「・・・何、だって?」



ゾロは一瞬、ナミが何を言ったのか理解できずに固まった。



 「私を、殺して」




ナミはもう一度、ゾロの目を見ながらはっきりと言った。
ナミの細い肩を握るゾロの手に、力がこもる。




 「村の人間の半分は狼たちに殺された。
  畑も家畜も全滅、備蓄の食糧もメチャクチャにされた」



淡々とした口調でナミは語る。
ゾロから目をそらすことはなかった。



 「このままでは村は・・・村人は立ち直れない。私は責任を取らないといけないの」

 「それがどうしてお前を殺すことになるんだ」



訳が分からず、ゾロはナミの肩を軽く揺する。
ナミは目を閉じて、小さく息を吐いてから口を開いた。



 「これは予言なの」

 「予言・・・?」

 「生まれたときに授かった予言。
  私は村に繁栄をもたらし、そして破滅を呼ぶ。私の命でしか村は救えない」

 「ヤツらはもう去った、予言など関係ないだろ?」

 「村の人にはそれが唯一の救いになるのよ。
  平穏が戻ったことを、私が証明してあげないといけないのよ」

 「ナミ」

 「・・・あなたの手で、殺してほしいの」

 「やめろ、ナミ」

 「巫女としての私の仕事よ」



ゾロはナミを抱き寄せた。
これ以上何も言わないように、強く抱く。
ナミもゾロの背にしっかりと腕をまわし、その胸にしがみつく。



 「私の死体をみんなが見つけるようにしてね」

 「死なせねぇよ・・・」

 「いいえ、私は死ぬの。そのために生まれてきたのよ」

 「そんな訳はない」

 「ゾロ、顔を見せて」



ナミの肩に顔を押し付けて抱きしめていたゾロは、促されるように顔をゆっくりと上げる。
ゾロの頬に両手を添え、ナミはふわりと笑った。



 「大好きよ、ゾロ」

 「ナミ」

 「だから、ゾロの手で死にたいの」

 「ナミ・・・」

 「できるでしょう?」

















村の人間が、姿の見えなくなったナミを森まで探しに来たとき、
その人は着物を真っ赤に染めていた。
仰向けに倒れたその首からは赤い血が溢れ出し、もはや助かるようには見えなかった。


村人たちは驚きと恐怖でその足を止める。



 「・・・な、何だ、あの獣は・・・?」

 「真っ白だ・・・」



森の手前で倒れている人影の傍らには、大きな白い虎がいた。
月の光を浴びて、白く美しい体毛がキラキラと輝いていた。
白虎は赤い2つの目を村人に向ける。
まるで何かを守っているように、凛としたその姿を村人に見せ付けていた。
神々しいとまで思えるその獣に、村人は目を奪われしばし動けなかった。



 「巫女さま!?」



白虎の足元に横たわっているナミの姿に気付いた一人の村人が、甲高い叫び声をあげた。

ナミは巫女としての職務を行うときは正装だが、普段は普通の木綿の着物を着ている。
今、血を流しながらピクリとも動かないナミは、白い巫女装束を身に纏っていた。
その白い布も、ナミの血で赤く染まっている。


 「・・・・・・白い獣・・・まさか、守り神か・・・?」

 「じゃあ巫女さまは・・・生贄に・・・!?」



戸惑いの表情を浮かべて、村人は互いに顔を見合わせながら目の前の光景をただ見ていた。



白虎はナミの傍から離れず、ただじっと村人たちを見つめている。

しばらくして、喉を低く鳴らしナミに頭を寄せて、その体を器用に背中に担いだ。


あ・・・と一瞬足を踏み出そうとした村人を一瞥すると、白虎は身を翻して森の中に消えた。





 「巫女さま・・・」

 「ありがたや、ありがたや・・・・」




村人たちは泣きながら、森に向かって手を合わせた。
















 「ナミ・・・」

 「・・・ゾ、ロ」



森の奥、いつもの石の上に飛び乗り、ナミを横たわらせたゾロは白虎の姿から人間の姿になる。
ナミの手を握り、その頬に触れる。

かすかに浅い息をしているナミは、うっすらと目を開けた。
喉元から溢れる血は、いまだナミの着物を赤く染め続けている。



 「ナミ」

 「りが・・・と・・・・」



そう言ってナミは、笑った。

目を閉じて動かなくなったナミの頬を指で撫で、ゾロはそっと口付けた。










 「お前、本気か?」

 「・・・何が」



木の影から現れたジャブラは、ゆっくりとゾロに近づき声をかけた。
ゾロは振り返ることもなく、ナミの手を握ったままその傍らに座っていた。



 「力を失ってまで、その女と居たいのか」

 「もう必要のない力だ。・・・こいつが、人間だからな」

 「たかが50年程度で死ぬよう弱いモンにわざわざなるなんて、考えらんねぇよ」

 「うるせぇ、さっさと此処から消えねぇと今度こそ喉食い千切るぞ」



罪悪感のカケラも見せないジャブラを、顔だけ振り返ったゾロは赤い目で睨む。




 「お前は妖怪なんだぜ」

 「・・・」

 「おれと生きろよ」




どこか寂しそうなジャブラの目を、じっと見つめた。
それから、再びナミに視線を戻す。
手を強く握りなおし、その髪を優しく撫でる。





 「それでもおれは、人間が好きなんだよ」





人間が。


ナミが。





ジャブラはゾロの背中をじっと見つめ、そのまま何も言わず森から消えた。











月日が流れ。

あの森から遠く離れたある村で、数ヶ月前に越してきた一組の人間の夫婦に子供が生まれた。


その子供は、父親に似た深い森のような濃緑の色の髪を持っていた。




2006/08/28 UP

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『平安時代パラレル・妖怪ゾロと巫女ナミ、結婚して子供も?』
6/27にリクくれた方、・・・もう本当ごめんなさいとしか・・・・。

・・・最後力尽きた?とか聞かないソコ!!
手抜いた?とか気付いても言わないで!!
どこが平安時代?は禁句です!!(爆)
全部本人が一番分かってるから・・・!!(泣)

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