銀色夏生  「そしてまた 波音」  (角川文庫)

 

人はなぜ最初のいいところを

忘れてしまうのだろう

また

人はなぜ

最初の頃のように

ふるまわなくなるのだろう

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間違ったことをしている時

いろんなところで

警告のベルが鳴る

 

ベルの音は

最初はかすかで遠く

やがて大きくなっていく

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わかったことは私たちが

どうしても何か最後のところで近づけないこと

 

となりにいても

絶望的に遠い

この距離は何だろう

それをあきらかにすることが

二人を会えなくさせる気がして

はっきりとさせないまま 二人してここにいる

 

ひかれあっていても

近づけない二人

と呼ぼう

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忘れないように

息を止めて

忘れないように

君を見た

 

この時と

今のこと

 

波と海

地球は青い真珠で

白く雲のマーブル模様

 

時間を忘れて

時間を失くして

僕たちが こうしていること

いたこと

 

あれはただそれだけで

そのものだった

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かすかに

かすかに

胸にしおれた

恋だった

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誰にもなんにも知らせないで

通りすぎるのを待つから

 

じっとこうしていれば

いつかきっと

大丈夫になるから

 

私のことをかわいそうと

人にも 私にも

言わないで

 

私はただ うけとめて

ただ じっとしてるから

 

やむにやまれぬせっぱつまった

はげしい思いでみつめているだけだから

このままにさせていて

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だれだって間違うし

僕たちは失敗ばかりだ

それでも

どんなに未熟でも人生の途中でも

確かに真実に触れたと思うことはあった

 

無駄な出会いはないのだから

ありがとうと

今は言えます

心から

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帰らない

もうどこにも

 

帰らなくてもいいでしょう

 

うんと言って

 

言ってください

 

あなたがいれば

私はいいのだから

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みんなと一緒じゃないと

もうあなたと会うこともできなくなった

私をさけて

楽しそうにしているあなた

思いはつのるけど

あきらめるしかないのかと思う

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走りぬけ

すぎ去る景色に心が痛む

どんなこともを思い出しても

こわれたハートだ

悲しい心だ

 

思い出すよ

思い出は限りなくあざやかに

迫りくる波と波で

受けとめる力のない僕は

打ちのめされて体ごとゆさぶられる

 

美しい波しぶきに

あっちこっちに

流されて

連れていかれるまま

身をゆだねる

 

今はおぼれてもいいでしょう?

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大丈夫と

言ってくれる人がほしかったのね

 

きっとずいぶん長いこと

つらかったね

 

もう大丈夫だよ

私がいるから

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そして希望の朝

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「草があんなに風になびいてる」

もう思い出話は よすね

楽しくないでしょ

あなたは もう私の中に 何もみつけられないんだね

私はまるで 知らない人だね

 

恋はさめる時 速いから

逃げ足のはやい生き物みたいだ

かげも形もないのは

どいいうわけ

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人はいつまで夢をみていられるだろう

人はいつまで何かをはげみにするのだろう

 

時々未来の暗闇をみて

そこしれない怖さを感じる

 

そんな時には

ふりかえってみる

過去はどうにか生きてきた

今までのようにやっていこう

同じようにやってみようと

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言葉という路地を通って

広場へ出る

 

ここでは

僕たちは自由だ

僕たちがいなくなるほど

 

僕たちは今

本当に仲がよくて 一緒だ

 

時がすぎると

人の心は変わるのかな

 

変わるということは どういうことだろう

 

そんなことを考えるヒマはない

時はすぎている

たって今でも

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言葉という路地を通って

広場へ出た

 

そこでは

僕たちは自由だった

僕たちがいなくなるほど

 

僕たちはあの頃

本当に仲がよくて 一緒だった

 

時がすぎると

人の心は変わるのかもしれない

 

変わるということは どういうことだろう

 

そんなことを考えていると

ますます速く時は過ぎていく

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自分がダメになっていく感じがして

恋をしようとしても

みんなのようにはできなかった

 

ひとりでずっと

すみにかくれていたから

話の流れもわからなくなり

涙みたいな星を見ていた

 

すると時々 光ったりして

かわいい者たちが

笑わせてくれた

 

今みたいに

平気になれたのは

もっとずっと後だよ

僕も同じだった

だから

君もきっと大丈夫

 

ぼんやりと じっとして

イヤなことをしないで

黙ってたらいいよ

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時間をください

力をください

気持ちをください

終わりのない歌をください

 

僕を包んで

抱きしめたまま歩いてくれるものをください

何にもまどわされないように

強く思いつめたまま生きていけるように

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生きるということは

自分らしく生きるということは

人に期待に応えるのではなく

自分の思いに忠実に生きること

 

自分らしくい生きることは

人のために生きることとは違う

時には人を泣かすこともある

 

さあ でもそこで

深く問われる

何のために生きるのか

どっちをとるのか

泣かされた人はまた

何のために生きてきたのか

 

人がその人の道を行くことは

思った以上に

他の人を遠ざける

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水しぶきのたたないクロールのように

君は僕の目の前と人生を横切っていった

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誰も敵ではないんだよ

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君に僕は言ってしまう。

 

そして君の手をつかんでしまう。

どうしても、

星のように。

 

あとはもう

流れにまかせよう

 

流れるままにまかせよう

という提案

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