがとう、おかげで楽しく食事できたわ!」
「あ? あ、あぁ……」
ゾロの態度に少し首をかしげつつ、女は精算のために再び従業員を呼ぶボタンを押した。
「………なぁ」
「なぁに?」
ゾロは思い切って口を開いた。
「連絡先、教えてくれよ」
「……やっぱりナンパ?」
「違う」
即答したゾロに女は苦笑した。
だがゾロは至って真面目な顔だった。
「本気のお願いだ」
それを聞いた女は目を丸くして、ぷっと吹き出した。
「お願いって、随分カワイイ言い方ね」
「何でもいい。ダメか?」
「………いいわよ?」
にっこりと微笑んだ女は、バッグから手帳を取り出してサラサラと何かを書いた。
それをびりっと千切り、ゾロに突き出す。
ゾロはニヤリと笑ってそれを受け取った。
「ここ、おれが出すからいいぜ」
「あらそう?さすが天下のロロノア・ゾロ! じゃあお言葉に甘えて」
女はからかうようにそう言って、素直に立ち上がった。
扉へ向かって歩き出したが、足を止めてくるりと振り返る。
「でも、電話に出るとは限らないわよ?」
「出るまでかけるさ」
「ストーカー!」
声を上げて笑った女は、扉に手をかける。
ゾロは渡されたメモに目を落として、そこに電話番号とメールアドレスが書いてあるのを見た。
慌てて顔を上げて、女を呼び止める。
「なぁおい! 名前は?」
「…言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇよ!」
動きを止めた女は、きょとんとした表情を見せた。
それから妖艶とも言える笑顔で、口を開く。
「ナミ、よ」
「……ナミ」
「じゃあ、またね……ゾロ」
女――ナミはそう言って、静かに扉を開けて出て行った。
ナミの消えた扉をじっと見つめながら、ゾロはまた手の中のメモを見る。
目に焼き付けるようにしばらくそれを眺めた後、ジーンズのポケットから携帯を取り出す。
仕事でも、チャンスを逃したことはない。
事務所やマネージャーの腕もあるのだろうが、
ゾロは自身の勘でチャンスを見つけ、作り、使ってきた。
逃すなと、頭の中でサイレンが鳴るのだ。
そうして今の自分がある。
今も同じように、サイレンが鳴っている。
あの女を、逃すな。
このチャンスを、逃すな。
(見つかったらマネージャー、文句言うだろうな)
ゾロは苦笑しながら、携帯のボタンを押した。
ナミが出るまでどれほどかかるか、少し楽しみだった。
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『スターゾロと一般人ナミ、ゾロがナミに一目惚れ』
尻切れと言われようとも終わる!!
とりあえずゾロはスターですよ?(目を逸らしつつ)
10/8にリクくれた方、これで許せ!(偉そう)
2006/11/24 UP
生誕'06/NOVEL/海賊TOP
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