住。
数ヶ月前までは、痴漢のせいで憂鬱だった電車の中。
ある日を境に、その車内は私の大事な時間を過ごす場所になった。
そして今。
大事な時間を共に過ごす相手は、私の部屋で寝こけている。
「ゾロ、いつまで寝てんのよ!」
「あぁ・・・・? 今日も泊まる・・・・・・」
「こら寝るな!!! シャツの替えがもう無いんだから!!」
「何でだよ・・・」
「クリーニング出せなかったって私、言ったでしょ? だから今日は家に帰るって夕方・・・・」
「あーー、そうか・・・・・・面倒くせぇな・・・昨日と同じでいいじゃねぇか」
「ダメよみっともない!!」
ベッドに寝転んだまま動こうとしないゾロを揺すりながら、何とか体を起こさせた。
ゾロは大きな欠伸をしながら猫のように目をこすり、渋々帰り支度を始める。
いわゆる『運命の出会い』をしてから、私はゾロに猛烈にアプローチを開始した。
『若くて男前な上司』に他の女子社員たちは色めきだっていたが、その波を押しのけて見事勝利。
ゾロが赴任してきてから1ヶ月後、私はめでたくゾロの恋人という地位を手に入れた。
まるで高校生のように朝の電車で待ち合わせる。
私の家は会社とゾロの家の間にあるので、ゾロが乗る電車に合わせて私も乗り込む。
満員電車の人垣を押しのけて、ゾロが作ってくれたスペースに滑り込む。
会社の人間には私たちの関係は秘密なので誰かに見られたらヤバイのだが、
車内のその数十分が、私たちにとって大事な1日の始まりだった。
それから数ヶ月。
ゾロはちょくちょく私の家に泊まるようになった。
最初は夜に私の家に来ても、終電までには家に戻っていたのだが、
一度終電を逃して泊まってしまうと、その後もズルズルとそれが続いてしまう。
この日は既に、私の家から出社するという流れが5日続いていた。
部屋の中にはゾロの私物も増えてきた。
食器や歯ブラシはもちろん、着替えや私服までクローゼットの一部分を占めてきている。
もちろんそれはそれで嬉しいのだが、何だか微妙ではある。
何故なら、私はそれなりに『お年頃』なのだ。
「終電、まだあるか?」
「え? あ、うん、あと2本くらいはあるよ」
ぼんやりとしていると、着替え終わったゾロが鞄を持って玄関に向かっていた。
「明日はクリーニング行っとくから」
「あぁ、頼む」
「気をつけてね」
「あぁ・・・・・・なぁナミ」
「ん?」
靴を履いてドアノブに手をかけたゾロは、一瞬動きを止めて振り返った。
「何?」
「一緒に住んじまおうか?」
「・・・・・・へ?」
あっさりとゾロが言うので、思わず間抜けな返事をしてしまった。
「おれンちよりココのが会社に近ぇし、2人でも別に狭くはないしな」
「そ、そうだけど、でも・・・・」
「何だよ、嫌か?」
「い、嫌じゃない、けど・・・・」
「じゃあいいじゃねぇか」
「・・・・・・」
ゾロは何か問題あるか?と言わんばかりの顔を寄越してくる。
何を考えてるのか。
私たちは恋人同士で。
私はそろそろ結婚してもおかしくはない年齢で。
というかそういうのを考えちゃう状況で。
そういう相手に向かって、一緒に住もう?
私は結婚願望が強いわけではないけど、
でもやっぱりいつかは結婚して子供を産みたいとは思う。
その相手がゾロであればいいと思っているけど、
ゾロがどう考えているのかはまだ分からない。
実際、私たちはまだ付き合い始めて1年も経っていないのだ。
ゾロの『一緒に住もう』発言が、単純に通勤の手間を省くためだけなのか、
私との結婚を視野に入れてのことなのか、
どうにも判断ができずに言葉に詰まってしまう。
「・・・・一緒に住むって、その、つまり一緒に住むってことよね?」
「何言ってんだお前、そのまんまだろ」
「あのー、2人で、この部屋に住むってことよね?」
「あぁ。まぁ部屋は引っ越してもいいかもな。そのうちガキでも出来たらさすがにココじゃムリだしな」
「・・・・・へ?」
またもやゾロの爆弾投下に、さっきよりさらに間抜けな声で返事をする。
「ここも広ぇけど、家族用じゃねぇだろ?」
「いや、そういう問題じゃなくて、子供?」
「何だ、お前子供産まない主義か?」
「いや子供は欲しいわよ・・・、てかそうじゃなくて!」
「何だよ」
私が何故動揺しているのか分からないらしいゾロは首をかしげている。
まったく、仕事はデキるのに何でプライベートじゃこんなに言葉が足りないの、この男は。
「ゾロ、なんか色々すっ飛ばしてない?」
「色々って」
「だから、子供とかよりその前に!」
「あぁ・・・・?」
ゾロは眉間に皺を寄せて考え込む。
そんな難しい質問してないわよ、ちょっと。
「お前、まさか・・・・・」
「な、なに」
「おれと結婚する気、ねぇのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
思わず脱力して座り込んでしまった。
この男、仕事はデキるのよ、仕事は・・・・・・。
「おいナミ」
「そもそもゾロから結婚の話なんて聞いたことないのよ・・・・」
溜息をつきながらそう呟いて顔を上げると、ゾロは心底驚いた顔をしていた。
むしろそれにこっちが驚いた。
「言ってなかったか?」
「聞いてないわよ!!」
「おれはお前と結婚する気でいたんだが・・・・」
「・・・・聞いてないわよーー・・・・・」
嬉しいやら呆れるやらで、泣きそうになった。
何なのこれってプロポーズになっちゃうの?
ものすごく大事なことをものすごい勢いで自己完結していたらしい男は、
ガリガリと頭をかきながら私の前にしゃがみこむ。
「今すぐじゃねぇけど、結婚しようぜナミ」
「・・・・・・そんなあっさり・・・・・・」
深夜に玄関にお互いしゃがみこんだ状態で、
なんていうか、色々と思い描いていたプロポーズのシーンとはかなりかけ離れてるけど、
それでもやっぱり嬉しい・・・かもしれない。
「泣いたか?」
「・・・呆れて泣けてきたのよ・・・」
ははっと笑って、ゾロは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「とりあえずナミ」
「・・・なに」
「終電、間に合わねぇ」
「・・・・・・・・・明日の朝、アイロンかけたげるわ・・・・」
「悪ぃな」
目が合ってお互い笑って、それからキスをした。
2006/07/06 UP
『【遭。】のその後、恋人同士になった2人』
6/1にリクくれた方、続きというか何というか・・・
いやごめんなさい(笑)。
会社の風景から逃げたら、プロポーズしてしまいました(いきなりすぎ)。
これねー、『遭。』のときも結構苦労したんだよー。
む、むずかしい・・・・・。
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