戯。
6つ年上の幼馴染を意識し始めたのはいつからだったか。
隣にいるのが当たり前のような相手だったのに、
気付いたときには彼女はもう『女』で、
気付いたときには人のモノになっていた。
美人でスタイルがよくて、太陽のように笑う彼女。
彼女にとっておれはただの年下の幼馴染。
だがそれでも、その一番傍にいることを許可された男は、おれだけだ。
どんな男と付き合っても、彼女の一番近くにいることのできる存在。
それを幸と思うか不幸と思うか。
好意を寄せる女から恋の相談なんか受けた日にゃ、布団にもぐりこんで朝まで寝ときたくなる。
だが、長く持っても半年。
彼女はすぐに男と別れてしまう。
真実は謎だが、大方その奔放な性格に男がついていけなくなった、というところだろう。
それでも彼女は、いつも本気だった。
おれに相談するときも真面目な顔で、別れたときには泣きついてくる。
だからおれも、本気で応えて本気で慰めてやる。
虚しかろうとも、それがおれの立場だったから。
付き合っている男がいるときでもいないときでも、
おれと彼女はよく2人で遊びに行った。
相手の男がそれをどう思っていたのかは、おれの知ったことじゃない。
おれは彼女と一緒に居られるだけで満足だった。
夏の暑い午後は、海に行った。
短いスカートから惜しげもなく白い素足をさらけ出して、彼女は水際を走る。
『日に焼ける』だの『汗で化粧が落ちる』だの、年頃の女なら心配することもあるだろうに、
それをカケラも気にせずに、一人ではしゃぎながら水をはねあげていく。
時折振り返っておれに笑いかける。
沈みかけた太陽を浴びて、おれの前を走る彼女。
その光に手を伸ばそうと思うのに、おれはいつも笑顔だけを返す。
『ただの幼馴染』でなくなってしまったら、
彼女の傍にいられない気がしたからだ。
「ゾロ、これ何?」
「・・・・っっあーーー、・・・同級生に・・・貰った」
人の鞄から勝手に白い封筒を取り出して、ナミはそれをヒラヒラと振る。
夏休みの課題をやっつけていたところに、いつものようにナミはおれの部屋にやってきた。
ナミが来たついでに教えてもらおうと思ったのだが、『昔のことは忘れた』と面倒がって手伝ってはくれなかった。
仕方なく一人、数学の問題集と向き合っていた。
ナミはその様子をぼんやり見ていたり、部屋の中を漁ってみたり。
これもまた、おれたち2人にはよく見られる光景なのだ。
ナミは封筒の裏表をジロジロと見て、興味を失くしたのか鞄に戻した。
「でも、断るんでしょ?」
「・・・なんで、そう思う?」
当然断るつもりだった。
こういう類の手紙や告白はそれなりの経験があるが、受けたことはない。
ナミとどうこうなる、という見込みがあるわけではないのに。
だがナミから頭ごなしに『断る』と予想されて、少しムカっとした。
自分が他の女と付き合ったりしたら、ナミはどんな顔をするだろう。
それを考えたことも無いでは無いが、
平然とされたらちょっとショックを受けるかもしれないので、怖くて試せない。
「何でって、あんたはそうでしょ?」
ナミはにっこりと笑ってそう言った。
こっちの想いに気付いていながら、それでもナミはおれへの態度を変えはしない。
受け入れるでもなく、突き放すでもなく。
自分の事を好いている、それを当然のモノと見ている。
魔女。
心の中で呟いた。
「何かおなか空かない?」
「・・・下にケーキあんぞ、おふくろが買ってきた」
「本当? じゃあいただこうv」
ナミはそう言って立ち上がり、パタパタと階下に向かう。
それからすぐに、麦茶の入ったコップとケーキをそのまま手づかみで持って戻ってきた。
「皿に移せよ」
「すぐ食べるからいいじゃない」
「しかも1個だけかよ。おれのは?」
「あれ、勉強中なのにいるの?」
「・・・・・」
わざとらしくそう言うナミを眉を寄せて軽く睨んでから、問題集に向き直る。
ナミは満足気な顔で元の場所に座り、いただきます、と言ってケーキにかぶりつく。
ラズベリーのタルト。
表面に赤い実がやたら多く乗っている。
ナミのピンク色の唇が開いて、白い歯と赤い舌がチラリと見えた。
一口かじって、唇についたクリームをペロリと舐める。
ついつい横目でその様子を見ていると、それに気付いたナミがその実をひとつ取った。
「ほら、ゾロ」
そう言って、指でつまんだ実をおれの口元に持ってくる。
反射的に開けた口に、クリームのついた赤い実が放り込まれる。
「美味しいでしょ?」
「・・・・・・・・・あぁ・・・」
離れる間際、一瞬だけ、ナミの指が唇に触れた。
ほんの一瞬、それだけなのに。
確かにナミの味を感じた。
甘酸っぱいであろうその実を、ロクに噛まずにゴクリと飲み込む。
顔の筋肉が固まって動かない。
それを見たナミは妙に楽しそうな顔で笑って、またひとつ実をつまんだ。
「特別にもう一つ」
そう呟いてナミはその実を、今度は自分の口の中に入れた。
そして。
上半身を寄せて。
ゆっくりと顔を近づけて。
それから。
再び口の中に、小さな実が転がる。
唇が離れて、至近距離でナミはおれの目を覗き込む。
「あんたがいるから、私は走っていられるのよ?」
「・・・・・・・・どういう、意味だ」
「あんたが追いかけてきてくれるから」
「・・・・・?」
「だから早く、追いついてね」
ふふ、と妖艶な笑みを見せて、ナミは離れていった。
目の前がチカチカする。
ナミはおれに今何をした?
ナミはおれに今何と言った?
まるで何かのゲームを楽しんでいるような、ナミの笑顔。
手を伸ばせば触れられる。
そんな距離を、お前は楽しんでる。
手を伸ばせと。
手を出すなと。
おれの感情がこぼれるのを、お前は楽しんでるのか?
口の中のラズベリーがなくなるまで、あと少し。
今度の実は、やけに甘い。
2006/08/24 UP
『スピッツの【ラズベリー】でゾロナミ』
6/25にリクくれたカノコさま、ゴメンこんなんで・・・・。
イメージぶち壊してないか心配です・・・・。
・・・この歌、難しぃーー!!!
と、とりあえず小悪魔ナミさんで・・・・・。
追記(2006/08/25)
またまたカノコさんからイラスト頂いた!
きゃっほうきゃっほう(←興奮)!!
素敵イラストはコチラ→■
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