生きてたの




そんなバカみたいなことを言いそうになって思わず自嘲した。
顔を上げれば、何も言わずに微笑んでいる彼がいる。




 「…また、逢える、なんて」



途切れ途切れに言って、それからは言葉が出てこなかった。



 「そうだな」



数年ぶりに聞くその声で、まるでライフルで撃たれたみたいに心臓を跳ね上がらせて、
それなのに妙に落ち着きを取り戻す自分がいる。

あの日からその姿をその声を何度も何度も頭の中に浮かばせていた。
それでも7年という年月が自分の中の彼の姿を霞ませていく気がした。

だけど

今この目で見た彼の姿は、この耳で確かに聞いた彼の声は、
思い浮かべてきた7年前となんら変わりはなく、頭の中に存在し続けた彼というものとも全く変わりはなかった。
共に過ごした時間などこの7年に比べればほんのわずかな時間だったのに、
自分の知る彼の全てがいまだにこんなにも鮮明に記憶に残っていたことに正直驚いた。




 「こんなトコで、何してんの」

 「そりゃこっちのセリフだ」

 「……確かにね」



ここは私にとっての現実ではない。
もしかしたら存在していたかもしれない『現在』ではあっても、この『私』の居る場所ではない。

どくりと臍の奥あたりが熱くなって、あぁシモンだと感じた。
シモンだけではなくダヤッカやリーロンの存在も同じように全身を流れる血で感じた。

顔を空の彼方へ向け、淡い緑の光が見えた気がして大きく息を吸って、それから吐いた。


空から視線を戻すと、やっぱり彼は笑っていた。




 「……10倍返し、覚えてる?」



そう呟くと、彼は困ったような顔になって、それでもやっぱり笑ってもちろんと答えた。
あんたのせいであたしたちがどれだけ泣いたと思ってんのと言いながら、
もう流さないと決めた涙が溢れてきて、ごしごしと乱暴に目元をこすってから笑ってみせた。
知ってる、と彼は言って、悪ぃなと笑った。


手を伸ばせばすぐに触れられる距離にいるのに、きっと触れることはできないんだろう。
全身で彼の存在を感じているのに、決してこれは夢や幻ではないのに、それでも。

戻らなければいけない。

目の前にいる彼はもう死んでいて、そして私には戻るべき場所がある。
私にはまだすべきことがあるし、何より体の奥で疼く熱が戻れと叫んでいる。

体の中で感じるみんなの存在はどんどん強くなってきて、戻るときが近づいているのがわかった。


戻らなければいけない。

自分の意志で。





でも




体の奥で、心臓よりももっと奥、小さな小さな細胞が、声無き声でここに居たいと叫んでいる。

ここに、今この場に。


ここに残れば、また彼に逢えるのだろうか。
昔と同じように笑ってくれる、彼に触れることができるのだろうか。
彼が生きる『現在』で、私も一緒に生きることができるのだろうか。


もはやそれは発作に近く、どんどん大きくなるその思いを留めることはできそうになかった。
心臓はドクドクと脈打ち、呼吸が次第に息苦しくなる。
生理的な涙が溢れそうになったがそれでも口を開くことはできなかった。




 「ヨーコ」




名を呼ばれて、ふいに体が軽くなる。




 「俺はお前といる」




彼は自分の胸のあたりを拳で軽く小突いた。




 「忘れんな」




伸ばされた彼の手が、私の肌を撫でることない。

それでも、感じた。

最初で最後の口付けで触れた彼の温もりを、あのときと同じように感じた。





 「――カミナ」

 「ん」



7年間呼べなかったその名前を口に出したら、一緒に涙まで零れそうになったからぎゅっと目を瞑って、
それからまっすぐ彼の瞳を見た。




 「好きよ」



言いたくて言いたくて、それでも言えなくて、結局永遠に言うことができなくなってしまったその言葉。



 「あんたが好き、ずっと、ずっと」



ひとつひとつの言葉を、まるで宝物のように大事に口にする。



 「あぁ」



彼は少し首を傾けて、変わらぬ低い声で言った。




 「俺もだ」






ここが『私』の『現実』でなくとも、確かに存在したこの真実を、私は永遠に忘れない。







 「ありがとう」


 「行って来るね」





『現実と真実と、永遠』

グレラガ最高だ……。
UPする前に解放版6話を見てしまったので、どうにも微妙(笑)。

2007/09/27 UP


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