「・・・・高い」







超と書いてスーパーと読む。
超金持ち学校の私立桜蘭高校の第三音楽室にて。
ハルヒは一人、変えようの無い現実と戦っていた。









今日の最後の授業が教師の都合で自習になった。
ハルヒは素直に勉強でもしていようと思ったのだが、例の双子が絡んでくるため落ち着けない。
仕方なく、2人の目を盗んで部室に逃げてきた。

2年・3年はまだ授業中だ。
第三音楽室、もといホスト部内はシンと静まっていた。

これぞハルヒが求めていた空間だった。




 「最初の日がこうだったらよかったのになぁ・・・」



ここに初めて足を踏み入れ、ホスト部に強制入部させられてしまった日を思い出しながら、
ハルヒは小さく溜息をつく。



 「・・・・ま、いいか」



慣れてしまえば居心地がイイ、とも思えなくはない。

過ぎたことを悩んでも仕方ない、とハルヒはテーブルに教科書を広げ、勉強を始めた。














 「・・・そろそろみんな来るかな」



1時間が経ったころ、授業の終わりを告げるベルが鳴る。
本を閉じてテーブルの上を片付け、うーんと伸びをする。

いつもは遅刻してばっかりのハルヒだが、今日はどう考えても一番乗りだ。


せっかくだからと、ハルヒはティーセットや切れていたリーフを準備しておこうと戸棚を開ける。




そして気付いたのだ。



届かない、と。









ホスト部の面々は、その活動内容から分かるように、みな容姿端麗である。
当然、スタイルも良い。

身長は双子でさえも180cm近くある。
例外はハニー先輩だが、彼の場合は定位置がモリ先輩の肩の上なので、
必然的にある意味一番高いトコロにいる。


そんなわけで、
紅茶のストックやらカップやらが、ハルヒが精一杯手を伸ばしても届かないところに平気でしまってある。
それでも一応はハルヒの身長に合わせて、入部後は“内装のお引越し”をしてくれた部分はある。
だがさすがにストック分まで全部下に移動させるわけにはいかなかったようだ。



ハルヒは必死に手を伸ばす。
つま先立ちでプルプルと震えながら、指がつりそうになるほどに。

だが哀しいかな、この身長で届くわけもなく。



いったん踵を下ろして、息を吐く。
どこかに踏み台は無いかと向きを変えて、いきなり現れた壁に思わず声を上げる。




 「ひゃ!!?」

 「・・・・」

 「えっ、あ、モリ先輩でしたか」




壁かと思われたのは、モリ先輩こと崇だった。


入ってきたことに全く気付いていなかったハルヒは、バクバクする心臓を抑えつつ崇を見上げる。




 「ハルヒ、どれ?」

 「え?」



崇はハルヒの隣に移動し、戸棚に手を伸ばす。



 「あ、あの奥のヤツです。ダージリンの・・・」

 「・・・・・」




ハルヒがどう足掻いても手の届かなかった棚から、崇はひょいっと紅茶の缶を取り出した。



 「えぇと、それじゃなくて・・・。 あ、それでもないです」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」



戸棚の前で彷徨う崇の手。

えーと、と言葉を選ぼうとするハルヒ。




しばらくの沈黙のあと、唐突に崇はひょいとハルヒを持ち上げた。

ただし、いつもの拉致時における“荷物抱え型”ではなくて、片腕でそっと抱き上げる。



 「・・・・そういえば、モリ先輩が初めて名前を読んでくれたときにも、こんな抱き方してくれましたよね」



ハルヒは思い出したのか、崇の腕の上でふふと笑う。
それを見て崇も微笑んだ。



 「ハルヒ、紅茶は」

 「あ、そうだ、えーと」



ハルヒは崇に抱かれたままで、戸棚の奥からリーフの入った缶を取り出す。



 「コレですよ、モリ先輩」

 「あぁ」







 「あーーーハルちゃん! 崇に抱っこーーー!!」




どーんと扉を開けて部屋に飛び込んできたのは、ハニー先輩こと光邦だった。
光邦はいつものように花を飛ばしながら、2人の傍にパタパタと駆けてくる。



 「あ、交替しますかハニー先輩?」



ハルヒがそう言うと、光邦はニコニコと笑った。



 「気持ちいいでしょーハルちゃん?」

 「え?」

 「高くてねー、あったかくてねー、気持ちいいでしょー?」

 「・・・・・・」




光邦に言われて、ハルヒはふと今の自分の状況を考えた。

自分の身長からは決して見ることはできない視界。
今まで見上げるだけだったものを、見下ろしている。
毎日来ている部室なのに、まるで違う場所のようだった。

こんな高いところなのに、不思議と不安定さは感じられない。
しっかりと崇がハルヒを支えているからだ。

その腕の温もりが制服を通しても伝わってくる。

強くて、優しくて、温かい。





 「・・・はい、確かに気持ちいいですね」



ふむ、と納得した顔でハルヒは答えた。



 「そうでしょうそうでしょう〜〜今日はハルちゃんにその場所貸してあげようねぇ〜〜」



光邦はそう言ってまた花を満開に飛ばしつつ笑って、うさちゃんを抱えてソファの上にボスンと寝転んだ。



 「ぼくはお昼寝するからね〜」

 「・・・・・光邦、歯磨き」

 「・・・・はいは〜い」



ハルヒを抱いたままの崇がポツリと言うと、
光邦は若干不満そうに、ペタペタとレストルームに向かって行った。



 「・・・・・」

 「・・・モリ先輩、もう下ろしてくれていいですよ?」



ハルヒは紅茶の缶を両手で持って、崇をじっと見つめる。
光邦の後姿を見送っていた崇は、その言葉で視線をハルヒに戻し、まっすぐ見つめ返す。



 「・・・・おりるのか?」

 「・・・・・・・・じゃあ、もうちょっとこのままで」

 「わかった」




崇の制服をぎゅっと握り、ハルヒは何故だか嬉しくなって微笑んだ。
崇もそんなハルヒを、愛しそうに見つめる。







光邦と入れ違いで部屋に入っていた環たちがその光景を目にして砂と化していた事に、2人は全く気付かなかった。





モリハルが好きなんだ。
モリ先輩は素敵すぎると思う。

約1年前に書いた文章。
…成長が無いなオレ………。
加筆訂正なんかしないんだという無駄な男らしさを表してみる。

2006/07/26

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