銀色夏生 「すみわたる夜空のような」 (角川文庫)
「泡になる」
その想いは泡になる
泡になって
消えてしまう
だから
気にしなくていい
この想いも泡になる
泡になって
消えてしまう
消えてしまうだろう
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「抜け殻」
二人の関係がよかった頃の言葉を
思い出し つないでも
そんなものには意味がない
二人の関係がよかった頃の言葉は
二人の関係がよかった時にだけ正しく機能する
二人の関係が変わってしまった今では
そんな言葉など
もうとっくに死に果てている
見てみろ
ただの抜け殻だ
おまえが抱いているものは
抜け殻ではないか
力をこめればすぐに壊れてしまうだろう
聞きたくないか
できないと泣くのか
俺が壊してやるがどうだ
愛というものの
なれの果てを
俺が教えてやるが どうだ
愛しき君よ
抜け殻など捨てて
現実の二人を見てみろ
そこに希望があるのが見えないか
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「好きになるために 自分をだます」
人は
相手の自分に似ているところ 好きなところを
選択的に見て近づき
似てないところ 嫌いなところを
選択的に見て 離れていく
どちらの時も相手は同じだったのに
好きになるために自分をだまし
嫌いになるために自分をだましている
恋をしないように努めることもできるし
恋をするように自分をしむけることもできる
そのことがわかっていて
どうして
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「君へ」
君は好きなことを、
好きなふうにやるべきだ。
そのことが他人から見て、どんなに変でも、
損でも、バカだと言われても、
気にするな。
だって彼等は、君の願いを知らない。
君が何をめざし、
何に向かっているのかを知らない。
君は彼等とは違うものを見てるのだから。
あの、強い思いだけを、繰り返し思い出して。
そのことを忘れないで。
他人の説教やからかいなど気にせずに、どんどんやりなさい。
けして周りを見たらダメだ。
仲間はいないんだ。すくなくとも途中には。
君はやりたいように、どんどんやりなさい。
やりたいことを。
好きなやり方で。
その行為が同時に君を救うだろう。
その行為は同時に人をも救うだろう。
そのことを忘れないで。
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「希望」
俺達は
いっせいに
おどろき あこがれた
この空の青さ 広さ
見たこともない
狭い路地の上に広がる
青さ まぶしさ
いまなにか
聞こえた?
なにか
胸が躍るようなものじゃなかった?
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「答え」
悩みの答えは
外からもたらされる
まったく関係のない
誰かの言葉の中にある
耳に飛び込んできた
ひとことの中に
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「記憶のすきま」
乱暴にかきいだき
涙にも溺れて
あなたの
腕を
つかんで走る
どこまでも翻弄された
日々
太陽と月が
幾度も
行き交い
自分が
自分では
なくなったような
風と雨が
幾重にも
重なり
そのすきまに
落ちて
苦しかったような
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「好きと嫌い」
嫌い嫌い大嫌い
とても嫌いだわ
あなたの
顔も
性格も
そんなふうに見るところも
でも
好き好き大好き
なぜかしら
嫌い嫌いといったあとなら
大好きといえるのよ
とても意地悪な気持ちに襲われて
どうしようもなくなって
あなたにひどいことをしたあとは
とても大好きになるわ
あなたの悲しそうな暗い目が
好き
わたしを憎んでるような
暗い目が好き
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「未来において」
君とすごしたこの夏
打ち上げ花火がはじけてた
ポケットはなにをするもの?
ポケットには愛を入れるよ
愛のかけらを入れるよ
落っことさないように
蓋をしよう
誰にも見せないように
秘密にしよう
君と僕だけの秘密だよ
暗闇に
オレンジ色の明かりで
僕らの秘密がキラリと光った
僕たちは
同じ星の上にいるんだよ
今からそれぞれの場所に帰るけど
見ててごらん
そっちと
こっち
遠くから視線を交わそう
もっと遠くに離れても
もっともっと
遠くでも
わかるね僕が
いつか
人波の中で
目が合ったら笑おうね
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「白い空」
羽ばたく鳥の
遠い後ろに
ひろがる空
白い空
散りぢりになる葉っぱ
風の音
憧れたあの人
憧れが
消えていった
消えてしまった
今日
白い空に羽ばたく鳥の
広い背中にひろがる空
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「やさしい人」
やさしい人でした
どう聞かれても
それしか答えられません
乱暴で
強情で
弱虫で
ひとりよがりだったけど
どうしてか
思い出すのは
やさしいところばかり
他の誰にもそんなところはみせなかったし
誰も信じてくれないでしょうが
私にだけは時々とても
悲しいくらいやさしかった
ひどいところもたしかにたくさんあったけど
やさしい人でした
不思議だけど
それしか思い出せないのです
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「忘れな草と青い空」
忘れな草が咲いていた
道に線を引いて
その上を歩いた
どこまでも
道が途切れるまで
見上げると青い空だった
君がいた頃は
なにもわからなかった
本当に
何も
どんなに君を好きだったかも
人との関係も
大切なことも
失ってはじめて気づいたけど
今だってたぶん
まだまだ霧の中だ
遠く過ぎないとわからないなんて
どうすればいいんだ
ひとつだけわかったこと
胸に深く刻んだことは
大事にすること
とにかく
大事にすること
好きなものはどんなときでも
ただ馬鹿みたいに大事にすること
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「すみわたる夜空のような」
何かがだんだんあいまいに死んでいくようなつきあいより
すみわたる夜空のような孤独を
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