「お邪魔しまーっす」

 「ヌ?」



ノックの音を聞いて振り返った与作の目に、ノート数冊を抱えた美咲の姿が映る。
椅子の背もたれに片肘を乗せて体をねじり、ジロリと睨んだ。
だが勝手知ったる幼馴染の部屋、美咲は構わず中に入ってきた。



 「何じゃ」

 「ノート見せて! 今日の英語、ちょっと寝ちゃったんだ」

 「……そんなんじゃけぇお前はテストの点が――」

 「あーー分かってる、言わないで。 英語は苦手なの!」



勉強机に広げていたノートを閉じて、与作は立ち上がった。
ベッド脇に置いていた鞄の中から英語のノートを取り出し、それで美咲の頭を軽く叩く。



 「ありがと!」



満面の笑みの美咲はテーブルにノートを置いてそのまま座り込んだ。
与作はぎょっとしてそれを見下ろし、今度は手刀でビシリと美咲の頭を叩いた。



 「いたい!」

 「何する気じゃお前は」

 「借りて帰ったら与作が困るでしょ? ここで写すから」

 「………」



美咲は頭をさすりながらテーブルの前に座りなおしてノートを広げ、カチカチとシャーペンの芯を出す。

しばらく立ったままそれを見下ろしていた与作だが、諦めてその隣に腰を下ろしベッドに背もたれた。
両手を頭の後ろで組んで、首を逸らせて布団に後頭部を埋める。

チラリと横目で隣を見ると、美咲は一心にノートを見下ろし手を動かしていた。



 「…………」

 「…なに? ごめんね、早くするから」

 「…………」



一瞬与作に視線を寄越した美咲は、慌てたように手の動きを早くした。

与作はバレない程度の溜息をついて、天井のライトを見上げる。


眩しいその光が、段々と眠気を誘ってくる。
そういえば今日は、いつもより5キロほどランニング距離を長くした。
その程度で疲れるとは、まだまだだ。
ぼんやりとそう考えながら、与作は意識を手放して行った。












はっと目を覚ます。

再び眩しい光が目に飛び込んで、与作は一瞬今自分がどこにいるのか分からなくなっていた。
だがすぐに思い出して、頭を起こして隣を見ようとした。

が。

動けなかった。




年頃の女子であるはずの幼馴染は、
これまた年頃の男子である与作の肩(というか胸)に頭を寄りかからせ、
同じようにベッドに背を預けてすぅすぅと寝息を立てていた。



 「……………オイ」

 「…………(すーーーー)」




与作はゆっくりとした動きで、頭の後ろで組んだ手をほどいた。
筋肉が不自然に固まっていて、妙な動きになる。
美咲が寄りかかっていない右腕はそのまま体の横に投げ出す。

左腕をどうしようかとしばらく空中を彷徨わせて、
チラリと隣を見下ろした与作は、ゆっくりと美咲の肩に腕を回した。

いつもはボールを握るだけのゴツゴツと硬くなった指が、今は美咲の柔らかい髪に触れている。

美咲はそんな与作の動きに気付きもせず、相変わらず気持ち良さそうに眠っていた。




 「……呑気なヤツ…」



有難いやら、じれったいやら。




幼子にそうするように、与作は美咲の頭を優しく撫でながら、再び目を閉じた。




『好きだよ、そう囁きたくて』

甘くね?(笑)
甘酸っぱい青春的な。
そんなノリで。
適当適当。


2007/02/03 UP

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