捕。







甲板で2人で酒を酌み交わしていた夜、
ふとナミがグラスに目を落として、それからおれを見て笑った。





 『見て、ゾロ』




ナミは嬉しそうに笑いながら、グラスの中を目で示した。
何事かと思って、傍まで寄ってその中を覗き込む。


ゆらゆらと揺れるその液体の中に、ぽっかりと丸いものが浮かんでいる。




 『捕まえたわ』




ふふっと笑うナミを見て、つられて笑った。












おれ自身の生き方に、あいつが文句を言うことは決してなかった。

否定はせず、だが肯定もせず。

おれが傷を作り血を流すたびに、あいつが同じほどの涙を流していたことには、
あえて気付かないフリをした。


無理に作った笑顔で終わりを告げるあいつの顔は、今でも忘れられない。









 『朝が来なければいいのにね』

 『何でだよ』

 『だって、月が逃げちゃうわ』




グラスの中の月を眺めながら、あの夜ナミはポツリと言った。




夜の空に孤独に浮かぶあの月に、到底手など届きはしない。
グラスの中の白い月は、所詮は幻。
だがナミはそれを愛しそうに見つめていた。


船が波に揺られるたびに、同じようにゆらゆらと動く小さな月。
時が経てばすぐにグラスから零れてしまう、儚い月。

それでもナミは。







なぁナミ、
おれの歩く道に、お前が居ないとでも思ったか?

東の海からこの海まで、おれを、おれたちを導いてきたのは一体誰だ?


『一つ』を形作っていた仲間の内で、互いが『特別』と感じたのはおれだけではないはずだろう?








お前の居ない夜に、あの日と同じ月が浮かぶ。

お前の居ないこの夜に、おれと同じく孤独な月がグラスの中に捕らわれる。


じっと見つめて、中身を海に流し落とす。
カラになったグラスには、もう月の姿はどこにもない。



月を捕らえたがったのはおれではなく、お前。
幻と知りながら、それでもその影を欲した。

捕らえられることを拒絶して、それでもなお離れられなかったのは、おれ。
心の底では、捕らわれることを望んでいる。







見上げると、月の光が降ってくる。

おれが見る月を、あいつもどこかで目にしているのだろうか。
おれが浴びる光を、あいつもどこかで感じているのだろうか。



きっと今夜もどこかで月を捕らえている。

小さな水面に、偽物の月を浮かべては寂しく笑う。






月が太陽の背を追うように、東から西へ。
おれはそうして再びお前に捕らわれる。




夜の風が背中を押す。

月の光がおれを導く。




最後の恋人と呼べる女を迎えに行く、男を乗せた舟はゆっくりと海へと漕ぎ出でる。





『ポルノグラフィティ【月飼い】』でゾロナミ。
10/1にリクくれた友子さん、これでお許しを!

ナミ誕で友子さんから頂いたリク、同じくポルノ『サウダージ』で書いた『深。』…あれのゾロサイド風味です。
『月飼い』が、『サウダージ』に対する友子さん的ゾロソングだそうです。
てかね、前作もナミ誕当日のUPだったんですよ。
今回もゾロ誕当日。
運命かな。

雰囲気を味わっていただこう、という気配がプンプンですが。
どうでしょうか。
通じてますかね。
ちなみに『月飼い』は『メリッサ』に収録されてます。

2006/11/11 UP

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