「あ」

 「…どうした、チビ」




布団に入る直前に開いた携帯画面を見て、思わず声を漏らす。
窓から屋根に出ようとしていた鷹見くんは、その声につられて動きを止めて振り返った。






 「明日、オレの誕生日だ」






何となく笑いながら鷹見くんにそう言うと、相変わらずの表情で返された。



 「ほー。 ……で?」

 「へ?」

 「誕生日じゃけー、何かくれって言いたいんか?」

 「べ、別に催促したわけじゃないよ」



腕を胸の前で組んで壁に寄りかかった鷹見くんにそう言われて、
ブンブンと両手を振って慌てて弁解する。
男友達から誕生日プレゼントなんて、そんな恥ずかしいモノ催促するわけはないし、
別に期待もしていない。



 「ムリだぞ」

 「………あー」



鷹見くんの言葉を聞いて、ポンと手を打った。

今の鷹見くんがお金を持っているわけもなく。
持っていたとしても、買い物に行けるわけもなく。

そもそもオレにしか触れないんだから。


期待する以前の問題だった。




 「……まぁ、うん、気持ちだけで…うん…」

 「………」



何と反応していいか分からず、結局適当に言葉を濁して電気を消した。











翌朝。
呑気な目覚ましの音が部屋に鳴り響く。
バチンと止めて時間を確認すると、相変わらず設定より早い。

んーーーっと伸びをして、部屋を見渡すが鷹見くんの姿は無い。

いつもなら目覚ましが鳴る前に部屋に入ってきて、遅れようものなら叩き起こされるのに。
首をかしげつつ、ゴソゴソとランニングの準備を始める。

ジャージを履きながら、「鷹見くーん?」と呼んでみた。
すると窓の外、屋根から逆さに鷹見くんが顔を覗かせる。



 「なに、寝坊?」

 「誰が寝坊じゃ、ボケ」

 「ランニング行かんの?」

 「行くに決まっとろーが」



どことなく不自然な態度だったが、気にせずに家を出た。

違和感を感じたのは、それだけではなかった。
途中でヘバってスピードが落ちたり愚痴ったりしても、鷹見くんは殴ってこなかったのだ。

普段弱気な発言の一つでもしようものなら、すかさず鉄拳制裁が下るのに。

この日は、さすがに口では文句を言うけど手は出てこなかった。








学校では、誕生日を覚えていたらしい友人らが昼食にジュースやらを奢ってくれた。
桐嶋くんや峯扇くんは、朝一番で目が合った瞬間に「おめでとー」と叫んできた。

正直、昨夜思い出したきり誕生日なんて忘れてたので、2人に叫ばれたときも首をかしげてしまったが、
だけどまぁ、おめでとうと言われて嬉しくないわけはない。
昼飯も奢ってもらったし、やっぱり誕生日ってのはイイなとしみじみ思った。







放課後、練習を終えていつものように走りながら帰宅する。
このときも、妙な違和感を感じて落ち着かなかった。




 「……ねぇ鷹見くん、何か今日おかしくない?」

 「……ヌ」



斜め上を見上げながら遠慮がちに聞くと、鷹見くんはふいっと顔を逸らした。



 「いつもならこう…ガンガン殴ってくんのにさ、今日はいっぺんも殴られてない気がするんだけど…」

 「………」

 「どしたのさ、……どっか体調悪いん?」



死んでる人間の体調気にするってのもおかしな話だけど。

鷹見くんは小さく唸ったあと、相変わらず顔を背けたまま小声で呟いた。




 「……誕生日なんじゃろ」

 「…………へ?」




自分の耳を疑って、思わず足を止めてしまった。
鷹見くんはフワフワ浮いたまま、顎のあたりを指で掻いている。




 「ワシは、モノはやれんけぇな」

 「…………あーー………」





つまり。

気持ちをくれたってことで。


鷹見くんなりの気持ちっていうのは、暴力を振るわない、ってことで。

今日一日無傷なオレの体が誕生日プレゼント、ってことで。



笑いをこらえて、口元がフルフルと震えてしまう。
それに気付いたらしい鷹見くんは不機嫌そうな顔で振り向いたあと、また顔を背けた。






 「……鷹見くん」

 「何じゃ…」



止まっていた足を動かして、前にいた鷹見くんの隣に並ぶ。
鷹見くんは逃げるように移動したので、軽いランニングの早さで追いかける。




 「おめでとうって言ってくんない?」

 「……あぁ!?」



ニコニコと笑いながらそう言うと、鷹見くんはものっすごい嫌そうな顔で見下ろしてきたが負けじと見返す。



 「誕生日なんだよ」

 「………」

 「1年に1回なんだから言ってくれてもいーじゃんかよー」



頬を膨らませて、催促するように鷹見くんの背中をバシバシ叩く。


邪魔そうに羽を羽ばたかせた鷹見くんはあーーーと小さく唸って、それからボソリと呟いた。





 「誕生日、オメデトウ……」

 「…………」




何だか鷹見くんの照れた顔を見るのは初めてだったので、思わずその顔を凝視する。
再び立ち止まってしまい、その隙に鷹見くんはさっさと先に行ってしまった。



 「あ、ちょ、待ってよ!」

 「トロイ奴は置いてく!」



慌てて駆け出して、その背中を追った。




横に並んで走りながら、チラリと横を見上げる。

茜色の夕日を受けて、鷹見くんの顔が赤く染まっている。
きっとオレの顔も、同じように赤くなってるんだろうな。





 「…鷹見くん」

 「何じゃ」

 「これからも、ヨロシクね」

 「……コチラコソ」





『茜色の空に、溢れた詞は』

たろちんバースデー、ということで。
鷹太風味…うん、風味だけ……。


2007/02/18 UP

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