銀色夏生 「散リユク夕ベ」 (角川文庫)
心の中をのぞきこむ
あなたのしぐさ
若草色のおとといが
あなたと私を包みこむ
未来のことがわからない
あなたと私がどうなるのかも
私の心に光があって
それがあなたを信じると言う
疑うことが何もない
それゆえいっそう見えない未来
楽しいことも悲しいことも
ふたりにはただのひとつの未来
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飛行船が見えた
木の間をスッと横に走った
音がしないから驚くよね
必要とされなかったことで
うけた傷は
他の誰かに必要とされることでしか
いやせないのではないだろうか
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自由が恋しくて
窓から外を見ていた
自由が恋しくて
移動中も あたたかい部屋の中でもずっと
にがい思いをのみこんでいた
自由がなければダメだ
どんな幸福もありえない
愛情にとらえられても
自由が恋しくて
夜中にそっと外へ出た
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淡い思い出として
あの人の心に残ればいい
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私はあの人を好きだけど
あの人が私を好きにならないとしたら
仕方ない
私はあの人に何を求めているのか
あの人のどこにひかれているのか
私にもはっきりとはわからない
私は
目にみえない確かにこれと説明できない
何か神秘的で真面目な力を信じているけど
その力を私たちが認めてくれないかぎり
あの人は私を好きにならないだろう
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八月の草原に五月の風
笑顔の君に 憂いの瞳
雨あがりの一番星よ
遥かなる明日へと続く今日の日よ
とてもやさしく
愛することのむずかしさ
そして素敵さ
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苦しく甘くたちのぼる
新緑のかげろう
ゆらゆらととりかこまれて
僕は道に迷いそうだ
抱きしめられることの快感に身をゆだね
息もできない時
君を思い出すことで
ふみとどまる
かろうじて
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苦しさを伝えようとしても
夜は暗く
夜は深く
夜は静かで
あなたは遠い
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人々が悪くなっていくといううわさ
世の中が悪くなっていくといううわさ
僕は
そういうことは
恐れない
暗い展望 すさんだ未来
僕は
そういうことは
恐れない
それらは
理由があっての結果だから
そんなことなら
こわくない
こわいのはもっと別のこと
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「もう顔も思い出せない」
春風が吹く
川のほとり
もう顔も
思い出せない
あの人の
思い出は
吹きとばされて
川面に散った
もう顔も
思い出せない
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あの人は何かを決意した人がみせるような
遠いまなざしを持っている
何かを決意した人
しかも ずっと昔に
私はあの人のそんな目つきを見て
ひそかにふるえ
歓喜する
それを大事にしていたくて
私は
あの目を心の奥に抱きとめ
近づかないようにつとめる
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矢のようにすぎていく
油断するとあっという間
こんなに大切なことが
知らないうちにどんどん
流されていくとは知らなかった
気をひきしめなくては
油断したまま終りがきそう
誰かを思い
せつなくなる時
その気持ちを大事にしよう
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あなたとは
いつかここまで
と決めた地点があり
そこへ私はきてしまった
のぞむところまでこれたので
そのことはうれしい
でも
そこまできた私が思うだろうことを
想像するのをおこたっていた
今 ここまできた私には
また もうすこし先ののぞみができてしまっていて
ここであきらめる という決意は
私をひどくつらくさせる
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むなしさにおしつぶされそうになる時
何もかもに望みがもてずあきらめたくなる時
強い気持ちのあとには弱気な自分が必ずでてくる
強さと弱さは交互にでてきて
僕を混乱させるよ
いつも
君さえいればと言える
君に出会えたら
生きるはげみになるだろうか
とにかく今は
今の自分でやってくしかない
悲しくても笑おうよ
苦しくても笑おうよ
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僕たちは大人だから
どっちにころぶこともできる
感情はコントロールできなくても
行動はできる
我慢するのは意志の力だ
望みをかなえるのは行動力だ
僕たちは大人だから
僕たちで決めよう
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似ている感じが好きだった
たぶん似ていると思った
その孤立感
遠くのものへといつもつながる思い
人に対する態度
ものの見方
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私は苦しい恋をしています
まるで長い旅のような
旅の途中でおこして下さい
さくらの花が散る前に
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二人をはばむ
二人の間に
横たわる客観性
つめたくしても
愛はあふれる
傷つくのが同じなら
どうせなら素直でいたい
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「散リユク夕ベ」
百の思惑
千のため息
窓のむこうは
散りゆく夕べ
あなたに逢いたい
逢いたいと思う
けれど逢えない
散りゆく夕べ
想う人は誰ですか
それほどに
胸が痛むほど
百の後悔
千の希望
窓もなくなる
散りゆく夕べ
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せつなさばかり大切にして
いけなかった私たち
強さの前にたじろぐものだけ
追いかけていた私たち
幼かった私たち
澄みきったものだけが
美しいのではないのだと
今ならわかるのに
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花のように気まぐれだけど
ほほえみを
いつでも
チラッと
のぞかせるかわいい人
進んでいく道の友達になろう
友達になれてうれしい
恋よりもむずかしい出会いだった
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レンゲの中
大好きな君
僕と出会って
うれしいかい
レンゲの海
大好きな君
強いこころで
二人でいよう
レンゲの空
大好きな君
受けとめよう
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