銀色夏生  「とにかく あてもなくても このドアを あけようよ」  (幻冬舎文庫)



みごとに汚れなき瞳
今ここに
横たえて
君が しもべとならん

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あなたを疑うことは
自由を疑うこと
もう おかしな真似はしない
そして後悔もしない

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人知れず君に
思いを馳せる癖があり
何を見ても
それが


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快楽と恐怖
倦怠と明晰
ふみこむこと
強くつかんでうばうこと

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「微苦笑」

どうしようもない気持ちにつきうごかされて
苦しく笑う
僅かな動きに気づかれなかったことをいのる
今でもまだ忘れてないことを
気づかれなかったことを

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「葉っぱと原点」

厳しさの中のちょっとした甘さというのや
安らかさの中の激しさのひとかけらが
どんなに
苦しい労働の間の休息みたいだったか

あなたの持っていた
すばらしい性質は
そんなふうなところにも
顕著にあらわれていた

あなたとあの状況の下でなら
一生懸命何も考えずに働ける
いつだってそこへふたたび
飛びこみたいと思う

遠くへすぎていった日々
もうそこから
はるかに遠いここへ
来てしまった今でも


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「氷の青さ」

君が悪く 人に見せているのを知ってる
何をうたがい 何を信じきれずにいるのか
誰にも理解を望まず
誤解されても平気な顔で
胸の痛みに気づかないふりをしてる
それてもその痛みを見すえているのか
君ほどの人に
見える現実

氷の青さ

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砂浜で小石をひろって並べた
三センチくらいの石
それから本を読んだ
しばらくしてポツリポツリと雨が降ってきた
見ると 石の上にも雨が
この雨のてんてんは
高い空からひとつずつここへ落ちてきた
こんな小さな石にも
こんなに小さな雨はそれぞれに距離をもっている
そして まっすぐにここへ
空の上の雲から

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急げ急げ
この世はまぶしく
人生は短い

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急げ急げ
猛スピードで
やりおえて
残りの時間は
自分のために

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人がもつ力はどのくらいあるのか
私の今までの中で
私がしたことといったら
ほんのすこし
もっともっとたくさんのことをして
限界を知りたい
ギリギリまで
あっちの限りから こっちの限りまで行きたい
そして決して ぼろぼろにならず
強く笑って 帰っていきたい

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バランスが変わる瞬間に
サッと緊張感が走ったが
それに気づいた人はわずかだった

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「汚れなき消息」

いつでもどこからか
あの人が見ている気がする
いつまた会うかもしれないから
まだ気をぬけない
まだ試合は終わらない

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その一歩が
私を すくい ひきあげる

その一言が
私をすくい ひきあげる

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冷静さ おとなしさ 一途さ
あなたが私に求め
そして結局 得られなかったもの
だって しかたないでしょう
私の心は あまりに ひきつけられやすく
世界はあまりに次から次へと
興味深いものを出してくるのよ

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「進化」

僕らが歩んできた道は 長い長いはるかな時間
海の中の長い時
地上にあがった長い時
点々よりも小さな今と気が遠くなるこれまで

そして皮肉な君と僕 素直じゃないのも進化のひとつ

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君知るや 野バラ 君知るや つめたき頬 目をつむり

おとがいを 天に向け きつくたたずむ君を 君知るや

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「見えない永遠」

永遠は目に見えないから
ないのかもしれないと思う
いつのまにか移りゆくものばかり

永遠は手にとれないから
ないのかもしれないと思う
触れればあとがつき壊れるものばかり

ずっと考えてばかりだった
最後までたどり着けず
答えはでない

でも救いはあるだろうとあなたは言う
どんな とたずねてみる

あなたは大人で
ただそのことだけでも
私は追いつけない
私より多くを知ってて
経験もある

経験には 勝てない

私が永遠のことを考えはじめると
大人のあなたは笑う

私だって永遠なんてものに
それほど興味があるわけじゃないわ
あなたが近づいてくれないことが
悔しいだけなの

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私が力を失うとき
どうぞ
力を失くしたまま
長くいさせないでと願う

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悪いことばかり考えても
しかたないでしょう
何をしたくて
何を願っていたの

ほんのすこしでも
好きなことをするために
知恵をしぼらなきゃ

じっとして ここで
イヤなことばかり
思いうかべていたら
本当にこのままじゃない

とにかく
あてもなくても
このドアを
あけようよ

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