このグラウンドで、いちばん高い場所。


ねぇ与作。

与作はここからどんな景色を見てたの?
今私が見てるのと、同じものかな?




与作がここに立ってボールを投げる姿を私はずっとずっと見てきたのに。
与作が見ていたものを、私は知らない。


与作はここに立って、バッターボックスを見て、キャッチャーの構えるミットを見て、

それから。

その向こうの空を見てたのかな。




フェンスのずっとずっと向こう。
風が吹いて羽根が舞って、鷹は甲子園の空まで飛んでいく。




過去は変わらず時は流れ、私の時間は前に進んでいく。
与作は今どうしてる?

死んだ人間の時間は、一体どうなるの?
全てが終わって立ち止まったままで、そこから動けないの?

そんなの、らしくなくて思わず笑っちゃう。
あの与作が。
あの与作が立ち止まるなんて、考えられない。
与作はいつだってどんなときだって、足を止めることなく走り続けてた。

だからきっと。
今でもボールを握って、今でもいつもの道を走って、
そして今でも、大好きな野球を続けてる。


これは独りよがりの錯覚だろうか?
大事な人を永遠に失うことを恐れた、遺されたものの我儘だろうか?
それでも、どうしてもその想いが捨てられない。




『鷹の球だった』と言った人がいた。
あの球を最も近い位置で見た、天才と呼ばれる男が、そう言った。
そして私も、あのマウンドに与作を見た。
ありえないと分かっていても、あそこには確かに、与作が居た。




一陣の風が吹く。

羽根が舞う。

そして鷹は空を飛ぶ。




ねぇ与作。

ここは少し、ほんの少しだけど、
空に近いよ。





『あなたに、届くかな』

3巻書き下ろし万歳!!
泣いちゃダメだぜ美咲ちゃん!


2007/05/19 UP

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