グレンのコックピットが開かれて、キタンとダヤッカの2人が彼の体をそこから出した。

ぴくりとも動かない彼は土の上に横たわって、雨を全身で受けている。
誰もが無言で、ほんの少しだけ距離をあけて彼を囲むようにその姿を見下ろす。
すすり泣く音が漏れて、誰かが「くそっ」と呟く声がした。

シモンは彼に近づかない。
離れたところで呆然と、彼を見つめている。

思うことは、きっと私と同じ。



近づけない。

見たくない。

知りたくない。

認めたくない。



それなのに、知らず足が一歩を踏み出した。

一番彼の近くにいたキタンとダヤッカがそれに気付いて、道を開けてくれた。


彼の横に立って、じっと見下ろす。



 「………」



声が出ない。

名前を呼べば、起きるような気がした。
何だよと言って大きな欠伸をして、それから笑って。

そうだ、きっと眠っているだけなのだ。
あれだけ激しい戦いをした後なのだ、疲れてぐっすり眠ってしまっても仕方ない。

だからきっと、呼べば起きてくれる。


名前を。




カミナ。




それなのに、声が出ない。

ペタリと座り込んで、手を伸ばしそっと濡れた彼の頬に触れる。
まだほんの少し暖かい。


ねぇ起きて。


声が出ないから、心の中で呼びかける。




カミナ。


カミナ。




撫でるようにゆっくり指を動かして、返事を待つ。
背後で「ヨーコ」と心配そうなダヤッカの声がした。


分かってる。

分かってる。


カミナは、死んだ。


もう目を開けることはないしもう笑うこともないしもう私の名前を呼ぶこともない。



彼の頭を持ち上げ、太腿の上に乗せて胸に寄せる。
もうあの力強い鼓動は聞こえない。

雨に濡れる彼の体を、しがみつくように抱き締める。



 「………やめて」



もう、これ以上、降らないで。

彼が冷たくなってしまうから。





 「………カミナ」





ようやく絞出した彼の名は、止まない雨に流された。






『冷たい雨』

8話の後。


2007/10/03 UP

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