銀色夏生   「これもすべて同じ一日」  (角川文庫)

 

「空はマホウの雲の上」

何があなたを抱きしめたの

夢うつつの日々

秋の夕暮れの恋人となりはてた

あなたは

たき火の煙のまなざしを

宙にさまよわせている

 

私は と言えば

困りはてた一本の木

 

なにもかもを超えてゆく

勇気をください

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降ってくるものは つめたい

降ってくるものは おかしい

降ってくるものは かなしい

降ってくるものは やさしい

 

降ってくるものは あなた

 

手のひら 広げるのは わたし

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「青い実の瞳」

立ちすくんで微笑んだ

景色が急に止まったらしい

両手いっぱいかかえた青い実

落とさないでね

落とさないでね

 

手招きで森の中

朝露が また光った

振り向けば よかったんだ

だまされてしまった

 

笑い声がこだまして

僕たちは驚く

花びらにうずもれて

死んだふり死んだふり

 

誘われて水の中

流れまですきとおる

気がつけば よかったんだ

だまされてしまった

 

ブルーベリーの瞳

そこから出ておいで

ほっとけば よかったんだ

だまされてしまった

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ただ黙ってみつめあうことの奇跡

それから という嘘

もう二度と迷わないという約束

それなら という嘘

けしてあなたを忘れないという確信

さよならという約束

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「キスした歌を氷の空に」

キスした歌を氷の空に

僕たちは くるっと回って

ごきげんさ

あの人たちを

若者をいじめるあの人たちを

ぎゃふんと言わせよう

まともな人はほんのぽっちり

 

心がハッとするような

すばらしい子供たちなら

死ぬほど抱きしめて

君を大事に思うということを

はっきり伝えよう

 

歩きはじめた未来は

どんなことがあっても

ふみつけにはできまい

 

僕たちはやってける

 

とりのこされても

銀河の中なら

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「これは 別れ という恋」

白い紙の手をふるあなた

バラをあげます ふようの花を

青むらさきに透けるよな別れの花をあげましょう

 

かそけき顔がふりかえる

虹の彼方の欄干に

 

思いとどまる人影が

ひとつふたつと点る頃

わたしにあてた涙の紙が

コトリとドアに おちました

窓から呼んでも

呼んでも夢は

夢は夢よと

にげるだけ

 

さやうなら、あなた

 

いとしい人。

つたのからまる恋でした。

夜明けの空に青白く夢のちらばる恋でした。

 

さやうなら、あなた。

かなしいひと。

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「砂漠の音色」

僕たちはいつも

2つのものにへだてられている

 

ひとつは君のかなしみに

ひとつは僕の無関心

 

あの人は

ぼくの右や左でなく

ぼくの目の前で出会った人なんだ

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「水中深くのもみじ」

あなたのためになら

私にウソをついてもいいよ

私はいつだって こうやってきたんだから

何かのためにかなしむのなら

誰かのためにかなしむのなら

もう何もかも まぶしくなっても

かまわないと思ってる

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「大地の木」

見上げると枝の向こうに

青空がみえた

空は無数に千切れてる

心のしずくはドロップのようね

心の壁は自由ね

あなたの恋も

つないでおけない

 

「水辺の木」

ひたひたとおしよせる

哀しみの雨雲

もうすぐにこの街は水びたし

思い出の中にだけ

やさしいあなたがいる

思い出の中にだけ

伝えなかった言葉がある

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あの頃の私は 泣くことを知らない

シャボンのように

空の向こうには また同じ空があると

信じていた

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あの人は行ってしまった

あの人は行ってしまった

遠い地平線の向こうへ

さよならも言わずに

 

あの人の住んだ街を

ふり返っても

今は もう 何もみえない

愛した予感さえ今は

むなしく通りすぎるだけ

 

あの人は行ってしまった

あの人は行ってしまった

この青い空の向こうへ

悲しい思い出だけをのこして

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「気がかりの森」

気がかりの窓辺を

たどって歩いた

折りからの嵐に

架空の風

 

気がかりのベールを

あなたはどうして

抱きしめるかわりに

遠くで叫ぶの

 

うつむいて返事に 困った僕を

黄昏の影から 笑って見てる

 

夏の日の坂道で迷った僕を

突然の悲しみが襲ったように

 

むこうから飛びこんだ蝶をみつめて

わけもない悲しみに 胸をつかれた

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「月夜のうつむき」

言葉はたちまち 凍るので

ああ いままさに という時だけ 用意します

だれかをお茶に誘ったら

あれこれ角度を与えます

それよりも急な月の宵

菜の花ばたけでころんだり

いじめられたくて だだまでこねて

困らせた

 

それは 愛と いうものですか

 

覚悟はすでにできてます

静かでパリンとした湖にすべりこむ覚悟

すずしい風が吹いてきて

あなたをさらっていかないと

だれが誓ってくれるでしょう

 

ああ

 

今なら邪魔が みえません

遠くへだてた二人の間を 横切るものはありません

 

これが 愛と いうものですね

 

これが 愛と いうものですね

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「草穂の小径」

かるか遠くをながめやる

小高き丘の中腹で

真白き花の紫と

うすくれないの冬の波

 

麦わら帽子を手でおさへ

強き風よと息をとむ

あなたは僕をも愛さない

心を染める淋しさよ

 

ひとつひとつを重ねては

やがてきわめた丘の上

葉裏 光に舞うごとく

忘れがたみの彼の日かな

 

草穂の小径にたわむれて

抱きとむ小川のせつな橋

すずろう鳥の羽音にて

我にかえりし

夕まぐれ

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