銀色夏生 「君はおりこう みんな知らないけど」 (角川文庫)
自分はあそこにいたんだと
気づいた時には もう
そこにはいない
ふりかえることができるのは
そこを通りすぎたから
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どうか
ああいう気持ちを失わずに
大人になって下さい
どうか
ああいう場面を味わわずに
大人になっていって下さい
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やろうとしていることが正しいのだと
思わなければ
百もの迷いもわいてくる
やろうとしていることが正しいのだと
思う心が
百もの山を越えさせる
やろうとしていることが
正しいかどうかは
誰に聞けば
わかるんだろう
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相手が自分に関心をよせてくれない以上
それは「会った」ではなく「見た」だ
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長く見てきてわかったことを言う
長く見てきてわかったことは
短い間でわかることと
すこし違う
短いものも
その後というものがあり
長いものでも
これからがある
途中である今の時点で
ある種の感想をもつことは自由だが
今が終りでないことだけは確かだ
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精神統一
それから
一粒の砂のように静かに
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あなたが私を愛さなくなったからといって
あなたを責めたりはしない
あなたの思いやりがもう感じられないからといって
あなたにそれを求めたりはしない
あなたの前に私は無力だ
旅立つあなたにさようなら
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「雨の日」
雨つぶが落ちてきた
苦しい僕は
気が晴れず
下を向いたまま 歩き続ける
雨つぶはアスファルトにしみこんで
丸い円になる
僕の心がわかるだろうか
僕の心がわかるだろうか
はじめての
知らない気持ちへきてしまった
帰り道がわからない
雨つぶの丸はふえつづけ
もうアスファルトは丸でいっぱい
丸の上を
僕は進む
雨は絶えまなく落ちてくる
僕の心は変わるだろうか
僕の心は変わるだろうか
あの人を思いたいけど
あの人は好きになってはダメな人
あの人を
黙ってそっと好きなままで
いつまでもいられたらと
願うけれどもどれは苦しく
忘れることもまた悲しく
ただこの思いをかかえたまま
つめたい雨が落ちるのを見る
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消えゆく人を見た
後ろ姿が小さくなり
輝いていた面影が重なった
あんなに強く美しかったのに
あんなに太陽みたいだったのに
人はどんな方向へもころがる
今は普通のしあわせを
価値あるものと
とらえよう
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あなたのことを考えてたよ
すごくいい気分だった
どんどん力がわいてきて
悩みまで忘れた
あなたのことを考えると
どうしてこんなに
元気になるんだろう
あなたのことを考えて
歩こう
その間は
強く思い出していられる間は
弱い考えのはいるすきがないんだ
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君はおりこう
みんな知らないけど
君はおりこう
みんな知らないだけ
君はおりこう
僕もしらないけど
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