追。






テーブルの上の携帯が電子音を鳴らして震えている。

ベッドの上転がって広げていた雑誌を脇に寄せて、手を伸ばし携帯を掴む。





 「ゾロ?」

 『ナミ、今ヒマか?』





挨拶も無しに暇かどうか聞くなんて、失礼じゃない?
そう思いながらも、年下の幼馴染にそんな気遣いは今さら求めても無駄だとは分かっている。



 「暇と言えば暇ね」



金曜の夜になのも暇なのもどうかと思うけど、嘘ついたってすぐにバレる。
携帯を耳に当てたまま、またベッドの上に寝そべった。



 『腹減った』



電話の向こうで、ゾロは一言そう言った。

ゾロの両親は年の割にはかなり仲がいい。
大学受験を控えた息子を放って、ふらりと平気で旅行に行ったりするのだ。
ゾロのこの一言だけで、あぁ今回もそれかと容易に想像できた。



 「でもおばさん、簡単なの作って置いてってくれてるでしょ?」

 『昨日食った。1日分しか無かった』

 「・・・まぁ、食べ盛りだしね・・・」

 『あぁ』



一応は3日分の食事を準備して出かけたはずのゾロの母親に少し同情して、ベッドから起き上がる。



 「分かったわよ、作りに行ってあげるから」

 『頼む』



電話を切って、それから自分の家の冷蔵庫を確認するために部屋を出る。

そういえば、ゾロに会うのは久しぶりかもしれない。
私は働き始めたし、ゾロの高校はここから少し距離があるため朝が早い。
昔のように朝が同じ時間になることはないし、帰りの時間だって全然違う。
ゾロは高校でも剣道部に入っているから、日曜だって部活に行っている。

それでもさすがに家が隣同士なのだから、偶然会うことはある。
だがそのときは挨拶するだけで、あまり会話自体はしていない。

思えばこの1年、ゾロと遊んだかしら?

社会人1年目で、私にあまり精神的な余裕がないこともあるし、ゾロだって受験生なのだから仕方ない。
でも、そんなの寂しいわよね。
今度映画でも一緒に行こうかしら?

そんなことを考えつつ、母に確認してから冷蔵庫の中身を漁る。
ビニール袋に詰めて、ゾロの家に向かった。







一応インターホンを押して、でも鍵がかかっていないことを知っているのでそのまま中に入る。
2階のゾロが階段の手すりからひょこっと顔を出した。



 「鍵かけなさいって言ってるでしょ?」

 「盗られるモンも無ぇよ」

 「危ないじゃない」

 「返り討ちにしてやる」

 「もう」



苦笑しながら鍵をかけて、台所に向かった。
ゾロもトントンと階段を降りてくる。




持ってきたエプロンを付けて、手を洗い料理に取り掛かる。



 「すぐ出来る? 腹減って死にそう」

 「冷凍食品でイイならね」

 「イヤダ」

 「じゃあイイコで待ってなさい」

 「へーへー」





ゾロは素直に待っていた。
大人しいのは構わないのだが。

背中にゾロの視線を感じる。



 「・・・あんまり見られるとやりにくいんだけど?」

 「・・・気にすんな」



ゾロはそう言って真後ろに近づいてきた。



右肩のすぐ近くにゾロの気配を感じる。
手元を覗き込むように顔を近づけてきた。
耳のあたりにゾロの息がかかって、一瞬ドキリとする。
横目でチラリと伺うと、思いのほか高い位置にゾロの顔があった。

いつの間にこんなに大きく?
高校に入ったころは、私と同じくらいだったのに。

目を手元に戻し、顔が熱くなるのを抑えるために料理に集中した。









食事を終えて、ゾロは礼儀正しく手を合わせ「ごちそうさま」と言った。
皿を重ねてシンクまで持ってきてくれる。



 「あ、そーだゾロ。今度映画行かない?」

 「映画?」

 「そ。最近2人で遊んでないでしょ? 映画じゃなくてもいいけど」



皿を洗いながらゾロにそう告げると、沈黙が返ってきた。



 「・・・なに、イヤなの? 勉強忙しい?」

 「いや、そうじゃなくて」

 「何よ」



泡を流す水を止め、眉を寄せて振り返ると、
ゾロは口端を上げてこちらを見ていた。



 「知り合いに見られたら誤解されんな、と思って」

 「誤解?」

 「彼女って」

 「・・・ふーん、別にイイんじゃない?」



今までのようにからかうつもりで、わざと微笑んでそう言ってやった。
だがゾロは・・・昔のように顔を赤くしたり動揺したりしなかった。




 「ナミ」

 「・・・なぁに?」



真面目な顔とその声色に、一瞬戸惑う。



 「お前さ、おれのこと幾つだと思ってんの?」

 「え?」

 「おれもう18だぜ」



ゾロが真正面に来て、思わず背を反らすように後手を付いてシンクによりかかる。
後が無い私を両腕で挟むように、ゾロもシンクに手を置く。



 「・・・近いわよ」

 「近いな」



目の前のゾロはニヤリと笑う。



 「映画、来週行こうな」



そう言って、シンクから手を離す間際、私の腕をするりと撫でた。







いつの間に。


いつの間に、

追いつかれるどころか、追い越されちゃったのかしら?




『【戯。】の続き』

あれから3年後くらいで、ゾロがナミさんの背ぇ抜かしててナミさんどっきり、みたいな。
らしいです(笑)。

9/30にリクくれたカノコさん、最後尻切れだけど許しておくれ。

2006/11/02 UP

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