銀色夏生 「気味のそばで会おう」 (角川文庫)

 

「微粒子」

希望的観測で思いにふける

窓を開けて外へ出ると

頭に肩にふりそそぐ

朝の微粒子

 

深く高く吸いこむと

胸の奥から つきさした

 

希望が我にかえった

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あなたが好きだと言う女の子と一緒に遊んだ

あなたの近くにいるような気持ちに

すこしでもなりたくて

 

あなたが好きだと言う女の子と一緒に遊んだ

その子にかなわないところをみつけて

早くあなたをあきらめるために

 

その子の素敵なところを胸にきざみつけて

最後にひとりで泣こうと思う

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「あのカケラ」

月の色の月のカケラ

氷のような頬にふれる感触

この胸の痛みの感覚

レモンのつめたい味

静寂をつき破る静けさの切っ先

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青く染った海の色

確かめてみたくなる

あなたの本心

このまま黙って

ただのきれいな海だと

言いあっていればいいのでしょうか

あなたの笑顔が凍るのがこわくて

中途半端にしあわせな恋

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「時の配分」

見つめ合った時間だけひとりの時間が深くなるなら

この今の時間は あなたと共有しているこの時間は

いったい誰の時間だろう

僕たちの時間は僕のものでも あなたのものでもなくて

恋のものだ

その恋を失った時に

僕の中で失ってしまう時間というものを覚悟しなければ

今 あなたの口からこぼれる愛の誓いにも約束にも

いさぎよく身を投じることができない

 

あなたの瞳の配分をゲームのように理解して

あなたの嘘の配分をおやつのように楽しんで

薄いラベンダー色の便箋にあなたに夢中な人への言葉を真剣に書いている

かわいらしい浮気者の

うわの空の口づけを待っていた

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「苦しい恋」

苦しい恋の羽の下

すこしだけ息をしながら

どうしようかと考えた

どうしてこんなに世界が

せまくなってしまったのだろう

すべての考えがみんな

彼へと向かっていく

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「大事な言葉」

大切に大切にしていた大事な言葉

あの人が私をよろこばせてくれたひとつの言葉

何度も何度も思い出しては悲しい時に使った言葉

今日限りでもう忘れようと思ってる

たぶんあの人はもう忘れてるだろう言葉

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「夢の嵐」

あなたへと手をのばした

できるだけ近くへ この願いが届くように

私たちは結ばれない恋だった

それをどうすることもできなかった

私がいけなかったのかも知れない

 

開けはなした窓へ聞いてみる

強い風に体を打たせて 空に雲に聞いてみる

 

夢は嵐のようだったのに

熱い陶酔に胸がふるえたのに

恋はどちらかをいつもおきざりにして 先へ進んでいく

すこし遅れた時に私が あなたをつめたいと思い

すこし遅れた時にあなたが 私を気紛れだと言った

 

私たちは結ばれない恋だった それをどうすることもできなかった

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「ひどい分かれ」

彼女は彼に問いかけた

別れてもずっと忘れないで

彼は彼女を愛してたから

そんな約束は守れない

そんなつらい約束は

 

彼女は彼を抱きしめた

別れてもずっと好きでいて

彼は彼女を愛してたから

そんな彼女をつきとばし

涙の恋をふりほどく

 

愛が少ない方が勝ち

情に負けない方が勝ち

 

彼は彼女に問いかけた

別れずにずっとそばにいて

彼女はまだほんの子どもだから

そんなことはめんどうだ

そんな深刻なことなんて

 

彼は彼女を抱きしめた

好きならばそれでいいからと

彼女は愛がこわかったから

彼の言葉に笑いだし

子どものふりをつづけてた

 

愛が少ない方が勝ち

情に負けない方が勝ち

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私が もうすっかり忘れてた

いつか私が言ったという言葉を

あなたは大切にもっていて

私を おどろかせた

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「雨にぬれて本当のことを言ってしまおう」

別れてからあと幾日

僕たちはほほえみ合い

わずかな痛みを忘れ合う

 

別れてからあと幾日

泣いたり心を凍らせる

終らないと思っていた恋の中で

台風の後のようなすごい青空

 

好きだよ

心から好きなんだ

本当に

 

悲しいことばかり言ってごめんね

あんなこと みんなウソだからね

君を追いつめて試しただけなんだ

知ってると思ってたよ

 

気にしてたなんて知らなかった

捨てられたのは僕なんだ

本当に好きだったんだ

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「君のそばで会おう」

終ってしまった恋がある

これから始まる恋がある

だけど

僕たちの恋は決して終りはしない

なぜなら

終らせないと僕が決めたから

 

自信をもって言えることは

この気持ちが本当だということ

 

いろんなところへ行ってきて

いろんな夢を見ておいで

そして最後に

君のそばで会おう

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